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第二章 白驟雨
五
しおりを挟むそれから、不思議なことに、継母が私の進学先について意見をしなくなった。
お父さんから私の希望を伝えてくれたのだろうか。継母を納得させてくれたのだろうか――。
二人で食事した夜のことを思い出しそう考える。それだけじゃない。明らかに、継母の機嫌がいい。何もかもが腑に落ちないけれど、あの人の機嫌がいいのなら私にとっては好都合だ。
あれこれと一人考えていると、私の顔を覗き込んで来る樹の顔があった。
「姉さん、最近どうしたの?」
「何が?」
新学期が始まってすぐの昼休み、人気のない校舎裏の古びたベンチに二人で腰掛けていた。
「この顔が、にやけてる」
そう言って、樹が私の頬を軽くつねる。
「そうかなぁ」
「そうだよ。俺を騙せるとでも思ってるの? 何かいいことあった?」
より樹の目が近付いて来て、私はぼそぼそと口を開いた。
「いいことと言えば、お父さんが県内の大学に行くことを許してくれたことかな。それに、お母さんも何も言わなくなった。だからこのままあの家にいられるよ。樹とも離れなくて済む」
「お父さんが……?」
樹が私の目の奥を覗くようにじっと見つめる。
「うん。お父さんに私の希望を話したから、もしかしたらお父さんからもお母さんに話しをしてくれたのかも」
「いつ、お父さんと話をしたの?」
「あれ、樹に言わなかった? お父さんに誘われて二人で食事に行ったの」
何故だか樹の表情が険しい。
「聞いてない」
「話したと思うんだけど。そう言えば、最近、樹忙しそうだったもんね」
八月末から新学期にかけて、樹は部活の練習だけではなく学校の用事でも朝早くから出掛けていた。
「とにかく良かったよね。お母さんの機嫌もいいし、私たちのことはバレていないと思う」
「……ああ」
樹がやっと笑ってくれた。
「でも、油断は禁物だよ。今は絶対にバレちゃだめだから」
「じゃあ、いつならいいの?」
なのに、すぐに真顔になる。
「いつって……。それは、私たちが大人になって、もっと自由になってからじゃないと」
いつ――。
深く考えたことはなかった。目の前の毎日の中、ただ”両親にバレないように”と考えるので精一杯で。先のことを考える余裕なんてなかった。
「そうでしょう? 私たちには、まだ何の力もない」
「……そうだね」
樹が、どこか遠くを見るように呟いた。
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