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prologue
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しおりを挟む「それなら、私と結婚するというのはどうですか?」
生まれてから29年間、誰かに告白したこともなければされたこともない。ましてや、交際経験なんてあるはずもない。なのに、私はそんなことを口走っていた。
言われた相手は目を見開いたまま、何の言葉も発せないでいる。そりゃあそうだろう。自分ですら信じられないのだから。
私の本能が言わずにはいられなかったんだと思う。
ずっと好きだった。
ただ密かに想うだけだった人のマンションで二人きり、向かい合う。彼の心の奥に隠し持つ苦しさを知って、衝動的にこの口が動いていた。
「……君も、冗談言うんだね」
ようやく口を開いた彼が、その涼しげな瞳を少し伏せながら笑う。
「冗談じゃないです。思いつきにしては良い提案だって思います」
「思いつきで言うようなことじゃない」
「でも、お互いにとってベターな選択じゃないですか?」
衝動から口走った言葉を、無かったことにするどころか本物にしようと必死になる。
どんな理由でも、馬鹿げたことでも、彼の近くにいられるなら構わない。こんなチャンスもう二度と訪れない。
ただそばにいられるなら――。
その一心だった。
「本気……?」
「本気です」
本当の恋の苦しみを知らない私は、嘘をついた。あまりに考えなしで軽はずみな、そして切実で切ない嘘だった。
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