産土神(うぶすながみ)様に婚活エージェントを頼まれました

yukiwa

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6.視たくないこともある

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(ちょ……ちょっと待ってよ)

 教室に入った途端、咲耶子はぎょっとする。

(頭の上の矢印、あれがそうなの?)

 同級生の頭の上あたりで、薄紅や山吹の矢印がゆっくり点滅していた。
 ひとつだけの子もいれば、頭の上をびっしり覆う数の矢印を持つ子もいる。

「咲耶子さん、おはよう」

 仲良しの美奈子さんは、今日もかわいらしい。
 うす紫の大きなリボンは、ぱりっとしてて丁寧に火熨斗があてられているんだとわかる。
 でも今気になるのはそこじゃない。

(すごい数……)

 リボンの周りをぐるりと囲んだ山吹の矢印。
 矢じりはみんな、美奈子さんに向かっている。
 
(これって、みんな美奈子さんを想う人の矢よね)

 美奈子さんのお家は、大きな缶詰工場を経営している。
 この町で一番のお金持ちらしい。
 なのに美奈子さんは、少しも威張ってない。
 リボンも靴も、クラスのみんなと同じようなものを使っている。

「昨日、火熨斗で焦がしちゃった」

 笑いながら、少し焦げのついたリボンをつけてきたことだってある。
 
(好きになって当然だわ)

 自慢の親友が大モテなのは、咲耶子も嬉しい。
 けれどなんだか、彼女が口にしない秘密をのぞいているみたいで後ろめたかった。

(普段は視えないようにって、そういう風にできないの?)

 きっとできるはずだ。
 あれだけ得意気なドヤ顔をしたんだから、できないとは言わせない。

(帰ったらすぐ、お願いしよう)

 今日一日、学校が終わるまでは仕方ない。
 咲耶子はできるだけ視線を落として、人の頭の後ろを見ないようにした。


「今日はどうした? いつもより早いではないか」

 帰るなり着替えもせずに本殿へ上がると、切れ長の目を少しだけ下げて神様は微笑んだ。

「感謝の言葉ならいらぬぞ? 我は氏神として当然のことをしたまで」

 嘘だ。
 褒めて褒めてオーラが、だだ漏れなのはすぐにわかる。

「それで成果はどうであった? もちろん一人や二人、縁結びを望む者をみつくろってきたのだろうな?」

 この短絡的な思考は、神様の悪い癖だ。
 今朝授かった力で、夕方には成果が出ているなんて。
 世の中そんなに簡単にできていない。

「神様、私は学校に行ったんです。縁結びしてる暇なんかありません」
「学ぶのは良いことだ。励めよ」
「はい、ありがとうございます。ついてはお願いが……」
「おぉ、言うてみよ。咲耶子が我に願いとは、珍しいことだ」

 なぜか神様は、ご機嫌のように見える。
 琥珀色の瞳が期待に満ちている気がするけど、気のせいだろうか。

「視たくない時には矢印出てこないようにって。できませんか?」

 すぱっと願い事を言う。
 そしたら神様は、あきらかにがくんとその肩を落とした。
 
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