頬に落ちる、透明な君

いちごみるく

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俺が事情を把握するまで、案外時間はかからなかった。


道理で鳴美さんを学校で見かけたことがなかったはずだった。


鳴美さんの体は、高校に入った頃からガンに侵されていて、あの1週間は最後の思い出にと学校に来ていただけだったのだ。


ぼっちだと言っていたのも当然だ。

入学してからほとんど、学校に出席できていなかったのだから。


そこでたまたま出会った俺は、鳴美さんの最後の願いを叶えてあげられただろうか。


昨日の夜、今日を楽しむことができたら目的達成だと言った。

だけど"今日"は来なかった。




俺が死にたいと思わないのかと聞いたとき。

鳴美さんは哀しそうに笑っていた。

俺が中庭で咽たとき。

鳴美さんの手が異常に冷たいと思った。



何も気づいてあげられなくて、ただただ最後の1週間を俺と無為に過ごして、それで鳴美さんは幸せだったのだろうか。

思えば昨日の夜に俺がこれからも生きるからと言ったとき、鳴美さんははっきりと「違うよバカ」と言った。


俺は生きられても、鳴美さんは生きられないのに……


無意味だとわかっていながらも、もう二度と聞けない疑問と後悔の念を抱くことを辞められなかった。
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