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第17章 恋愛不毛症候群

No,199 振り回される俺

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【これは30代前半のお話】

 帰宅途中の道すがら携帯が鳴った。俺のテンションが一気に上がる──待ちに待ったマモルからの着信だ!

「あ、マモル君?久し振りだね、その後どうしていたか心配だったよ?」

 それは、あの夜から10日も経っての事だった。俺は嬉しさと驚きで声がひっくり返っていたかも知れない。
「これから行ってもいいですか?」ってマモルの声。
 考える余地も無い。俺はふたつ返事で承諾した。

 今夜は持ち帰り仕事が有ってプールも休んだが、そんな事はもうどうでもいい。
 大急ぎで帰宅し、部屋を片付けているとマモルが来た。俺は着替える余裕もなくスーツのままだった。

「早かったね、近くまで来ていた?」
「あ……はい……」
「晩飯どうする?腹減ってるだろ?」
「え……?あ、いえ……」

 マモルの受け答えがそわそわと宙に浮いている。

(あれ?)

 俺を見る目が潤んでいる。身体が火照っている為か顔が赤い。そして唇が緩んでいる。
──俺は黙ってマモルを抱き寄せた。

(やっぱり……こいつ、欲情している……)

 そのままベッドになだれ込んだ。


※──────────※


 終了後──10日前の初めての時とまるで同じだ。マモルはそそくさと帰り支度を始めた。

「寮なのは分かるけど、もう少しゆっくり出来ない?もっと色々と話したいし……。
そうだ、晩飯を食いに行かない?腹減っただろ?」
「あの……まとめなきゃいけないレポートもあるし……」
 って、俺だって本当は持ち帰り仕事があるんだ。でも、突然だったけどマモルを優先した。

(やっぱ、マモルと俺じゃ温度差があるのかな)

 結局マモルは晩飯を共にする事もなく帰ってしまった。
 まあ、俺も持ち帰り仕事をちゃんと済ます事が出来たから結果オーライという訳だけど……。
──何だか淋しい。


※──────────※


 次に電話が有ったのが、なんと翌日の夜だった。最初にあんなに日にちが空いたのに、ここに来てあまりにも続けざまな感は否めない。
 その夜はプールで泳いで帰宅して、自炊していた。いつも外食では食費も掛かる。俺はご飯だけタイマーしといて、あとは納豆とか海苔とか目玉焼きとか、まるで朝食のような晩飯を食う夜が時々ある。
 まさにその食事中の事だ。
──時間は21時前?

「これから行ってもいいですか?」って、正直=ええっ?これからかよ!って心境だった。
 明朝は遠方の現場を視察するため早出の予定だった。
(でもまあ、どうせまた泊まらないんだろうし)と思い、承諾した。

 少し時間が掛かった。前回と違って、おそらくマモルも急に思い立っての電話だったのだろう。
 到着するとマモルはねだるように抱きついて来た。
 なんの会話もない。ただ俺はマモルの求めに応じてその身体を抱くだけだった。
 もちろん、その夜もマモルはこと済ませた後にそそくさと帰って行った。

──後にして思えば、俺はその頃から既に、マモルとの逢瀬に虚しさを覚え始めていたのだと思う。


(俺達、付き合ってるのか?)


 こんなの「恋人」と言えるのだろうか?

(会話が上手く成立しないのはゼネレーション・ギャップからなのか?)

 マモルの気持ちが分からなかった。


※──────────※


 その後も、俺達の逢瀬は一方的にマモルからの電話次第だった。
 2~3日おきにやって来るから結構な頻度を数えたが、俺の都合や気持ちなんてまるでお構い無しだ。
 突然マモルはやって来て、そしてそそくさと帰ってしまう。
──勝手気ままだ。

 逆に俺が会いたくても連絡するすべもない。いつまで経っても、マモルは寮の番号は教えてくれない。
 せめてもう少し、まめに向こうからの電話が欲しかった。「今何してたの?」なんて取り留めのない会話を楽しみたかった。
 なのに、待ちに待った電話は「こらから行きます」のひと言だけ。余計な会話は一切無い。

 そして会ってするのはSEXだけ──デートも食事もお泊りも無い。こんなじゃ旅行やイベントなんて期待も出来ない。


(俺が探していたのはこんな相手じゃない)


 俺の胸中に沸々と不満が溜まって行った。

(マモルにとって俺って何だ?ただ、都合の良いだけの便利な相手か?)

 そんなストレスが目一杯になった頃、いつものように電話が鳴った。



「これから行きます」
「………………」

「あの、行ってもいいですか?」
「……あのさ、俺の都合や気持ちは聞かないの?」

「え?」
「だからさ、こんな一方的な付き合いにはもう疲れたよ。
…………終わりにしよう」

「あの……今日がだめなら、いつならいいですか?」
「そうじゃなくて……もうこんな不自然な付き合いは止めようって言ってるんだ。
あのプールにも行かない。もう、君とは会わないようにする」

「そんな……」

「さよなら」


 俺は電話を切った。


(もし俺の事が本当に好きなら、またきっと電話を掛けて来るはずだ)


 肩が軽くなった。
 まるで憑き物が落ちたように、俺の心も軽くなった。


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