1 / 43
プロローグ
しおりを挟む
豪華な執務室に一人の老人がいた。老人は質の良い木材で出来た机で月明かりと机の上に置かれたランプの僅かな光を頼りに書類仕事に明け暮れていた。
机の上には華やかな部屋に似つかわしくない錆びた銅で出来た女性のフィギュアと大量の羊皮紙の上にまるで文鎮の様に使われている古ぼけたスマートフォンが置いてあった。
「ふぅ、いくらかメドがついたな・・・」
老人はそう呟きながら書類仕事で疲れた目頭を指で摘まみ軽くマッサージをする。
「へーかー! へーかー!」
大きな声を上げながら金髪ショートカットの幼女が勢いよく部屋に入ってくる。
そして勢いよく老人の膝の上に座る。この時に幼女の肘が老人の鳩尾に綺麗に入るが、老人は幼女に心配させまいと涙目で堪えた。
「おぉ、シャルロットや。どうしたんじゃ?」
「えっとね。もう寝る時間だから、へーかに絵本を読んでもらいたいの!」
老人の優しい問いかけに幼女は元気に答える。
「おぉおぉ。そうかい、そうかい。それじゃあ、寝室に行くとするかのぅ。それと儂はもう退位・・・じゃなくて、皇帝のお仕事を辞めちゃったから、もう陛下じゃないんじゃよ。」
「そうなの? でもばぁやはへーかって言ってたよ?」
「む、アマンダの奴め・・・ 困ったものだのぅ。後で儂から言っておくとしよう。これからはお祖父様と呼ぶようにするんじゃよ。二人だけの時はおじいちゃんでも構わんぞい。むしろ、そう呼びなさい。」
「はーい!」
アマンダは侍従長であり、老人が幼少の頃から仕えているが未だに老人を陛下、他に人が近くに居ない時は坊っちゃまと呼んでいた。
「流石に65になって坊っちゃんは勘弁して欲しい・・・」
老人はため息まじりに呟いた。
赤い絨毯が敷き詰められた長い長い廊下を幼女と老人は手を繋いで歩く。壁には間隔を空けてランタンが設置してあり、歩くのに暗さは感じられなかった。
「そう言えば、シャルは今日は何をしてたんじゃ?」
「うんとね! れーぎさほーと、おうたと、だんす!」
「そうか、そうか。3つもレッスンがあったんじゃな。それは大変じゃったのぅ。」
貴族、それも高貴な身分になればなるほど社交の場は広くなり、幼少の頃から教育され幼女も例外ではなかった。
「うん、いっぱい頑張ったから先生も誉めてくれたの! だからハイっ!!」
幼女はそう言って老人に手のひらを出す。老人はまたかと思い、財布の中から銅貨を1枚出し、幼女に渡す。
「えへへー、ありがとう。おじいちゃん。」
幼女はお礼を言って、首に下げていた袋の中に銅貨を入れる。貯まってきたのだろう、袋は膨らみを帯びていた。
老人はそれを見て、今から金をせびるとは末恐ろしいと思いつつも、一番価値の低い銅貨1枚で喜ぶとはまだまだチョロいなと考えていた。
※ ※ ※ ※ ※
寝室に着いてランタンに明かりを灯すと幼女は本棚に行き、お目当ての本を老人に渡してベッドに潜りこみ、顔だけひょこっと出す。
「なんじゃ、またこの本か。本当にシャルはこの本が好きじゃのぅ。」
「だって、その本が一番面白いだもーん。」
老人はベッドの近くにある椅子に腰を掛けて本を読み始めた。
「それじゃあ、読むぞ。むかーし、むかーし。ある所に一人の男性がいました・・・」
その絵本はどこにでもあるような英雄譚だった。一人の男性が仲間と共に悪に立ち向かい世界を救うありふれた話だった。
「こうして世界は救われ男性は英雄になったとさ。めでたし、めでたし。む? やれやれ寝てしまったか。」
老人は夢中で本を読み、気付けば幼女はすっかり寝ていた。老人ははだけた掛け布団を肩にまで掛けて幼女の髪を優しく撫でた。
「寝ている時はまるで天使じゃな。だが寝る時以外騒がしいのは『あの子』に似ているのぅ。将来は『あの子』と同じで嫁の貰い手に苦労するかもかのぅ・・・」
老人は苦笑いしながら本を戻しに本棚へ行く。
「もう30年か・・・」
老人は何処か遠い目をしながら今しがた読み終えた本の表紙を見て呟く。
「めでたし、めでたしか・・・何がめでたいもんか・・・俺はお前らの居ない世界なんてちっともめでたくねぇよ・・・」
老人の呟きはランタンの光と一緒に闇に消えていった。
机の上には華やかな部屋に似つかわしくない錆びた銅で出来た女性のフィギュアと大量の羊皮紙の上にまるで文鎮の様に使われている古ぼけたスマートフォンが置いてあった。
「ふぅ、いくらかメドがついたな・・・」
老人はそう呟きながら書類仕事で疲れた目頭を指で摘まみ軽くマッサージをする。
「へーかー! へーかー!」
大きな声を上げながら金髪ショートカットの幼女が勢いよく部屋に入ってくる。
