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皇帝
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豪華な執務室に一人の成人男性がいた。
男は質の良い木材で出来た机で月明かりと机の上に置かれたランプの僅かな光を頼りに書類仕事に明け暮れていた。
机の上には華やかな部屋に相応しく樫の木で出来た跳ね馬の小さな像が飾られ、大量の羊皮紙の上には細かな彫刻がされた文鎮が置いてあった。
「ふぅ、いくらかメドがついたな・・・」
男はそう呟きながら書類仕事で疲れた目頭を指で摘まみ軽くマッサージをする。
「坊っちゃん、お茶をお淹れしましたよ。」
側で控えていた侍従長が男の机にティーカップを置く。
「ありがとうアマンダ。それよりいい加減坊っちゃんは止めてくれないか? もう今年で35歳なんだが・・・」
男が幼少の頃から使えている侍従長は幼い頃から現在に至るまで男の事をそう呼んだ。
男は何回もお願いしているが未だにその願いは叶えられていない。
「あら? ちゃんと近くに人がいる時は止めていますよ? それに坊っちゃんは私にとっては何時までも坊っちゃんです。 覚えてますか? 小さい頃は大きくなったらアマンダと結婚するって毎日のように言ってたんですよ? 懐かしいですね~。」
「あ、坊っちゃんで良いです。 だからその話は他の人に内緒でお願いします。」
幼少の頃から知り尽くされているので男はいつまでも侍従長に頭が上がらずにいた。
そんな男を救うかのように扉がノックされる。
「入れ。」
「失礼します。」
部屋に入って来たのは鎧を着た大きな男性だった。身長は180cmはあり丸太のような腕をしていた筋肉質の体が窺える。燃えるような赤い髪をした男性はゆっくりと机まで歩いてきた。
「何用だ? ドラクロア将軍。」
「はっ! 彼の国から外交官が帰って来たのでご報告に上がりました!」
「ご苦労。 ふっ、その様子じゃダメだったみたいだな。」
「はい、残念ですが・・・」
「ちっ! あのタヌキ共め! やはり私が自ら行くしかないか・・・」
余計な仕事が増えたなとふぅっと男は溜め息を吐く。
「へーかー! へーかー!」
大きな声を上げながら金髪のロングヘアーを靡かせ鎧を着た若い女性騎士が扉を勢いよく開け部屋に入る。
「なんだシャルティナ、騒々しい。」
「はぁはぁ・・・ 陛下! 一大事です! 国境に王国兵が集まり始めてます!」
「その報告ならすでに聞いている。まだ勇者達も到着していないし、すぐには攻めて来ないだろう。それに国境の城塞は我が国最高の城塞だ。やすやすと落ちたりはせんよ。」
「陛下、私に一軍を率いて国境の守護を命じて下さい。」
「おぉ! シャルティナよ良く言ってくれた! しかしお前には頼みたい仕事があるのだ。」
そう言って男は机の上の羊皮紙の山から数枚の羊皮紙を取り出しシャルティナに渡す。
「これは?」
「有力貴族や大商人の子息から求婚が来ている。目を通しておきなさい。」
「え!? ちょっと父上!?」
「国も大事だが父としては娘の幸せも大事だ。もう18なのだからそろそろ落ち着いたらどうだ?」
「私はまだ結婚するつもりはありませんわっ! 」
「いや、しかしなぁ・・・」
「帝位なら兄上が継ぎますし、幼いですが妹のフェルテも許嫁がいますわ。私1人くらい自由に生きても構いませんでしょう? それに私より弱い殿方の所に嫁に行きたいと思いませんわ!」
「いや・・・お前より強い男性って国内にほとんどいないし、いても妻子持ちばっかりじゃないか・・・」
娘の手強さにハァっと皇帝は溜め息を吐く。
「あ! そうだ! 将軍、ウチの娘はどうだ? 妻を病で亡くしてからもう随分立つだろう? 年の差はあるが将軍なら娘より強いし問題無いのではないか?」
話を振られた将軍は勢いよく首をブンブンと左右振り否定する。
「畏れながら申し上げます。陛下も先立った私の妻とお会いした事はあると思いますが、私の妻は聡明で夫の一歩後ろを歩くような夫を立ててくれる女性でした。 姫様みたいなじゃじゃ馬・・・ 気の強い方は私で対応できるか不安なので辞退させていただきます。」
「将軍! じゃじゃ馬はないんじゃないですか!」
シャルティナは抗議の声をあげる。
「ハァ、将軍でも無理となるといよいよ嫁に出すのが難しいな・・・ この件は王国との問題が片付くまで保留にするか・・・」
皇帝は国難でも抱えなかった頭を抱える。
「さて気を取り直してそっちを片付けるとするか。 アマンダ!」
皇帝は部屋の隅で控えていた侍従長を近くに呼ぶ。
「何時でも出発できるように旅支度をしておいてくれ。仕事が片付き次第すぐに発つ。」
「畏まりました。」
侍従長は命令されると一度礼をして部屋から出ていく。
「将軍は私の護衛として来てもらうから将軍も旅支度をしておいてくれ。」
「父上、私は!?」
「人前では陛下と呼べと言っておろうに・・・ シャルティナは帝都で待機だ。 まだ無いと思うが国境で動きがあれば一軍を率いて城塞の援軍に迎え。」
「それでは陛下、彼の地に向かわれるのですか?」
