雨の庭で来ぬ君を待つ【本編・その後 完結】

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第二章 白驟雨

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 きつく腕を掴まれたまま、ホテルの上階へと連れて来られた。

「ここ、どこなの?」
「お父さんと母さんが取っている部屋だよ」

そう言って素早くカードキーをかざしドアを開けると、乱暴に私を部屋に押し込めた。

「部屋って、こんなところに二人で来たら変だと思われる。戻らないと――」

樹は私を完全に無視して、あろうことか部屋の真ん中にあるベッドに押し倒して来た。

「何するの?」

私を見下ろす樹の目は、鋭く険しいものだった。手首を強くベッドに押さえつけられる。何度振り払おうとしてもびくともしない。

「――いつも冷たくされて来たお父さんにドレス一つ買ってもらったからってそんなに浮かれて。食事に行ったくらいで、嬉しそうな顔をして」

樹の目が、暗く光る。

「嬉しさ余って、見ず知らずの男にまで笑顔を振りまいたのか?」

あまりの力の強さに、恐怖心が募る。

「姉さんは、どこまで能天気なんだ」
「お願い、離して」

自由になるのは脚だけで、懸命にばたつかせた。

「姉さんは、俺だけを見ていればいい。姉さんには俺しかいないんだよ?」
「樹――」

樹の脚によって、私の下半身は完全に自由を奪われる。綺麗に着飾ったドレスの肩がずれ落ちた。

「お父さんも他の誰も、姉さんの世界には俺以外いないんだよ」

そう囁いた樹の声は、身体から力を奪う深く低いものだった。金縛りにあったみたいに固まった身体に、樹の唇が降って来る。

「お願い……やめて」

なんとか声を絞り出しても、樹の手のひらが執拗に私の身体をまさぐる。

「樹、本当に、やめて……っ!」

どれだけ声を上げても意味をなさない。動きを止めるどころか、肩ひもを勢いよくずり下ろし、露わになった胸の中心を噛みつくように口に含む。

「何があっても俺だけだって、約束しろよ。この先、何があっても、絶対俺から逃げないって」
「樹だけだよ。樹から逃げたりしない。だから――っ」

樹の肩を強く掴み、引き剥がそうとする。でも、その身体は何かに憑りつかれたみたいに頑なだった。

「何があっても、姉さんは俺のものだから」
「あ……っ」

乳房のあたりに、鋭い痛みが走る。本当に噛みつかれたのか。思わず自分の胸を見ようとした時だった。部屋のドアの方から何か音がする。心臓が更に激しく鼓動する。

早く樹から離れないと――。

混乱の中でも懸命に抵抗した。それなのに、恐ろしいほどの力で押さえつけられて樹に組み敷かれる。

「樹、お父さんたち、入って来ちゃうよ! やめて……っ」

力を振り絞ったのも叶わず、胸を露わにした私の前に顔色を変えた継母の姿が現れた。

「一体、何をしてるの……?」

身体の底から込み上げるような低く震えた声。

「いや――っ!」

混乱と恥ずかしさから目を固く瞑る。一瞬樹の力が緩んだ隙に、咄嗟に胸を自分の腕で隠した。

「おまえたち、これは、どういうことだ?」

さらに私を動揺させる。継母の背後から、お父さんまでも現れた。必死に自分の剥き出しの肩を抱く。逃げたくてたまらないのに逃げ道はない。

「未雨、おまえ――」

殴られる――。

お父さんの怒りに満ちた声に身構える。その次の瞬間――。頬に切り裂くような痛みが走った。痛みが後から後から押し寄せて来る中、恐る恐る目を開ける。殴ったのは、お父さんではなかった。般若のような形相をして私を見下ろす継母だった。

「なんて汚らわしい子なの? 樹をたぶらかしてこんな関係に巻き込んで! 絶対に許さないからっ!」

私を感情に任せて何度も叩く。気崩れたドレスを纏う私は、ただ惨めでろくでもなくて。どんな感情が溢れても、どれも言葉に出来ない。それが止むまで、ただじっと身体を固くしていることしか出来ない。

「こんな汚いもの、もう見たくない。今すぐ消えて! 雅史さん、この子をどこかにやってください! 二度と、私たちに近付けないでっ!」

叩き続けたせいで息が荒くなった継母が、更に大きな声をあげた。ガタガタと震える肩を必死に自分の手で押さえつける。この地獄のような状況に絶望的な気分になる。

「未雨、来るんだ」
「わ、私――」

肩にお父さんの着ていたジャケットが掛けられて、乱暴に腕を掴まれた。その時、やっと声を発することが出来た。

一体、私はこれからどうなるのか――。

迫りくる恐怖心に、声を上げた。

「お父さん、私――」

でも、何を言えばいいのか分からない。

「いいから来い!」

苛立った声が私を黙らせる。部屋から引っ張り出される瞬間、この目が樹を探した。でも、樹は私から顔を逸らしていた。

 強引に連れ出された私は、別のホテルの一室に閉じ込められた。逃げようと思えば逃げられる。でも、私には、どこにも逃げる場所なんてないのだ。スマホはお父さんに取り上げられた。財布もない。

樹は、今頃どうしているだろう。両親から怒られているだろうか――。

開くことのないホテルの部屋の窓から、雨粒の大きい激しい雨に打ち付けられている街を見下ろす。

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