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親友の心内
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音が溢れている。ただその中でも、自分のものが一等嫌いだった。
例えば咀嚼音。くしゃみ、お腹の音。気にしたら駄目だとは分かっているけれど、羞恥心と不安でいっぱいいっぱいになるのが常だった。
けれど、そういうのが気にならない時もあるんだなあ、と。
「あ、やべ。」
かぶりついたハンバーガーの中から飛び出たタルタルソースを、僕の友達は急いでこぼれないようになめとる。息をすっと吸う音と、ぐしゃりと歯に当たったレタスが千切れる音。つられるように僕も手に持つハンバーガーを口にすると、マヨネーズと卵とレタスとお肉の味が一気に広がる。美味しい。
「くっそ、ハンバーガーって未だにどうやって食ったら正解なのかわかんねえ…………」
「そうなの?お行儀は悪くないと思うんだけど……」
「包み紙の下にめっちゃ中身溜まるんだよ。勿体なくね?」
「んふふ。」
「あ?何笑ってんだ。」
「びんぼーしょーだなーって。」
「ハッ倒すぞお前、普通の感覚だろ。」
自分が綺麗に食べれるからって、と悪態をつく口が指についたソースを舐める。
放課後。駅の構内のファストフード店。部活があると帰りたい気持ちがはやって寄らないけれど、テスト終わりや部活がない日にはよく来る場所。いつもの窓際のテーブル席。
変わらないBGMはいつまでも新鮮味がある。多分、向かいの友達の話ばっかりが楽しくて、覚えてないだけなんだけれど。
「…………あ、マニア、多分それぼくのポテト。」
「えっ、マジで?」
片手にハンバーガー、片手にフライドポテト一本。目を丸くした彼に、「そもそも頼んでなかったんじゃないの」と言ったら、「そういえばそうだったわ」とからから笑われた。そういえば、じゃない。さらっと人のものを取るなんて。
「ははっ、悪かったって。ほら、オレのナゲット一個やるから。あと五本ちょーだい。」
「もー、わがまま……つりあってる?それ。」
「あってるあってる。」
ほら、とフォークに刺したナゲットを差し出される。しれっとバーベキューソースが塗られていたそれを身を乗り出して頬張る。うん、美味しい。
「……ひさしぶりかも、なげっと。」
「あー、お前あんまり頼まねえよな。そもそもここに来るのも久しぶりだろ。」
「うん。四ヶ月とか、……前は夏休み前だっけ。」
「夏休み中じゃね?ほら、大会の帰り。」
「あのときはファミレスじゃなかったけ?」
「それはクラスの打ち上げじゃね?」
如何せん、ほとんどいつもいっしょなので。どこに行ったにしても必ずと言っていいほどお互いがとなりにいるから、記憶がかなり曖昧みたいだ。
「あー、二人して記憶がじじいだ。わっかんね……」
「んふふ。」
ぐでえん、と身体を椅子に預けてフライドポテトをかじる彼のなんともいえない顔。「何笑ってんだよ」と言われたから正直に「顔が面白くて」と言ったら、「馬鹿にしてんのか」とナゲットを口に突っ込まれた。ソースは付いてない。けど美味しい。
「ん、ぐ、……もー、食べ物で口ふさぐのだめ。」
「はいはい。」
あー、と七本目のポテトを口にする友達。半分残ったハンバーガーは、いつの間にかコーラの隣に放られていた。
「ま、どこ行ったってオレはお前とがいいし。いつかなんて気にすることでもねえか。」
「……そう?」
「んだよ。気にすんのか?」
「うーん、ちょっと気になるかも。思い出せないのもやもやする。」
そこまで言って、シェイクをひとくち。冷たいバニラ味が舌の上しょっぱいのを喉に流し込んで、代わりにあまいのがへばりつく。噓をついたのをとがめるみたいに。
本当はどっちだっていい。ぼくもおんなじだ。
自分の音が気にならないほどに心地よい場所なんて、いつどこ関係なしに隣にいてほしいに決まってる。
「……じゃあ、全部思い出せなくなるぐらい、普通にすりゃあいいだろ。」
向かいでハンバーガーを持ち直した彼がふと、そう言う。
ストローから唇を離して顔を上げれば、慎重に包み紙を動かしながらに「これからも一緒にいればいいんだよ」と続けた。
「ずーっと、ほんと嫌になるくらいずっといれば、全部当たり前になって記憶に残りにくくなるだろ。そうなったら全部、『仕方ない。けどどうせまた今度もあることだしいいや』ってなるんじゃねえの。」
「…………そう?」
「そうだって。」
あ、と開いた大口がハンバーガーをばくっとかじる。もぐもぐと大きく動く唇の先にはマヨネーズが付いていて、次にかじる場所を探す指も少しだけソースで汚れていた。真剣なんだかいいかげんなんだか分からない。
なんだか言いつのるような気にはなれなくて、ぼくも残っているハンバーガーを崩しにかかる。ぐちゃりとソースが音を立てるのも、レタスをかむ音も、歯でかんだのを飲み込む音も気にならない。ただただ美味しいのと、目の前の友達がおいしそうに頬張るのとで意識が引っ張られる。
普通。…………普通になったら、いいなあ。心地よいのがずっとなんてすっごいぜいたくな気もするけれど。
「あー、また。」
包み紙から恐る恐る取り出した残りからレタスがぼとりと落ちて、苦虫かみつぶしたみたいに眉を寄せる。
思わず笑ったら、やっぱり「笑うな」って言われた。
こんなふうに、来年もそのあともずっと、続いて、ほしいなんて。
