異世界の勇者は底辺職のようです。

マジック∮

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リーグ城.城下町

2人の勇者

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 普段より少し肌寒い日の学校からの帰り道、不思議な人を前に立ちすくんでいた。

 まるでゲームの中から飛び出してきたような――そんな雰囲気で。
 ローブに身を隠した黒髪の女性。

 「あら、遅かったじゃない。」

 その言葉に思わずドキッとして辺りを見渡す。俺以外に人は見当たらない。

 「君だよ。睦月くん」

 やはり俺に話かけているようだった。
 しかも名前を知っているらしい。

 「まだわからない?ゲームオタク彼女無し非モテ童貞の…」

 「わかった!頼むからそれ以上傷をえぐらないでくれ!」

 初対面にもかかわらず失礼なやつだ。
 しかし敵意を見せれば何をされるかわからない。今回は口を出さないでおこう。

 「で、なんか用でもあるのか?」

 「もし、『剣と魔法のファンタジア』の世界に行けるとしたら...行く気はある?」

 「もちろんだ」

 即答した。
 一番面白いゲーム。こんなつまらない世界より楽しいにきまってる。

 「即答か...。やはり君を選んで正解だったよ」

 そして、俺が声を発する間もなく。

 「この続き、君ならどう作るのかな...!」

 その笑顔と共に俺の体は光に包まれた。
 眩し過ぎる...。

 その光に睦月の意識までもが吸い込まれていった。


  ○     ○




 ――――今から10年前に大ヒットした伝説のゲーム。
 ――――ファンタジアシリーズの最初にして最後の作品。
 ――――男の子の誰もが一度は遊んだことのあるソフト。

 ここまで話せば皆、口を揃えて『剣と魔法のファンタジア』と答えるであろう。
 当時、大流行していたこのゲームは瞬く間にゲーム界のトップを独占し、伝説とさえ呼ばれるようになった。

 史上最も売れたソフトとしてギネスに載るほどに。

 ところが、このシリーズの伝説は突如終わりを迎える。

 国民の期待を背負ったファンタジアシリーズ。しかし二作目が世に出ることはなかった。
 制作会社の倒産により唐突に中止になったのだ。

 そのため、この作品には続編で回収されるはずの伏線が多く残っていて。
 まだ、明らかになっていないキャラも多く。
 未だに論争や二次創作が絶えず。
 人気が続いている理由でもある。

 もしも続編が完成していたら――――

 睦月もそんな幻に魅せられた人々の中の一人である。


  ○     ○




 目を開けると、そこは城のロビーのような所だった。
 無駄なほど豪華なその椅子には王様らしき人が座っている。

 すべて見覚えのある光景。
 始まりの城『リーグ城』。
 何も変わってない国王。
 (ほんとにゲームの世界に来てしまったっていうのか...。あの女性に色々聞いとけばよかったかもな。)

 「やあ、睦月君かね」

 「はっ、初めまして」
 ボーっとしていたところに急に話しかけられ反応が遅れてしまう。

 「魔神王を倒し平和な世が訪れ10年...。奴らは新王を迎え入れ、以前よりも圧倒的な力で再び我々を攻撃してくるようになった」

 この世界のことを話しているようだ。
 ゲームあるある。まさに定型文のような設定である。

  「そしてわしは君に勇者としての才能が備わっているとみた…!そこでじゃ!!」

 「わっ」

 王は突然大きな声を出し目を輝かせながら。
 俺に近寄ってこう言った。

 「勇者として再び世界を救ってくれんかのう...?」

 このおじさん相手に普通に答えても面白くない。
 ここは一つ。鎌をかけてみるとしよう。

 「嫌です。」

 王は一瞬驚いたように固まり、表情を緩めまた一言。

 「そんなこと言わずに...。どうじゃのう?」

 「嫌です」
 もう一度断ってみる。

 「そんなこと言わずに...。どうじゃのう?」

 「嫌です」

 「そんなこと言わず...っておい!!何回言わせるんじゃ!」

 ついに王は突っ込んだ。
 本来、無限に続くであろうそのやり取りに。
 俺の言葉に痺れを切らしたように。
 ウンザリしたように。

 なるほど。この世界はゲームと違う。
 今まで完全にNPCだった主人公以外の――この世界で言うと俺以外も、感情をしっかりと持ってやがる。

 まあ感情があった方が少しは楽しくなるだろう…。
 もちろん、このゲーム。一筋縄ではいかくなった訳だが。

 「しかしあなたは言いました。『必ずや平和を取り戻してみせます』と」

 「誰だてめえ!」

 今度は俺が突っ込んでしまった。突然すぎるその少女の登場に。

 「おいおい。だめじゃないか。私みたいな美少女にいきなり怒鳴ったりしちゃ」

 「自分で言うか...?」

 ドヤ顔をしながら長い銀髪をさらさら揺らす。
 真っ白な肌には生気が無いようで、お人形のように怖かった。

 こんなキャラに見覚えがない。恐らく新登場のキャラだ。

 「うむ!よく言ってくれた!ルーシーと共に世界を救ってくれ...!」

 「俺の言葉じゃないんだがな」

 「さて、そこの宝箱にあらかじめ装備は用意しておいた。いざ行くがよい!」

 俺の言葉をスルーして王はそう続ける。
 いや展開速すぎだろ。

 そして、仲間だったのか。
 しかし、初対面の人に自分を美少女と自称する少女。
 明るい言葉と表情とは裏腹に、感じられる冷たい雰囲気。
 果たしてルーシーと上手くやっていける気がしないんだが。

 そして、期待せずに宝箱の方を見る。
 こういう場合、大抵弱い装備しか入っていないのがオチだ。

 ルーシーがもう中身を取り出していた。

 「なあ睦月。開けて悔しき玉手箱とはこのことだろうか」

 「どんだけ難しい言葉知っているんだ。確かにその通りだが、大抵最初は弱い装備から始まるもんだぞ。」

 ゲーム慣れしてる俺はそう答える。

 俺の装備はもう取り出してあった。
 布の服にこん棒。ザ・初心者というような装備。
 そして50マルク。

 そして、彼女の方は布のローブに木の杖。
 こちらもやはり冒険始めたてのような装備である。

 「なら、あれを見てから同じことを言ってくれ」

 そう言って彼女が指さしたのは城の警備をしている兵士だった。

 「おいじじい!」

 ルーシーに放った言葉も忘れ、国王を呼び戻す。

 「今度はなんじゃ!」

 「なんで国の未来を背負った勇者より、何百人もいる兵士の方が良い装備なんだよ!しかも圧倒的に!」

 「口の悪さが気になるんじゃが...そんなの決まっておろう。」

 「何...?」

 「財政難だからじゃよ。」

 「は?」

 財政難が理由で勇者を弱くするか?
 百歩譲って今ある装備で生産が限界だとしよう。
 だったら、兵士と装備を交換し兵士を弱くするべきだ。
 何百人といる兵士の一人や二人弱くなったところで特に支障はないだろう。

 「だったら、兵士と装備を交換すれば良いじゃないか」
 
 俺が言おうとしていたことをルーシーがそのまま言う。

 「君たち、何か勘違いをしてないか?その様子じゃと勇者が最上位職だと思っとるじゃろ」

 まさか違うというのか?
 主人公だけが就ける最高職ではないのか。

 それとも10年後ということで大幅な設定変更があったのか?

 「確かに10年前はそうじゃったよ。選ばれた一人の勇者サイコロにのみ与えられた特別な役職じゃった。」

 サイコロという名前にもちろん聞き覚えはある。
 なにしろ『剣と魔法のファンタジア』で俺が主人公に付けた名前だからだ。

 「じゃが、この伝説を聞いた者は『俺も!』『私も!』って勇者になりたくてこの城に押しかけてのう...。勇者のランクを落とし最低限の装備を与えて返すことにしたのじゃ。」

 へえ。そういうことだったのか。
 予想外のライバルの出現。
 もしかして、ダンジョンの宝はもう残ってないんじゃないのか?

 「ちなみにランクはどれくらいまで落としたんだ?」

 「勇者がいなくなるまで。最低ランクまでじゃよ。だからすぐに勇者はいなくなった。これで解決じゃ。」

 そうきたか。これじゃ、自分の役職を話しただけで差別対象になってしまう。

 「しかし、奴ら魔神の軍が再び攻撃をしかけてきた。しかも以前より強くなってじゃ。勇者は必要じゃがだれもなりたがらない。だからといって増やすわけにもいかない」

 なるほど。憧れを集めすぎた故のジレンマ。
 人気が嫌な面も持ち合わせているのはリアルな設定だ。

 「そこでお前さんたちに頼んだのじゃ。これで納得したかのう」
 
 よくわかった。自分が置かれているこの状況が。

 自分の役職がばれればその町では詰み。
 しかも勇者が最低ランクという絶望。
 NPCが感情を持ったがために、どうなるか見当もつかない展開。
 おまけに前作よりも高い――もはや鬼畜難易度。
 この状況。そして感情を持った仲間。なんて最高なんだ。

 「ふむ。かなり追い詰められた状況...。最高じゃないか。」

 「ああ。最高だぜ。これから、パーティーとしてよろしくな。ルーシー。」

 「こちらこそだ。精々私の足引っ張らないにがんばりたまえ」

 「お前こそ」

 こうして俺たちの旅は始まった。
 辺りはもう暗いので明日から狩りをしようということで。
 今日はゆっくり寝ることにした。
 まだルーシーのことはよく知らないが、宿でゆっくり話そう。

 これからどんな冒険が待っているのだろう。
 期待に胸を膨らませて城を後にした。
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