昭和浪漫ノスタルジー「遥か彷徨の果ての円舞曲」

歴野理久♂

文字の大きさ
11 / 121
一章 黄昏のパリは雪に沈む

No,8 翌日の再会

しおりを挟む

 明彦が白椿の美女に会った翌日、早速にも明日開かれる夜会の招待状が明彦の元へと届いた。
 彼女がどうして明彦の身元を知る事が出来たのか──侯爵家からの招待状は、豪田物産パリ支社を通して明彦の手に届けられた。


(まさか昨日の今日で正式な招待状が届くとは!やはりあの誘いは偽りではなかったんだ……)


 心ときめかせ、胸躍らせる明彦。その日は明彦にとっても多忙で雑事に追われてはいたが、もはや胸中は彼女の事で一杯である。

──そしてその夕刻。
 長い一日を終えホテルに戻った明彦ではあったが、明日の夜会がどうにも待ち遠しく、浮き足立って仕方がない。


(俺、かなりテンションが上がってる。どうせ今夜は寝付けないんだろうな……)


 興奮を自覚した明彦は早寝など出来ないと思い切り、夜更けのパリの街に一人で出掛けてみる事にした。
 そしてその夜、明日の夜会を待たずして再び彼女に出会う事になろうとは──それは明彦にとって、あまりにも出来過ぎた偶然だった。


 或る、由緒有りげなホテルの玄関前だった。玄関から歩道へ突き出した車寄せの屋根の周りに、多くの人が物見遊山にたむろしている。

(何事だろう?)

 明彦は見るともなしに人影の間から様子を伺って見た。どやら今宵、このホテルで何やら催し物が有るらしい。
 次々と車寄せに入る高級車の中から、華やかに正装した紳士淑女がまるでハリウッド映画のように繰り出して来る。
 詰め掛けた人々は新しい来客が到着する度に感嘆と羨望のため息を吐いて、それを物見高く見詰めていた。

(本当に、ここは華やかな街だな……)

 明彦が所詮自分とは無縁な事と、その場を遣り過そうとしたその瞬間──かの美女がいきなり明彦の視界に飛び込んで来た。


(あ!)


 彼女は、昨夜の和服姿とはあまりにも違った強烈な色彩を放ち、並み居る人々を圧倒した。それは派手過ぎる程に鮮明な真紅の夜会服であった。

 光沢の強いしなやかな生地はか細い身体をタイトに包み込み、少々多めに引きずるその裾丈と彼女独自の楚々とした所作は、その鮮烈な色彩を限りなく優雅なものへと昇華させる。
 肘まで届く長い手袋も同じ光沢の鮮明な真紅。髪飾りも同系の真紅。そして、その胸には血の色をした大粒のルビーが輝いていた。

 驚き、呆然とする明彦。


(何と言う偶然だ!昨夜に続き、今夜も出くわすなんて)


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】禁断の忠誠

海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。 蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。 病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。 そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。 幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。 ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。 その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。 宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。 互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。 己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。 宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

OUTSIDER

TERRA
BL
何故、僕らは出逢ってしまったんだろう。 裏社会の片隅で始まった、決して結ばれてはいけない二人の同居生活。 それぞれの思惑とは裏腹に、無慈悲に交差していく物語。 これは、孤独な世界で出逢った男達の抗えない愛の物語。 ■一話完結日常編ほのぼのパートと少しシリアスな本編があります。数組のカップリングがあるので章のタイトルに載っているお好みのカップリングから読んでみてください。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...