【完結】サファイア!〜リボンの棋士はあきらめない〜

四条 京

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第四局

☖ お誘い

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 ウィリアムズ君が転校してきてから、一週間。
 彼は、クラスどころか学年の枠をも飛びこえて、学校にすっかりなじんでいた。
 それはきっと、彼の取柄である、明るくて素直で気さくで、誰に対しても人当たりのいい性格が幸いしてのことだろう。
 そして何より、元から日本語をしゃべれるっていうことが、仲良くなる上でかなり大きな役割を果たしていたんだと思う。
 同級生も下級生も上級生も、みんなが、ウィリアムズ君のことを好きになっていく。
 休み時間には、いつだって彼の周りは友達でにぎわっている。
 そんな様子を、私はほとんど遠目にながめているだけ。
 それでも、いつ見ても彼が笑顔で楽しそうに過ごしているのは、他人事ながら安心したし、嬉しくもあった。

 同じクラスでも、私とウィリアムズ君はほとんどしゃべらない。
 私は一人で本を読んでいることがほとんどで、あまり友達らしい友達もいない。
 対するウィリアムズ君は、授業の間の休み時間には必ず誰かしらと一緒にいる。中間休みや昼休みは、他の教室から遊びに来た人たちに引っ張られて、どこかへ行ってしまう。
 だから必然的に、私たちは、放課後の将棋クラブくらいでしか、きちんと顔を合わせることはない。
 それでも、私たちの付き合いは、クラスの中の誰よりも濃いものになっていた。
 だって私たちは、クラブのある日は、最初から最後まで、ずっと一緒に将棋を指し続けているんだから。



「負けました」
「はい。ありがとうございました」

 投了の意思表示をしたウィリアムズ君に、深くおじぎをする。
 顔を上げると、目の前に座る彼は、「もう! もう! もう!」とくやしそうに地団駄をふんだ。あんまりもうもう言ってると、牛になっちゃうよ。

「何でこんなに勝てないの⁉ 君、最初に話した時は、あんまり強くないかもって言ってたじゃないか!」
「わ、私に聞かれても……」

 実際、私だって、学校のクラブの外では勝ったり負けたりのくり返しなのだ。
 今のところは、ウィリアムズ君相手だと勝ちが続いているけれど、それも単に調子がいい日が続いているからっていうだけ。いつ私が負かされたっておかしくない。
 そのくらいには、私とウィリアムズ君に大きな実力差はない――

「(……はず、なんだけどなあ)」

 盤をにらみつけてうんうんうなっているウィリアムズ君。
 週に二日、クラブがあるたびに私と対局しているけれど、彼は一度も勝てていない。そろそろストレスもたまっているんじゃないだろうか。

 ――あれ? でも……

 盤に目を落としたまま、眉間にぐっとしわを寄せた彼に、私は、ふと気になったことを聞いてみた。

「……ウィリアムズ君って、私以外と将棋、指しとる?」
「え? 指してないよ?」

 まさかの即答である。

「えっと……何で?」
「だって、このクラブじゃ君が一番強いんだろ? だったら、君と指し続けたほうが強くなれると思って」
「……なるほどなあ」

 まっすぐすぎるその答えに、私は思わず苦笑いした。
 強くなりたいなら、強い人と指せばいい。それは確かに正しいんだけれど、ウィリアムズ君の場合はあまりにも極端すぎる。
 将棋は負けて強くなる、なんて言われるけれど、それは半分嘘だ。
 色んな人とたくさん指して、そして、勝ちを重ねてこそ強くなれる。私はずっとそう思っている。
 だから、ウィリアムズ君にも、ぜひとも経験してほしくなった。
 たくさんの人と指す楽しさ、そして、勝つことの嬉しさを。

「ウィリアムズ君、明日の土曜日って、ひま?」
「え?」

 我ながら唐突な質問に、ウィリアムズ君が目をぱちくりさせる。

「予定はないけど……もしかして、将棋してくれるの⁉」
「半分当たり、かなあ。私だけやなくて、色んな人が相手になってくれると思う」
「? どういうこと? 休みの日は、クラブはないよね?」

 その通り。
 学校のない週末は、当たり前だけれど将棋クラブもお休みだ。
 そのかわり、とっておきの場所があるんだよね。
 子どもだけじゃなくて大人も集まる、たくさん将棋を指せる場所が!

「ウィリアムズ君。明日やけど、一緒に出かけようや」
「え? いいけど……何があるの?」

 不思議そうに首をかしげるウィリアムズ君に、私はニッと笑ってみせる。

「それは、当日のお楽しみ」
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