産土神(うぶすながみ)様に婚活エージェントを頼まれました

yukiwa

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9.伯父様のお土産

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「これは咲耶子にだ」

 薄い紫の大きな風呂敷が、咲耶子の目の前に差し出される。

「開けてみなさい」

 急かすような伯父の口調に、ちょっとわくわくした。
 きっと咲耶子の喜びそうなものが入っているに違いないから。
 どきどきしながら、結び目をほどいた。

「まぁ!」

 矢絣のお召しに紺の袴、それに編み上げ長靴と紫のリボンまである。
 みんな、ぴっかぴかの新品だ。
 
(卒業まで後一年なのに……)

 贅沢だけど、やっぱり嬉しい。

「伯父様、ありがとう!」

 声が上ずった。
 家計を思えばとても用意できないものばかりだった。
 けど咲耶子だって、年頃の少女だ。
 仲良しの美奈子さんと並ぶと、擦り切れれた袴の裾が気にならないわけない。

「それとこれもだな」

 もうひとつ、さっきのと同じくらい大きな風呂敷が出てくる。

「まだあるの?」
「いいから開けてみなさい」

 これ以上の贅沢は怖い。
 でも期待と興味はあって、結び目をそっとほどいた。

「洋服?」

 美奈子さんが着ているのを見たことがある。
 上の衣とひざ丈までのすかーとが続いてるこれ、ワンピースとか、たしかそんな名前だった。
 薄い青の生地に白い丸襟がかわいらしい。

「これを私に?」

 油紙に包まれた黒い革の靴には、少し高めのヒールがついていた。

「先月、東京へ行ってな。その土産だ」

 ワンピースを着てる人なんて、この町では滅多に見ない。
 女学校の先生に一人おいでになるけど、その他といえば美奈子さんのようなお金持ちのお嬢さんだけだ。

(どうしよう……。嬉しい)

 言葉が出ない。
 お礼を言わなくちゃいけないのに。

「後で着て見せなさい」
「はい、伯父様。ありがとう、伯父様」

 もう今日はこのまま眠ってしまいたい。
 この後お炊事や後片付け、明日の仕度を考えて、現実に戻りたくない。
 眠るまでずっと、このワンピースを眺めていたい。
 夢のようだった。

 

「義兄上、お待たせいたしました」

 やっと現れた父の声で、咲耶子は現実に引き戻される。
 
「お茶を淹れ直してまいります」

 ここから先しばらくは、伯父と父の二人で話す。
 いつのまにか覚えた呼吸だ。
 もうずっと前だけど、伯父が大好きな咲耶子がいつまでも同席していたところ、父に下がるように言われた。

「大人の話だよ。咲耶子が聞いて良い話ではない」

 カンが悪いと責められたようで、ひどく恥ずかしかった。
 もう二度と、あんなことは言われたくない。

 火鉢にかけておいた鉄瓶を、布巾の上に下ろした。
 
(もういいかしら)

 少し冷ましたお湯で、来客用の上等なお煎茶を淹れる。
 今日のお茶碗は薄いから、あらかじめ温めることはしなかった。
 前にそうして、持てないくらい熱くなったからだ。
 甘く炊いた黒豆を、少しだけ小皿につけた。

「お待たせいたしました」

 客間に戻った咲耶子は、なんだかおかしいと気づく。

(お父様、ご機嫌が悪いわ)

 父の白い眉間には、わかりやすすぎるほどの縦じわが刻まれていた。
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