…………そんなことさすがに言えなくて、「ごめんね」なんて言葉で誤魔化して、ハンバーガーと一緒に飲み込んだ。
【えんげする】
例えば咀嚼音。くしゃみ、お腹の音。気にしたら駄目だとは分かっているけれど、羞恥心と不安でいっぱいいっぱいになるのが常だった。
けれど、そういうのが気にならない時もあるんだなあ、と。
「あ、やべ。」
かぶりついたハンバーガーの中から飛び出たタルタルソースを、僕の友達は急いでこぼれないようになめとる。息をすっと吸う音と、ぐしゃりと歯に当たったレタスが千切れる音。つられるように僕も手に持つハンバーガーを口にすると、マヨネーズと卵とレタスとお肉の味が一気に広がる。美味しい。
「くっそ、ハンバーガーって未だにどうやって食ったら正解なのかわかんねえ…………」
「そうなの?お行儀は悪くないと思うんだけど……」
「包み紙の下にめっちゃ中身溜まるんだよ。勿体なくね?」
「んふふ。」
「あ?何笑ってんだ。」
「びんぼーしょーだなーって。」
「ハッ倒すぞお前、普通の感覚だろ。」
自分が綺麗に食べれるからって、と悪態をつく口が指についたソースを舐める。
放課後。駅の構内のファストフード店。部活があると帰りたい気持ちがはやって寄らないけれど、テスト終わりや部活がない日にはよく来る場所。いつもの窓際のテーブル席。
変わらないBGMはいつまでも新鮮味がある。多分、向かいの友達の話ばっかりが楽しくて、覚えてないだけなんだけれど。
「…………あ、マニア、多分それぼくのポテト。」
「えっ、マジで?」
片手にハンバーガー、片手にフライドポテト一本。目を丸くした彼に、「そもそも頼んでなかったんじゃないの」と言ったら、「そういえばそうだったわ」とからから笑われた。そういえば、じゃない。さらっと人のものを取るなんて。
「ははっ、悪かったって。ほら、オレのナゲット一個やるから。あと五本ちょーだい。」
「もー、わがまま……つりあってる?それ。」
「あってるあってる。」
ほら、とフォークに刺したナゲットを差し出される。しれっとバーベキューソースが塗られていたそれを身を乗り出して頬張る。うん、美味しい。
「……ひさしぶりかも、なげっと。」
「あー、お前あんまり頼まねえよな。そもそもここに来るのも久しぶりだろ。」
「うん。四ヶ月とか、……前は夏休み前だっけ。」
「夏休み中じゃね?ほら、大会の帰り。」
「あのときはファミレスじゃなかったけ?」
「それはクラスの打ち上げじゃね?」
如何せん、ほとんどいつもいっしょなので。どこに行ったにしても必ずと言っていいほどお互いがとなりにいるから、記憶がかなり曖昧みたいだ。
「あー、二人して記憶がじじいだ。わっかんね……」
「んふふ。」
ぐでえん、と身体を椅子に預けてフライドポテトをかじる彼のなんともいえない顔。「何笑ってんだよ」と言われたから正直に「顔が面白くて」と言ったら、「馬鹿にしてんのか」とナゲットを口に突っ込まれた。ソースは付いてない。けど美味しい。
「ん、ぐ、……もー、食べ物で口ふさぐのだめ。」
「はいはい。」
あー、と七本目のポテトを口にする友達。半分残ったハンバーガーは、いつの間にかコーラの隣に放られていた。
「ま、どこ行ったってオレはお前とがいいし。いつかなんて気にすることでもねえか。」
「……そう?」
「んだよ。気にすんのか?」
「うーん、ちょっと気になるかも。思い出せないのもやもやする。」
そこまで言って、シェイクをひとくち。冷たいバニラ味が舌の上しょっぱいのを喉に流し込んで、代わりにあまいのがへばりつく。噓をついたのをとがめるみたいに。
本当はどっちだっていい。ぼくもおんなじだ。
自分の音が気にならないほどに心地よい場所なんて、いつどこ関係なしに隣にいてほしいに決まってる。
「……じゃあ、全部思い出せなくなるぐらい、普通にすりゃあいいだろ。」
向かいでハンバーガーを持ち直した彼がふと、そう言う。
ストローから唇を離して顔を上げれば、慎重に包み紙を動かしながらに「これからも一緒にいればいいんだよ」と続けた。
「ずーっと、ほんと嫌になるくらいずっといれば、全部当たり前になって記憶に残りにくくなるだろ。そうなったら全部、『仕方ない。けどどうせまた今度もあることだしいいや』ってなるんじゃねえの。」
「…………そう?」
「そうだって。」
あ、と開いた大口がハンバーガーをばくっとかじる。もぐもぐと大きく動く唇の先にはマヨネーズが付いていて、次にかじる場所を探す指も少しだけソースで汚れていた。真剣なんだかいいかげんなんだか分からない。
なんだか言いつのるような気にはなれなくて、ぼくも残っているハンバーガーを崩しにかかる。ぐちゃりとソースが音を立てるのも、レタスをかむ音も、歯でかんだのを飲み込む音も気にならない。ただただ美味しいのと、目の前の友達がおいしそうに頬張るのとで意識が引っ張られる。
普通。…………普通になったら、いいなあ。心地よいのがずっとなんてすっごいぜいたくな気もするけれど。
「あー、また。」
包み紙から恐る恐る取り出した残りからレタスがぼとりと落ちて、苦虫かみつぶしたみたいに眉を寄せる。
思わず笑ったら、やっぱり「笑うな」って言われた。
こんなふうに、来年もそのあともずっと、続いて、ほしいなんて。
…………そんなことさすがに言えなくて、「ごめんね」なんて言葉で誤魔化して、ハンバーガーと一緒に飲み込んだ。
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