頬に落ちる、透明な君

いちごみるく

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俺はふと正気に戻って、冷静に考えたら顔面に蝉の小便をかけられていたことに気がついた。

普段なら嫌な顔をして不機嫌になるところだ。

しかし、今は蝉のおかげで冷静になれたことや、鳴美さんとの不思議なつながりを意識できたおかげで、自然と嫌な気持ちにはならなかったのだ。


鳴美さんが言ってたのは、こういうことでもあるのかもしれない。


自然に目を向け、地球の声に耳を澄ませる。

これからもそうして生きていけば、俺のつまらない人生も何かが変わるかもしれない。


鳴美さんが生きたくて生きられなかった人としての生を、俺は懸命に生きてみせる……





そう誓って再び木を見上げた時、さっきの蝉の隣に薄いピンク色の風船が引っかかっていた。



俺はあの風船に、無性に既視感を抱いた。







そうだ、幼い頃…



まだ俺が陰キャのぼっちになる前の夏休み、ある公園で遊んでいたときに木の上から女の子が泣いている声がしたこたがあった。


女の子はピンク色の風船を取ろうとして気に登ったものの、降りるのが怖くて泣いていたのだった。


たまたまその木の下で遊んでいた俺と友達は、突然真上から降り注いだ鳴き声に驚いたのと同時に、泣きじゃくっているはずなのにその声がとても美しいと思ったこともよく覚えている。


木登りだけは得意だった俺は、その女の子を助けた。


すごくきれいで笑顔の素敵な女の子だった。


その女の子の当時の涙は少し冷たかったけど、俺が最後の夜に拭った涙は暖かかったような気がした。


こんなことを思い出すと、鳴美さんがなぜ俺に声をかけてくれたのかも、何となく分かった。


俺からすれば1週間の出来事けど、鳴美さんからしたら、もしかしたら……



俺はさっきの椅子を使って木に登り、薄いピンク色の風船を晴れた夏空に放った。


鳴美さんの笑顔と涙が見えたような気がしたけど、もう俺は痛みを感じなかった。
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