異世界の勇者は底辺職のようです。

マジック∮

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リーグ城.城下町

宿の店主と吸血鬼

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 (実際、歩いてみると案外距離があるな...)
 城から城下町の宿。
 ゲーム内と現実とでは同じ距離でもかかる時間の差は大きい。

 「失礼します」
 「入っていいかい?」

 宿とは言えど一応挨拶はする。
 木造の少し大きな宿。
 10年経ってもボロさは変わっていない。

 「ああ。どうぞはいって」

 受付にいるのは優しそうなおじさんだった。
 
 「一泊2400マルクです。お泊りになられますか?」

 一瞬、店主の言っていることが理解できなかった。
 王から貰ったお金は50マルク。二人合わせても100マルクしかない。

 「いや、一泊2400マルクは高すぎないか?今晩どうしてもゆっくりしたいんだ」

 「多少の値引きなら考えるが、いくら持ってるんだい?」

 「二人合わせて、100マルクだ」

 「そりゃあ無理な話だ。ほぼタダ泊りってことだろ?」

 店主は白いちょび髭を触りながら表情を硬くする。

 「2000マルクくらいなら考えてもいいが、さすがにこれじゃ話にならないな」

 「ちょっと待ってくれ。俺たち遠い所から来てこまた旅に出なくちゃならない。今晩だけでも泊まらせてもらえないか?」

 この店主なら説得できるかもしれない。
 なにしろ店主の額には傷があった。恐らく元冒険者といったところだろう。

 「そうか。旅の者か。俺も若いころは冒険しててな、色んな無茶をしたもんだ」

 やはりそうだった。このまま話せば、なんとかなるかも知れない。

 「君達――冒険初めて間もないと見た。なんの職業なんだ?」

 ここは聞いて驚かせよう。交渉も楽になるはずだ。

「聞いて驚くなよ?俺は勇s...」

 言い終わらないうちにルーシーが口に手を被せてきた。

 「……」

 そうだった。この世界では勇者は底辺。
 そのことを完全に忘れていた。

 「迷惑かけて悪かったねマスター。私は魔法使いでこいつは私の助手だ」

 さっきまで無言だったルーシーはそう言い切った。
 俺が助手なのは不本意だが。

 「君は魔法使いか。魔法は体の負担が大きいから気を付けるんだぞ」

 「私のことなら心配ないさ。またお金が溜まったら来るよ」

 「金が無いならなんか良い仕事見つけるんだな。さあ話が済んだならもう帰ってくれ。この後、団体の予約が入っている」

 流石にこれ以上の交渉は危険だと判断したのだろう。身元がばれれば確実に追い出される。
 その上、さっきのように口を滑らせてしまうかもしれない。

 「ああまたな。ついてきたまえ助手君」

 「はいはい。わかりました師匠。」

 俺たちは仕方なく宿を後にした。
 この町最安値の宿がこのザマだ。今晩どう過ごそう。
 夜のモンスターにはいきなり挑むのは難しいだろう。

 「ありがとな。言いかけた俺を止めてくれて」

 「礼には及ばないさ。だって仲間だろう?」

 仲間か。
 やはり、仲間と一緒の方が楽しい。
 ルーシーとならこの先上手くやっていけるかもしれない。

 「さて、宿に泊まれなくなったわけだけど、今夜はオールでパーティーでもするかい?」

 「誰がこの状況でするか!それより今晩の寝床を探すぞ」

 普段と違う世界にいるからだろうか。今日はやたら疲れる。

 そのせいかルーシーの銀髪が月の光に照らされてさっきよりも美しく見えた。

 「安い宿はここしか無いんだろう?だからパーティーでもしようじゃないか。」

 「そんな金あったら、宿を取ってるわ!しかも祝うことなんて無いだろ」

 「なんの話をしている。私が言っているのはモンスター狩りパーティーのことだが」

 ルーシーが狙ってボケているのか、素でこれなのかもう分からなくなってきた。

 「一番大事なとこ略すなよ。夜のモンスターは昼間のより手ごわいぞ?」

 「分かっている。ケガしたら町に戻って回復すればいいさ。」

 「その回復ができないんだがな」

 「むむっ。まあなんとななるさ。」

 「その自信はどこから湧いてくるんだ...?」

 宿から町の外まではかなり近い。
