44 / 45
エピローグ
ほんの一時(いっとき)の退屈凌ぎ
しおりを挟む
「雷音、何やってるのー? 電車乗り遅れても知らないよ!」
「わかってるよ母さん、もう行く!」
スクールバッグを肩に掛け、スマホを手に取って玄関に向かう。つい最近買い替えたばかりのスニーカーは、踵を潰さずしっかりと履く。台所にいた母親が見送りに来る。いつもの朝、いつものちょっとした慌ただしさ。
「じゃあマム、行ってくるよん」
「はいはい、気を付けてね」
玄関を出て、早歩きで駅に向かう。歯医者の隣の、歯医者よりも広い空き地を通り過ぎる際、最近よく姿を見るようになった野良猫に陽気に声を掛ける。
一〇分前後で駅に到着すると、ホームには既に大勢の利用客。一番後ろの車両の一番前のドアの列、ナチュラルメイクの女性の隣に並び、スマホをいじっていると電車が来た。いつもだいたい同じ顔触れ。いつもの電車通学。
だいたい一〇分くらい乗り、四つ目の駅で降りると、人通りの多い道を真っ直ぐ、約一五分。同じ学校の生徒たちがのろのろと歩く中を掻き分けて進む。いつも混んでいる。いつも時間が掛かる。
この一連の流れを、去年の春から週に五回も繰り返し続ける事に、中津川雷音はすっかり飽き飽きしていた──五月の終わり頃までは。
──あの魔物君、そこそこ好き勝手やってはいたけど、思ってた程じゃなかったよなあ。
退屈凌ぎとして、学校の敷地内で眠っていた、若く美しく、それも強い霊力の持ち主である娘の魂を目覚めさせた。
更に約一週間後、邪悪な力により創り出された黒き森を見付け出して侵入し、最奥の広場で棺に封印されていた魔物を解放した。しかもどうやら、封印したのはあの若い娘で、その際に命を落としたようだった。
しばらくの間は両者の動きを静観していた。当初、森の魔物はなかなか面白い奴だと思えたが、悪戯のスケールが小さく、だんだん飽きてきた。
そして娘の方はというと、なかなか図書室から出て来ない。そもそもまだあまり自由に動けないようだったので、六月のある日、自分の力の一部を与える事で、死んでいて実体がない点以外は元通りにしてあげた。
──そして魔物君と美少女戦士絵美子ちゃんは久し振りに拳を交え、その結果……学校に再び平和が訪れた!
だが、雷音にとって問題は、その後だった。
──ま~た、いつも同じの退屈な日々に逆戻り!
絵美子は成仏したのか、一切姿を現さなくなった。魔物が消滅した事で、学校内で不可解な事件・事故・現象は起こらなくなった。未だに新倉は行方不明で丸崎は入院中だが、生徒たちはあまり話題にしなくなった。結局、ほんの一時の退屈凌ぎだったのだ。
──まあ、仕方ない。新たに探すか……もっと面白い退屈凌ぎをね!
雷音は人知れず笑みを浮かべると、軽やかな足取りで、他の生徒たちと共に正門の向こう側へと吸い込まれていった。
「わかってるよ母さん、もう行く!」
スクールバッグを肩に掛け、スマホを手に取って玄関に向かう。つい最近買い替えたばかりのスニーカーは、踵を潰さずしっかりと履く。台所にいた母親が見送りに来る。いつもの朝、いつものちょっとした慌ただしさ。
「じゃあマム、行ってくるよん」
「はいはい、気を付けてね」
玄関を出て、早歩きで駅に向かう。歯医者の隣の、歯医者よりも広い空き地を通り過ぎる際、最近よく姿を見るようになった野良猫に陽気に声を掛ける。
一〇分前後で駅に到着すると、ホームには既に大勢の利用客。一番後ろの車両の一番前のドアの列、ナチュラルメイクの女性の隣に並び、スマホをいじっていると電車が来た。いつもだいたい同じ顔触れ。いつもの電車通学。
だいたい一〇分くらい乗り、四つ目の駅で降りると、人通りの多い道を真っ直ぐ、約一五分。同じ学校の生徒たちがのろのろと歩く中を掻き分けて進む。いつも混んでいる。いつも時間が掛かる。
この一連の流れを、去年の春から週に五回も繰り返し続ける事に、中津川雷音はすっかり飽き飽きしていた──五月の終わり頃までは。
──あの魔物君、そこそこ好き勝手やってはいたけど、思ってた程じゃなかったよなあ。
退屈凌ぎとして、学校の敷地内で眠っていた、若く美しく、それも強い霊力の持ち主である娘の魂を目覚めさせた。
更に約一週間後、邪悪な力により創り出された黒き森を見付け出して侵入し、最奥の広場で棺に封印されていた魔物を解放した。しかもどうやら、封印したのはあの若い娘で、その際に命を落としたようだった。
しばらくの間は両者の動きを静観していた。当初、森の魔物はなかなか面白い奴だと思えたが、悪戯のスケールが小さく、だんだん飽きてきた。
そして娘の方はというと、なかなか図書室から出て来ない。そもそもまだあまり自由に動けないようだったので、六月のある日、自分の力の一部を与える事で、死んでいて実体がない点以外は元通りにしてあげた。
──そして魔物君と美少女戦士絵美子ちゃんは久し振りに拳を交え、その結果……学校に再び平和が訪れた!
だが、雷音にとって問題は、その後だった。
──ま~た、いつも同じの退屈な日々に逆戻り!
絵美子は成仏したのか、一切姿を現さなくなった。魔物が消滅した事で、学校内で不可解な事件・事故・現象は起こらなくなった。未だに新倉は行方不明で丸崎は入院中だが、生徒たちはあまり話題にしなくなった。結局、ほんの一時の退屈凌ぎだったのだ。
──まあ、仕方ない。新たに探すか……もっと面白い退屈凌ぎをね!
雷音は人知れず笑みを浮かべると、軽やかな足取りで、他の生徒たちと共に正門の向こう側へと吸い込まれていった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる