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やっと君を【side ジーク】
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やっと郁美を連れ出すことができた。
飛行機に乗り、隣に座る彼女の寝顔を見ながら笑みが零れてしまう。
疲れていたのかじっと見ていても視線に気付かず、静かに寝息を立てている。それだけで僕は幸福だった。
彼女の奥からのとがめるような視線などそれに比べたらそこらへんに飛んでいる埃のようなものだ。
「ジーク様、そんなに女性の寝顔を見るのは紳士とは言えませんよ。」
「仕方ないだろう。幸福なんだから。やっと、彼女を連れていける。」
「嬉しいのは分かりますが・・・・最後の仕上げをしていただきませんと、こちらも困ります。」
すでに安定した機内でたちあがったリオウがわたしてきたのはタブレットだった。
それを後ろ髪を引かれながら受け取ると、画面に表示されているのは今日の世界の株価だった。
それは僕が自分で持っている株を表示されており、その数多の企業名の中から目当ての企業を選ぶ。
時間的にはちょうど良い頃だろうと見計らい、それらを売り出した。
そして、他の株も確認してからリオウに返した。
「よろしかったのですか?」
「何が?」
「あの幼子はどうかと思いますが、その親も普通とは思えませんが、従業員はともかくその家族の監督責任は企業にはないのですよ。ましてやグループ企業ならなおさら。他の従業員や企業の上層部からしたらとばっちりもいいところです。」
「確かにそうだけど。でも、あの母親の親戚もプライドが高いし、郁美に対しては褒められた態度じゃなかった。大株主だったから、衝撃として十分かなと思ってさ。それに、日本国内だと大手だから、放っておいても買い手が出てくるよ。いつになるかは分からないけど。」
僕は面白くなってニンマリと笑ってしまった。
他人の不幸は蜜の味
そんな言葉を考え付いた日本人は天才だと思う。
鼻歌を歌っている僕を見て、リオウはため息を吐いた。
「その性分、彼女に気付かれたら逃げられますからお気を付けください。」
「おそらく、郁美はほぼ気付いているんじゃないかな。僕が結構ねじ曲がっているってことはさ。」
「稀有なひとですね。」
リオウは驚いていた。
最初に監禁などといって怖がらせておいてよくいうよね。
君、結構郁美のことを気に入っているよね?でも、渡さないけど。
「まあ、いいか。じゃあ、僕は忙しいから。」
「畏まりました。」
リオウは自分の席に戻った。
ここまで来るのに時間が掛かってしまった。
あのホテルのビュッフェに誘ったのは彼女と2人っきりで食事がしたかったからだ。だから、あの家にリオウの祖父宛で届いた招待状を譲ってもらった。
まさか、同じ日に彼女の元家族とその原因となった娘が来るとは思わなかった。
しかも、騒動まで起こすことは予想外であり、それも向こうが悪者になる方向だったので、それに思わず便乗してしまった。これには内心大笑いだった。ちなみに、僕たちに付き添ってくれたボディーガード2人は呆れていた。
彼らは郁美によって一ひねりにされていておかしかった。ボディーガードを使って追い払うより、よっぽど効果的な方法だった。それにしても、ドイツ語を勉強していたのは知っていたが、初めて聞いた彼女の発音は母国語の人かと思うほどで、僕は驚いたし、他2人も同じだった。
本当に彼女は予想の斜め上を行く。
あとで、その場、ビュッフェ会場にいた知人から誠経由で聞いた話では僕らが去った後、彼らは僕らが座っていた席でランチをして帰ったらしい。ただし、あの席は通常の値段の3倍は取られるのだ。席料金で。それを見た彼らは驚いたようだ。しかし、周囲の目がある手前文句など到底言えず、表面上取り繕って父親がカードで払っていた、と
しかし、お店を出た後は娘の方はご満悦だったが、両親の方は困惑、というか、真っ青な顔色だったようだ。
それを聞かされた時、お腹を抱えて笑ってしまい、電話越しの誠も笑いながら話してきたので良い性格はお互いさまだ。
デパートで初めて見て以来、リオウに郁美の過去とそいつらの繋がりを調査させた。どれだけ資金がかかっても良かったから、全容を知っておきたかった。
デパートで見た元親は確かに甘いルックスのモデルのような2人だったし、真ん中にいる娘も同類の顔をしていた。確かに、郁美があの中に入ったら、周囲からは違和感しかないだろう。
〇が並んでいる中に1つだけ△が混じっているのだ。目立ってしょうがない。
しかも、それが郁美の方がきれいで周囲の視線を1人占めにしてしまう。あのプライドの高そうなブランドで包んだ人達を見れば、それが耐えられないことだっただろうとはすぐに想像がついた。
おそらくだが、理由は完全なる彼女の元親の私的な感情から郁美は今まで家族と出かけたことが手で数える程度だったのだ。
調査していくらも日が経たないうちに郁美のこと、彼女の元親、それと彼らの実子のことが分かった。
詳細にまとめられたレポートを読み込んで浮かんできたのは怒りと喜びだった。
郁美が捨てられた経緯は彼女が話した通りであり、そのあとはあっさりと娘を迎い入れて、長女と戸籍上書き換え郁美は除籍されていた。あの出会った日に手続きが行われていたので、彼女は彼女が言ったように家無し、職なしだったのだろう。ただ、彼女はそうされる前に銀行を自分名義にしており、ハンコも作っていたから、金なしとまでは行かなかったようだ。
本当にたくましいな。
僕は感心してしまった。あの環境下では仕方なかったのかもしれないが、普通高校上がりたての状態ではそんなこと、思いつきもしなかっただろう。
そうして、彼女はせっせとほぼ毎日バイトをしてそれをコツコツ貯めていたようだ。
その間に父親がとあるバザーで出会った例の幼子を見てすぐに自分の娘と直感してDNA鑑定を行い、彼はそれからすぐに戸籍の修正を行ったらしい。
あの幼子もよく孤児院育ちであれほど精神的な成長もないまま過ごせたものだと感心していたが、どうやら小悪魔的人物らしく、孤児院で起こしたと思われる小さなではあるが、諍いの中心は全てあの幼子が関わっていた。自分の容姿が良いのを自覚するのが早かったようで、それら全てをフル活用していたらしい。
ただ、養子にしたいという大人からは相手にもされなかったようだ。そこにやって来たのはおそらく跡取りが必要な家庭で本性を早々に見抜いてしまい、決して肩を叩くことはなかった。中には院長自ら推薦したこともあったようだが、向こうが決して首を縦に振らなかったのだ。
父親は国内で頭が良い方の大学出身で大手企業の社員でそこそこの役職、母親は元モデルで専業主婦。
そんな2人は大学は違うが近い距離にあり合同飲み会で出会い、そのままお互いにプライドの高い2人は価値観が合い、意気投合してゴールインという流れになっていた。
彼ら2人の実家、特に母方の実家はそこそこの資産家だったようであり、父親の会社の大株主でもある旧家というやつだった。分家らしいけれど。
しかし、5年前に起きた株価暴落による借金があるようだ。一応、現在安定してきた株でとりあえず返済は叶いそうだが、今後何か手を打たないなら今までのように生活ができなくなる日が来るだろう。特にほとんど全員が芸能方面なので、人気が無くなったら終わりだ。
彼ら3人のことはわかり郁美のことも分かるのだが、やはり、彼女の本当の親のことは調査できなかった。確かに血縁関係が両親のどちらともなく、彼女の本当の両親については不明とされていた。もう17年前のことであり、同じ病院に入院していた人を覚えている人を探すのも一苦労だろうし、今回は時間が足りなかった。彼女が会いたいと言った場合も備えて何とか居場所だけでも知りたいので、日本の調査会社に引き継ぎをしてまだ調査をしてもらっている。しかし、これはいづれは分かると思っている。
彼らのことを知ってから、僕は彼らに対して少しばかりの私的な復讐をすることにした。
それがホテルのことではなく、元父親の会社に匿名で郁美の名前は伏せて事実を記載した紙を送ったのだ。
それも社長宛に。他にも幼子が通っている英知学園にも同じものを送っておいた。
調査によれば、父親は平凡な社員でありながら若くして役職がついたからか、優秀だと思い込んでおり結構人を見て態度を変えて部下にも上司にも同期にも不信感を抱かれているらしい。
それは幼子も同じようで、その上、彼女の場合成績が入学してから下がり続けて下から数えた方が早いところまで落ちたようで授業料免除なんて夢のまた夢であり、今では父親が払っているらしい。
ブランドしか身に着けない両親と娘で出費が重なり、家計はかなり火の車のようだが、彼らは生活改善がないようで、リボ払いで借金が膨れ上がっていることに気付いていないようだった。
典型的な馬鹿家族だ。
血がつながっていないことはこの調査結果を見ただけでも一目瞭然だろう。
人を育てるのは環境だと考えていたが、孤児院育ちのあの幼子が浪費癖のサボり癖で、浪費一家育ちの郁美が倹約で努力家とは、その考えに矛盾が生じて首を傾げてしまう。
しかし、それは一瞬のことで、郁美はある意味あの環境だったからこそ、元親2人を反面教師のようにしてそういう性格に育ったのだと考えられた。
まあ、性格の件は置いておいて、父親の給料が下がれば困るだろうと思い、彼が務める会社の商談を切り捨てて、イメージダウンにより価値が下がったところでちょうど日本進出を狙っていた友人に声をかけて売却させた。
そうして、予想通り一斉見直しが入り、かの父親は降格による減給だった。もともと、母親の実家が株主だったことを考慮しての人事だったので、それが無くなれば彼の実力だと当たり前だ。
全てが思い通りに事が進み、これで郁美の心を乱す存在が今後彼女の前に現れることはないと考えていたのだが、まさか、かの幼子が最後の空港で現れるなんて思いもしなかった。
その幼子は妄想癖まであるようで、僕を恋人のように呼ぶ。正直、あの甘ったるい声で耳が腐りそうだった。
まあ、3歳児は将来の夢とか言い出す年頃だろうから、妄想癖があってもおかしくないか。
なんてつい考えてしまった。
目の前の幼子は精神年齢はそうでも、郁美と同い年なのに。良家の子息らが通う英知学園に通っているはずなのに、何の教区も受けていない郁美の方がよっぽどそれらしい立ち居振る舞いだった。
彼女が叫んでいるだけならまだ良かったが、まさか、郁美を横恋慕した女というレッテルを貼ろうとするなんてな。その時点で僕の方針は固まった。リオウなんかは終始何も話はしなかったが苛ついていた。
幼子の証言をひっくり返す知り合いが取っていた動画を大音量で衆目の中で流して英知学園の教育の無さを知らしめた形となり、周囲にいたファーストクラスに乗るような人達は困惑していた。彼らの中にもきっと、その学園に通っている子供を持つ人、もしくはOB・OGはいるだろう。驚愕と落胆が会場に波紋のようにして広がっていた。
最も可哀想なのは引率していた教師で卒倒していた。
無事に飛行機はスイスまで着きそうだし、後片付けも終わったので、もう日本に直近の用事はない。
僕はこれからが楽しみで眠れず結局郁美の寝顔を見て過ごしてしまった。
14時間のフライト。でも、彼女と僕の共有時間はもっともっと長い。17年間よりもずっと。
飛行機に乗り、隣に座る彼女の寝顔を見ながら笑みが零れてしまう。
疲れていたのかじっと見ていても視線に気付かず、静かに寝息を立てている。それだけで僕は幸福だった。
彼女の奥からのとがめるような視線などそれに比べたらそこらへんに飛んでいる埃のようなものだ。
「ジーク様、そんなに女性の寝顔を見るのは紳士とは言えませんよ。」
「仕方ないだろう。幸福なんだから。やっと、彼女を連れていける。」
「嬉しいのは分かりますが・・・・最後の仕上げをしていただきませんと、こちらも困ります。」
すでに安定した機内でたちあがったリオウがわたしてきたのはタブレットだった。
それを後ろ髪を引かれながら受け取ると、画面に表示されているのは今日の世界の株価だった。
それは僕が自分で持っている株を表示されており、その数多の企業名の中から目当ての企業を選ぶ。
時間的にはちょうど良い頃だろうと見計らい、それらを売り出した。
そして、他の株も確認してからリオウに返した。
「よろしかったのですか?」
「何が?」
「あの幼子はどうかと思いますが、その親も普通とは思えませんが、従業員はともかくその家族の監督責任は企業にはないのですよ。ましてやグループ企業ならなおさら。他の従業員や企業の上層部からしたらとばっちりもいいところです。」
「確かにそうだけど。でも、あの母親の親戚もプライドが高いし、郁美に対しては褒められた態度じゃなかった。大株主だったから、衝撃として十分かなと思ってさ。それに、日本国内だと大手だから、放っておいても買い手が出てくるよ。いつになるかは分からないけど。」
僕は面白くなってニンマリと笑ってしまった。
他人の不幸は蜜の味
そんな言葉を考え付いた日本人は天才だと思う。
鼻歌を歌っている僕を見て、リオウはため息を吐いた。
「その性分、彼女に気付かれたら逃げられますからお気を付けください。」
「おそらく、郁美はほぼ気付いているんじゃないかな。僕が結構ねじ曲がっているってことはさ。」
「稀有なひとですね。」
リオウは驚いていた。
最初に監禁などといって怖がらせておいてよくいうよね。
君、結構郁美のことを気に入っているよね?でも、渡さないけど。
「まあ、いいか。じゃあ、僕は忙しいから。」
「畏まりました。」
リオウは自分の席に戻った。
ここまで来るのに時間が掛かってしまった。
あのホテルのビュッフェに誘ったのは彼女と2人っきりで食事がしたかったからだ。だから、あの家にリオウの祖父宛で届いた招待状を譲ってもらった。
まさか、同じ日に彼女の元家族とその原因となった娘が来るとは思わなかった。
しかも、騒動まで起こすことは予想外であり、それも向こうが悪者になる方向だったので、それに思わず便乗してしまった。これには内心大笑いだった。ちなみに、僕たちに付き添ってくれたボディーガード2人は呆れていた。
彼らは郁美によって一ひねりにされていておかしかった。ボディーガードを使って追い払うより、よっぽど効果的な方法だった。それにしても、ドイツ語を勉強していたのは知っていたが、初めて聞いた彼女の発音は母国語の人かと思うほどで、僕は驚いたし、他2人も同じだった。
本当に彼女は予想の斜め上を行く。
あとで、その場、ビュッフェ会場にいた知人から誠経由で聞いた話では僕らが去った後、彼らは僕らが座っていた席でランチをして帰ったらしい。ただし、あの席は通常の値段の3倍は取られるのだ。席料金で。それを見た彼らは驚いたようだ。しかし、周囲の目がある手前文句など到底言えず、表面上取り繕って父親がカードで払っていた、と
しかし、お店を出た後は娘の方はご満悦だったが、両親の方は困惑、というか、真っ青な顔色だったようだ。
それを聞かされた時、お腹を抱えて笑ってしまい、電話越しの誠も笑いながら話してきたので良い性格はお互いさまだ。
デパートで初めて見て以来、リオウに郁美の過去とそいつらの繋がりを調査させた。どれだけ資金がかかっても良かったから、全容を知っておきたかった。
デパートで見た元親は確かに甘いルックスのモデルのような2人だったし、真ん中にいる娘も同類の顔をしていた。確かに、郁美があの中に入ったら、周囲からは違和感しかないだろう。
〇が並んでいる中に1つだけ△が混じっているのだ。目立ってしょうがない。
しかも、それが郁美の方がきれいで周囲の視線を1人占めにしてしまう。あのプライドの高そうなブランドで包んだ人達を見れば、それが耐えられないことだっただろうとはすぐに想像がついた。
おそらくだが、理由は完全なる彼女の元親の私的な感情から郁美は今まで家族と出かけたことが手で数える程度だったのだ。
調査していくらも日が経たないうちに郁美のこと、彼女の元親、それと彼らの実子のことが分かった。
詳細にまとめられたレポートを読み込んで浮かんできたのは怒りと喜びだった。
郁美が捨てられた経緯は彼女が話した通りであり、そのあとはあっさりと娘を迎い入れて、長女と戸籍上書き換え郁美は除籍されていた。あの出会った日に手続きが行われていたので、彼女は彼女が言ったように家無し、職なしだったのだろう。ただ、彼女はそうされる前に銀行を自分名義にしており、ハンコも作っていたから、金なしとまでは行かなかったようだ。
本当にたくましいな。
僕は感心してしまった。あの環境下では仕方なかったのかもしれないが、普通高校上がりたての状態ではそんなこと、思いつきもしなかっただろう。
そうして、彼女はせっせとほぼ毎日バイトをしてそれをコツコツ貯めていたようだ。
その間に父親がとあるバザーで出会った例の幼子を見てすぐに自分の娘と直感してDNA鑑定を行い、彼はそれからすぐに戸籍の修正を行ったらしい。
あの幼子もよく孤児院育ちであれほど精神的な成長もないまま過ごせたものだと感心していたが、どうやら小悪魔的人物らしく、孤児院で起こしたと思われる小さなではあるが、諍いの中心は全てあの幼子が関わっていた。自分の容姿が良いのを自覚するのが早かったようで、それら全てをフル活用していたらしい。
ただ、養子にしたいという大人からは相手にもされなかったようだ。そこにやって来たのはおそらく跡取りが必要な家庭で本性を早々に見抜いてしまい、決して肩を叩くことはなかった。中には院長自ら推薦したこともあったようだが、向こうが決して首を縦に振らなかったのだ。
父親は国内で頭が良い方の大学出身で大手企業の社員でそこそこの役職、母親は元モデルで専業主婦。
そんな2人は大学は違うが近い距離にあり合同飲み会で出会い、そのままお互いにプライドの高い2人は価値観が合い、意気投合してゴールインという流れになっていた。
彼ら2人の実家、特に母方の実家はそこそこの資産家だったようであり、父親の会社の大株主でもある旧家というやつだった。分家らしいけれど。
しかし、5年前に起きた株価暴落による借金があるようだ。一応、現在安定してきた株でとりあえず返済は叶いそうだが、今後何か手を打たないなら今までのように生活ができなくなる日が来るだろう。特にほとんど全員が芸能方面なので、人気が無くなったら終わりだ。
彼ら3人のことはわかり郁美のことも分かるのだが、やはり、彼女の本当の親のことは調査できなかった。確かに血縁関係が両親のどちらともなく、彼女の本当の両親については不明とされていた。もう17年前のことであり、同じ病院に入院していた人を覚えている人を探すのも一苦労だろうし、今回は時間が足りなかった。彼女が会いたいと言った場合も備えて何とか居場所だけでも知りたいので、日本の調査会社に引き継ぎをしてまだ調査をしてもらっている。しかし、これはいづれは分かると思っている。
彼らのことを知ってから、僕は彼らに対して少しばかりの私的な復讐をすることにした。
それがホテルのことではなく、元父親の会社に匿名で郁美の名前は伏せて事実を記載した紙を送ったのだ。
それも社長宛に。他にも幼子が通っている英知学園にも同じものを送っておいた。
調査によれば、父親は平凡な社員でありながら若くして役職がついたからか、優秀だと思い込んでおり結構人を見て態度を変えて部下にも上司にも同期にも不信感を抱かれているらしい。
それは幼子も同じようで、その上、彼女の場合成績が入学してから下がり続けて下から数えた方が早いところまで落ちたようで授業料免除なんて夢のまた夢であり、今では父親が払っているらしい。
ブランドしか身に着けない両親と娘で出費が重なり、家計はかなり火の車のようだが、彼らは生活改善がないようで、リボ払いで借金が膨れ上がっていることに気付いていないようだった。
典型的な馬鹿家族だ。
血がつながっていないことはこの調査結果を見ただけでも一目瞭然だろう。
人を育てるのは環境だと考えていたが、孤児院育ちのあの幼子が浪費癖のサボり癖で、浪費一家育ちの郁美が倹約で努力家とは、その考えに矛盾が生じて首を傾げてしまう。
しかし、それは一瞬のことで、郁美はある意味あの環境だったからこそ、元親2人を反面教師のようにしてそういう性格に育ったのだと考えられた。
まあ、性格の件は置いておいて、父親の給料が下がれば困るだろうと思い、彼が務める会社の商談を切り捨てて、イメージダウンにより価値が下がったところでちょうど日本進出を狙っていた友人に声をかけて売却させた。
そうして、予想通り一斉見直しが入り、かの父親は降格による減給だった。もともと、母親の実家が株主だったことを考慮しての人事だったので、それが無くなれば彼の実力だと当たり前だ。
全てが思い通りに事が進み、これで郁美の心を乱す存在が今後彼女の前に現れることはないと考えていたのだが、まさか、かの幼子が最後の空港で現れるなんて思いもしなかった。
その幼子は妄想癖まであるようで、僕を恋人のように呼ぶ。正直、あの甘ったるい声で耳が腐りそうだった。
まあ、3歳児は将来の夢とか言い出す年頃だろうから、妄想癖があってもおかしくないか。
なんてつい考えてしまった。
目の前の幼子は精神年齢はそうでも、郁美と同い年なのに。良家の子息らが通う英知学園に通っているはずなのに、何の教区も受けていない郁美の方がよっぽどそれらしい立ち居振る舞いだった。
彼女が叫んでいるだけならまだ良かったが、まさか、郁美を横恋慕した女というレッテルを貼ろうとするなんてな。その時点で僕の方針は固まった。リオウなんかは終始何も話はしなかったが苛ついていた。
幼子の証言をひっくり返す知り合いが取っていた動画を大音量で衆目の中で流して英知学園の教育の無さを知らしめた形となり、周囲にいたファーストクラスに乗るような人達は困惑していた。彼らの中にもきっと、その学園に通っている子供を持つ人、もしくはOB・OGはいるだろう。驚愕と落胆が会場に波紋のようにして広がっていた。
最も可哀想なのは引率していた教師で卒倒していた。
無事に飛行機はスイスまで着きそうだし、後片付けも終わったので、もう日本に直近の用事はない。
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