5 / 12
5.想いの色
しおりを挟む
「そなた一人では難しかろう」
縁結びなんて、咲耶子には荷が勝ちすぎる。
正直にそう言ったら、神様はなにを当たり前のことをと不思議そうな顔をした。
「そもそもどうやって番わせるのだ? そなたがふらっと行って、相手がまともにとりあうとも思えぬが」
床板の乾拭きをする手が、止まりそうになる。
(とりあってもらえない小娘に頼んだのは神様でしょう)
ネル地の雑巾を裏返して、咲耶子は作業を続けた。
「氏子さんのお家の事情、父は詳しく教えてくれないし。だから私には……」
「我が手を貸してやろう」
無理だと言いかけた咲耶子の言葉に、神様がさらりと重ねる。
「手を貸す?」
「ああ、そなた一人では難しい」
(なら最初からそう言ってほしかったわ)
昨夜悩んだ自分がかわいそうになる。
「でもどうやって?」
この神様は少しズレてる。
何を言い出すことか、ちょっと怖い。
「縁結びを願う者自ら、この社に集まってくれば良いであろう?」
こともなげに神様はおっしゃるけど、お一日とか十五日とかでさえ参拝は減っている。
「でも神様、うちは縁結びのご利益があるわけじゃないから」
「なにを言う。我はこの地の氏神だ。この地に住まう者への加護に死角はないぞ」
地元の人がここへ来て、神様に縁結びを頼んだらなんとかしてやるってことなんだろう。
でもそういう縁結びの祈願って、やっぱり出雲とか有名なお社に行くと思う。
(その方がご利益ありそうじゃない?)
「縁結びの守り袋はなかったな? 急いで作れ」
参拝の方のために用意するお守りに、確かに縁結びのものはない。
家内安全、健康長寿、安産祈願、武運長久の四つ。
そしてここは八幡神社だから、最後の武運長久が一番得意ジャンルだ。
(それに作れって。お裁縫は苦手なのに)
お守り袋は絹地だし、糸も絹を使わなきゃいけない。
それなりに原価がかかる。
慎重にお針を運んだら咲耶子の腕でもなんとかなるけど、できたら避けたい。
「縁結びまでお願いできるって、私だって知らなかったのよ? まず神様の守備範囲が広いって、みんなに知ってもらわないと」
「そなたは本当にものを知らぬな」
琥珀色の目を呆れたように細めて、神様はやれやれと首を振る。
「仕方ない。ではそなたに我の力を少しだけ貸してやろう」
白い狩衣の腕で、神様はすっぽり咲耶子を覆う。
菊のすずしい香気に包まれた。
(なに……。ふわふわする)
いい香りの気が、咲耶子の身体を満たしてゆくのがわかる。
(これが神様の神気なんだわ)
「想い合う者は常盤、想われる者は薄紅、想う者は山吹。人の想いの矢の色が視えるようにしてやった」
神様はちょっと得意そうなドヤ顔をしている。
(人の心が視えるの?)
すぐには信じられなかった。
縁結びなんて、咲耶子には荷が勝ちすぎる。
正直にそう言ったら、神様はなにを当たり前のことをと不思議そうな顔をした。
「そもそもどうやって番わせるのだ? そなたがふらっと行って、相手がまともにとりあうとも思えぬが」
床板の乾拭きをする手が、止まりそうになる。
(とりあってもらえない小娘に頼んだのは神様でしょう)
ネル地の雑巾を裏返して、咲耶子は作業を続けた。
「氏子さんのお家の事情、父は詳しく教えてくれないし。だから私には……」
「我が手を貸してやろう」
無理だと言いかけた咲耶子の言葉に、神様がさらりと重ねる。
「手を貸す?」
「ああ、そなた一人では難しい」
(なら最初からそう言ってほしかったわ)
昨夜悩んだ自分がかわいそうになる。
「でもどうやって?」
この神様は少しズレてる。
何を言い出すことか、ちょっと怖い。
「縁結びを願う者自ら、この社に集まってくれば良いであろう?」
こともなげに神様はおっしゃるけど、お一日とか十五日とかでさえ参拝は減っている。
「でも神様、うちは縁結びのご利益があるわけじゃないから」
「なにを言う。我はこの地の氏神だ。この地に住まう者への加護に死角はないぞ」
地元の人がここへ来て、神様に縁結びを頼んだらなんとかしてやるってことなんだろう。
でもそういう縁結びの祈願って、やっぱり出雲とか有名なお社に行くと思う。
(その方がご利益ありそうじゃない?)
「縁結びの守り袋はなかったな? 急いで作れ」
参拝の方のために用意するお守りに、確かに縁結びのものはない。
家内安全、健康長寿、安産祈願、武運長久の四つ。
そしてここは八幡神社だから、最後の武運長久が一番得意ジャンルだ。
(それに作れって。お裁縫は苦手なのに)
お守り袋は絹地だし、糸も絹を使わなきゃいけない。
それなりに原価がかかる。
慎重にお針を運んだら咲耶子の腕でもなんとかなるけど、できたら避けたい。
「縁結びまでお願いできるって、私だって知らなかったのよ? まず神様の守備範囲が広いって、みんなに知ってもらわないと」
「そなたは本当にものを知らぬな」
琥珀色の目を呆れたように細めて、神様はやれやれと首を振る。
「仕方ない。ではそなたに我の力を少しだけ貸してやろう」
白い狩衣の腕で、神様はすっぽり咲耶子を覆う。
菊のすずしい香気に包まれた。
(なに……。ふわふわする)
いい香りの気が、咲耶子の身体を満たしてゆくのがわかる。
(これが神様の神気なんだわ)
「想い合う者は常盤、想われる者は薄紅、想う者は山吹。人の想いの矢の色が視えるようにしてやった」
神様はちょっと得意そうなドヤ顔をしている。
(人の心が視えるの?)
すぐには信じられなかった。
20
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる