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 誉の両親に挨拶に行った。
「誉が振り回してしまって、迷惑をかけたね。これは謝礼金だが受け取ってくれるかな」
 ALICE玩具の社長がおっとりと頭を下げてくれる。
「謝礼金はいりません」
「いいからもらっておきなさい」
 社長が、しっかり亜梨子に封筒を持たせる。
 あまり断るのも、失礼になるかと思った。
「はい」
 受け取った封筒は薄かったから、安心して受け取った。
「これからよろしくお願いします」
 亜梨子はまた誉に買ってもらったワンピースと上着を身につけている。
 指には婚約指輪のダイヤの指輪をはめている。
「初孫になる。体を大切にするんだよ」
「はい」
 亜梨子の辞表は保留にされていた。
「このまま辞めるか」と言われたが、亜梨子は「働けるのなら働かせてください」とお願いした。
 貯金通帳が、また寂しくなっている。
 家を借りるときに大金を使った。
 このまま養ってもらえることは嬉しいが貯金も貯めたい。
 臨月まで働くつもりだ。
「可愛い、お嫁さんね」
 誉の母親も優しそうだ。
「母さんの料理より、亜梨子の料理の方が上手いよ」
「あら、そうなの?」
 誉は自慢気だ。のろけとも言うのかもしれない。
「有栖川家のお味を教えてください」
 亜梨子は丁寧に頭を下げる。


 封筒の中には、見たこともない小切手があった。
 0を数えるのに大変な金額だ。
 ラブドール1体の金額1500万×25体の金額が書かれていた。
 誉に返そうとしたが、受け取ってくれと言われた。
「精神的慰謝料を加えたら、まだ安いくらいだ」と言われた。
「でもね、お金ができたからって、家を出て行こうとか考えないでね」
 亜梨子は微笑んだ。
「誉さん次第よ」
「僕を一人にしないでくれよ」
 焦る誉を置いて、亜梨子は自室のクローゼットに貯金通帳を片付けた。


 結婚式の土曜日はすぐに来た。
 亜梨子はウエディングドレスを着て、その着心地の良さに感動した。
 亜梨子の大きな胸は強調されないデザインになっていた。
 ふわりと柔らかいシフォンとお洒落なレースが足下に広がる。
 長い髪は結い上げられて、花で飾られている。
 バージンロードは末長が手を取ってくれた。
「いろいろすまなかった。ホームページは亜梨子が出て行った夜、誉をすぐ戻した後、すぐに俺も研究所に戻った。完売になっていたから、ALICEの写真だけ載せて、解剖図は削除した。いろんな説明も消して、完売と書いて再販は未定と書いておいた。一度はネットで流れてしまったが、最速で止められたと思う。許されることでないと思うが、俺にできた最速の方法だった」
「ありがとうございます」
「誉はすぐに目の前が見えなくなる。暴走を止められなくて迷惑をかけた」
 亜梨子は首を左右に振る。
 もう終わったことだ。
「これから何か被害が起きるなら会社全体で守っていくと誉と社長と話し合った。あいつは照れ屋で不器用だから言わないかもしれないから、俺から報告しておく」
「ありがとうございます」
「誉は一途だよ。幸せにしてもらえ」
「はい」
 末長は誉が待つ場所まで連れて行ってくれた。
「亜梨子」 
 誉の腕に手を絡め、バージンロードを歩いた。
 厳かなオルガンの音色がする。
 身内だけの式のはずなのに、誓いのキスを終えて教会の外に出ると、ピンク部の社員が集まっていた。
「おめでとう」と声が上がる。
 人々が花びらを舞上げる。
 花が舞い散る中を歩きながら、亜梨子は今までで一番幸せだと感じた。
「ありがとう」
 誉も笑顔だ。
 いろんな辛いこともあったが、この会社に入社して良かったと心から思った。

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