そして勢いよく老人の膝の上に座る。この時に幼女の肘が老人の鳩尾に綺麗に入るが、老人は幼女に心配させまいと涙目で堪えた。
「おぉ、シャルロットや。どうしたんじゃ?」
「えっとね。もう寝る時間だから、へーかに絵本を読んでもらいたいの!」
老人の優しい問いかけに幼女は元気に答える。
「おぉおぉ。そうかい、そうかい。それじゃあ、寝室に行くとするかのぅ。それと儂はもう退位・・・じゃなくて、皇帝のお仕事を辞めちゃったから、もう陛下じゃないんじゃよ。」
「そうなの? でもばぁやはへーかって言ってたよ?」
「む、アマンダの奴め・・・ 困ったものだのぅ。後で儂から言っておくとしよう。これからはお祖父様と呼ぶようにするんじゃよ。二人だけの時はおじいちゃんでも構わんぞい。むしろ、そう呼びなさい。」
「はーい!」
アマンダは侍従長であり、老人が幼少の頃から仕えているが未だに老人を陛下、他に人が近くに居ない時は坊っちゃまと呼んでいた。
「流石に65になって坊っちゃんは勘弁して欲しい・・・」
老人はため息まじりに呟いた。
赤い絨毯が敷き詰められた長い長い廊下を幼女と老人は手を繋いで歩く。壁には間隔を空けてランタンが設置してあり、歩くのに暗さは感じられなかった。
「そう言えば、シャルは今日は何をしてたんじゃ?」
「うんとね! れーぎさほーと、おうたと、だんす!」
「そうか、そうか。3つもレッスンがあったんじゃな。それは大変じゃったのぅ。」
貴族、それも高貴な身分になればなるほど社交の場は広くなり、幼少の頃から教育され幼女も例外ではなかった。
「うん、いっぱい頑張ったから先生も誉めてくれたの! だからハイっ!!」
幼女はそう言って老人に手のひらを出す。老人はまたかと思い、財布の中から銅貨を1枚出し、幼女に渡す。
「えへへー、ありがとう。おじいちゃん。」
幼女はお礼を言って、首に下げていた袋の中に銅貨を入れる。貯まってきたのだろう、袋は膨らみを帯びていた。
老人はそれを見て、今から金をせびるとは末恐ろしいと思いつつも、一番価値の低い銅貨1枚で喜ぶとはまだまだチョロいなと考えていた。
※ ※ ※ ※ ※
寝室に着いてランタンに明かりを灯すと幼女は本棚に行き、お目当ての本を老人に渡してベッドに潜りこみ、顔だけひょこっと出す。
「なんじゃ、またこの本か。本当にシャルはこの本が好きじゃのぅ。」
「だって、その本が一番面白いだもーん。」
老人はベッドの近くにある椅子に腰を掛けて本を読み始めた。
「それじゃあ、読むぞ。むかーし、むかーし。ある所に一人の男性がいました・・・」
その絵本はどこにでもあるような英雄譚だった。一人の男性が仲間と共に悪に立ち向かい世界を救うありふれた話だった。
「こうして世界は救われ男性は英雄になったとさ。めでたし、めでたし。む? やれやれ寝てしまったか。」
老人は夢中で本を読み、気付けば幼女はすっかり寝ていた。老人ははだけた掛け布団を肩にまで掛けて幼女の髪を優しく撫でた。
「寝ている時はまるで天使じゃな。だが寝る時以外騒がしいのは『あの子』に似ているのぅ。将来は『あの子』と同じで嫁の貰い手に苦労するかもかのぅ・・・」
老人は苦笑いしながら本を戻しに本棚へ行く。
「もう30年か・・・」
老人は何処か遠い目をしながら今しがた読み終えた本の表紙を見て呟く。
「めでたし、めでたしか・・・何がめでたいもんか・・・俺はお前らの居ない世界なんてちっともめでたくねぇよ・・・」
老人の呟きはランタンの光と一緒に闇に消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
タイム連打ってなんだよ(困惑)
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」
王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。
パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。
アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。
「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」
目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?
※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。
『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる