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《その後》二人で見た海であなたを待つ
プロローグ
しおりを挟むもう二度と会うことはないと思っていた。
偶然会うことさえないようにと、祈ってもいた。一度でも会ってしまったら、きっと彼女を求めてしまう。それが怖かった。
だからこの気持ちさえ葬り去った。あの書き殴った手紙と一緒に捨て去ったつもりでいた。
でも、結局僕は、どれだけ紙に書いて破り捨てても、彼女を近くに感じたあの日々の記憶を消し去ることが出来なかった。僕の決意なんて、嫌になるほど脆いものだった。
狭い僕のアパートで眠る彼女の顔を見つめる。どこか幸せそうに眠る顔を見れば、愛おしくてたまらなくなるのに、それ以上の痛みが僕を襲う。その頬に触れようとする指さえ今頃になって躊躇われるのに、僕は、あの海で彼女を抱きしめてしまった。
僕がたった一人、想い続けた人。その想いさえ消してしまいたいと思った人。
そして、どんなに苦しくても、どうしても忘れられなかった人だから――。
そうせずにはいられなくて、彼女をこの腕の中に捕らえてしまった。
いつか、この躊躇いも痛みも葛藤も、消える日が来るのだろうか。
いつか、自分を許せる日が来るのだろうか――。
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