将軍の問いに短くあぁと答える。
「行くぞ、商業国家ルブルリント共和国へ!」
男は質の良い木材で出来た机で月明かりと机の上に置かれたランプの僅かな光を頼りに書類仕事に明け暮れていた。
机の上には華やかな部屋に相応しく樫の木で出来た跳ね馬の小さな像が飾られ、大量の羊皮紙の上には細かな彫刻がされた文鎮が置いてあった。
「ふぅ、いくらかメドがついたな・・・」
男はそう呟きながら書類仕事で疲れた目頭を指で摘まみ軽くマッサージをする。
「坊っちゃん、お茶をお淹れしましたよ。」
側で控えていた侍従長が男の机にティーカップを置く。
「ありがとうアマンダ。それよりいい加減坊っちゃんは止めてくれないか? もう今年で35歳なんだが・・・」
男が幼少の頃から使えている侍従長は幼い頃から現在に至るまで男の事をそう呼んだ。
男は何回もお願いしているが未だにその願いは叶えられていない。
「あら? ちゃんと近くに人がいる時は止めていますよ? それに坊っちゃんは私にとっては何時までも坊っちゃんです。 覚えてますか? 小さい頃は大きくなったらアマンダと結婚するって毎日のように言ってたんですよ? 懐かしいですね~。」
「あ、坊っちゃんで良いです。 だからその話は他の人に内緒でお願いします。」
幼少の頃から知り尽くされているので男はいつまでも侍従長に頭が上がらずにいた。
そんな男を救うかのように扉がノックされる。
「入れ。」
「失礼します。」
部屋に入って来たのは鎧を着た大きな男性だった。身長は180cmはあり丸太のような腕をしていた筋肉質の体が窺える。燃えるような赤い髪をした男性はゆっくりと机まで歩いてきた。
「何用だ? ドラクロア将軍。」
「はっ! 彼の国から外交官が帰って来たのでご報告に上がりました!」
「ご苦労。 ふっ、その様子じゃダメだったみたいだな。」
「はい、残念ですが・・・」
「ちっ! あのタヌキ共め! やはり私が自ら行くしかないか・・・」
余計な仕事が増えたなとふぅっと男は溜め息を吐く。
「へーかー! へーかー!」
大きな声を上げながら金髪のロングヘアーを靡かせ鎧を着た若い女性騎士が扉を勢いよく開け部屋に入る。
「なんだシャルティナ、騒々しい。」
「はぁはぁ・・・ 陛下! 一大事です! 国境に王国兵が集まり始めてます!」
「その報告ならすでに聞いている。まだ勇者達も到着していないし、すぐには攻めて来ないだろう。それに国境の城塞は我が国最高の城塞だ。やすやすと落ちたりはせんよ。」
「陛下、私に一軍を率いて国境の守護を命じて下さい。」
「おぉ! シャルティナよ良く言ってくれた! しかしお前には頼みたい仕事があるのだ。」
そう言って男は机の上の羊皮紙の山から数枚の羊皮紙を取り出しシャルティナに渡す。
「これは?」
「有力貴族や大商人の子息から求婚が来ている。目を通しておきなさい。」
「え!? ちょっと父上!?」
「国も大事だが父としては娘の幸せも大事だ。もう18なのだからそろそろ落ち着いたらどうだ?」
「私はまだ結婚するつもりはありませんわっ! 」
「いや、しかしなぁ・・・」
「帝位なら兄上が継ぎますし、幼いですが妹のフェルテも許嫁がいますわ。私1人くらい自由に生きても構いませんでしょう? それに私より弱い殿方の所に嫁に行きたいと思いませんわ!」
「いや・・・お前より強い男性って国内にほとんどいないし、いても妻子持ちばっかりじゃないか・・・」
娘の手強さにハァっと皇帝は溜め息を吐く。
「あ! そうだ! 将軍、ウチの娘はどうだ? 妻を病で亡くしてからもう随分立つだろう? 年の差はあるが将軍なら娘より強いし問題無いのではないか?」
話を振られた将軍は勢いよく首をブンブンと左右振り否定する。
「畏れながら申し上げます。陛下も先立った私の妻とお会いした事はあると思いますが、私の妻は聡明で夫の一歩後ろを歩くような夫を立ててくれる女性でした。 姫様みたいなじゃじゃ馬・・・ 気の強い方は私で対応できるか不安なので辞退させていただきます。」
「将軍! じゃじゃ馬はないんじゃないですか!」
シャルティナは抗議の声をあげる。
「ハァ、将軍でも無理となるといよいよ嫁に出すのが難しいな・・・ この件は王国との問題が片付くまで保留にするか・・・」
皇帝は国難でも抱えなかった頭を抱える。
「さて気を取り直してそっちを片付けるとするか。 アマンダ!」
皇帝は部屋の隅で控えていた侍従長を近くに呼ぶ。
「何時でも出発できるように旅支度をしておいてくれ。仕事が片付き次第すぐに発つ。」
「畏まりました。」
侍従長は命令されると一度礼をして部屋から出ていく。
「将軍は私の護衛として来てもらうから将軍も旅支度をしておいてくれ。」
「父上、私は!?」
「人前では陛下と呼べと言っておろうに・・・ シャルティナは帝都で待機だ。 まだ無いと思うが国境で動きがあれば一軍を率いて城塞の援軍に迎え。」
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「行くぞ、商業国家ルブルリント共和国へ!」
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