 こんな下らない会話をしている間に村の外に出ていた。
 そして、目の前には下半身が蛇の魔物。ナーガがいた。

 なんでいきなりこいつが出てきやがる。

 「気をつけろ!こいつは近くのダンジョンのボスだった奴だ」

 「いきなりこいつに出くわすとは驚いたが...まあ見ていたまえ」

 その瞬間赤い目が不気味に輝いた。
 この感じ。初めて城で会ったときのように怖かった。

 勢いよくルーシーがナーガに飛びつく。そして、そのままナーガの首に噛みついた。

 「はむっ。ちゅうちゅうちゅう」

 「ルーシー!遊んでる場合か!速く魔法を使わないと!」

 ところが噛んでいるだけなのにも関わらず苦しそうに、のたうち回っている。
 それと対照的に彼女に魔力が集まっているようだった。

 何だこの状況。

 「まだ気付いてなかったかい。私は吸血鬼だ。」

 その言葉と強くなった冷たい雰囲気で。
 俺の心も氷点下にまで下がった気がした。

 「睦月、君をここで始末しなくちゃならない」  

 まさか。ルーシーが敵側のわけがないだろう。
 さっきまで、仲間って言ってたじゃないか。

 「おい冗談言うな。夜の悪ふざけはシャレにならないぞ」

 「なあに。すぐにわかるさ」

 そう言って目にもとまらぬ速さで高く飛び上がり、その勢いのまま拳を振り下ろしてくる。

 間一髪の所で、こん棒でガードした。
 しかし、太いこん棒かぽっきりと真ん中で折れてしまった。

 まずい。本気で殺しにきてる。

 「おい待ってくれルーシー!俺といて楽しくなかったのかよ!」

 「問答無用だ。氷剣・冷血アイスカリバー

 彼女から放たれたその魔法は、瞬く間に俺を飲み込み爆発した。

 今度は何もガードできなかった。
 体中が燃えるように痛い。
 そして、体が思うように動かなかった。

 「やめろ...ルーシー...俺と世界を救うんだろ...?」

 俺の言葉が届いていないのか。
 表情ひとつ変えずに歩いて来る。

 相変わらず、体はうごかせなかった。

 「さあて、とどめといこうか」

 彼女の左手に魔力が集まるのが分かる。

 「これが最後だ。月の憤怒ムーン・レイジ

 そのまま左腕を振り下ろし顔の目の前でとまった。

 「なーんて。冗談だよ睦月」

 意識が朦朧としてきている。
 今の彼女はなんて言ったのだろう。普通に聞くことさえ出来なかった。

 「さあ飲みたまえ」

 その声と同時に口に何か液体が入ってきた。
 そして、みるみるうちに痛みが消えていく。

 「これはナーガが落とした回復薬なんだ」

 確かにナーガはもう動かなくなっていた。
 いやそんなことより。

 「おいルーシー。なんのつもりだ。なんで急に俺を殺しかけた」

 「とりあえず、一つ聞きたまえ。睦月、君はうっかりしすぎだ。初めて会ったときから思っていた」

 「だったら言葉で言えよ!他の魔物に襲われて死ぬかもしれないんだぞ!」

 「私は吸血鬼だ。睦月も王もマスターも私の正体に気づいてなかっただろう?私以外の吸血鬼だったら間違いなく殺されていた」

 確かにそうだ。誰もルーシーの正体に気づいてなかった。

 「さっきのは、気付かなかった睦月への罰と教訓だよ。これからは気を引き締めなければならない」

 「だからって。こんな仕打ちはないだろ!」
 
 ルーシーの言葉に納得できない。

 「最大の理由は魔神族の恐怖をしってもらうためさ。吸血鬼は立派な魔神族だ」

 「じゃあ聞くが何でお前は俺の仲間になったんだ?」

 「それはこの後ゆっくり話すよ。さあて、このお金で温泉にでも行くのはどうだろう」

 ナーガから手にいれたお金は5000マルク。気が気でないがゆっくりしたいという気持ちはある。
 何しろルーシーの話を聞くまでは彼女を信用できない。

 「しっかり話してもらうぞ。お前の過去を」

 「ああ。何時間でも付き合おう」

 こうして、町に戻ろうとした瞬間。
 目の前に大きな魔法陣が浮かび上がった。

 「おいルーシー!どうなってんだこれ!」

 「これは私の魔法ではない。かなりの規模...相当な腕の持ち主だろう」

 そして、その魔法陣が複雑になっていき。
 「召喚陣・火炎龍ヴリトラ
 その謎の声と共に見たこともないような巨大な龍が姿を現した。
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