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第十章
9 新年親睦会 憎しみ
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光輝が選んだ女より私の方が上等なの。
偉そうに、新年親睦会で光輝の横に座って、妻役を披露する姿は、なんだかまだ子供のように見えて、とてもお粗末だ。
お化粧もまるで普段着を着る時みたいに薄くて、派手やかさはない。
派手やかさがないのに、愛らしさがあるのが許せない。
わたしにも愛らしさはあったような気がするけれど、それはずっと昔の様な気がする。
光輝に相応しい女になるために、早くからお化粧をマスターして、派手な洋服を身につけてきたけれど、もしかしたら、私は真逆なことをしてきたのだろうか?
光輝が好きになった女の子は、純粋で無垢で、愛らしい。
私が幼い頃に捨て去った物が、詰まったような子のようだ。
意地悪をして、英語で会話をして女に理解できないように早口で話した。
案の定、私達の会話は理解できていないようだった。
慣れない和服を着て、夜道を歩くのは大変だった。
けれど、転び掛けると和真だけではなく光輝まで手を貸してくれる。
自分の妻の手まで放して、抱き留めてくれた。
嬉しくて、抱きついたら、すぐに、引き剥がされた。それっきり私に手を貸さなくなった。
着物で歩いたことはない。
歩こうとすると、転んでしまう。
前のめりになって、手をついて転倒は防いだけれど、一歩前に足を踏み出すのが怖くなる。
前に飛んだ草履を女は、私の目の前に置いた。
「歩幅を狭くすると歩きやすいですよ」
「指図しないで」
「……ごめんなさい」
女はすぐに謝罪して、光輝と手を繋いで歩き出した。
一緒にアメリカからやって来た和真の友人のティファまで女と手を繋いでいる。
全く面白くない。
和真は冷めた目で私を見る。
【だから、普段着で行けばいいと言っただろう】
【何のために着つけの練習をしてきたと思うの?】
私は今日の為に着つけの練習をしてきたのだ。
あの女のような豪華に帯は結べなかったが、日本で言う普通の結び方はできるようにしてきた。
草履で歩くのは初めてだ。
足が前に出ない。歩こうとすると真っ直ぐに下りる着物が邪魔をして、足が出ない。
それで転びそうになる。
【美緒ちゃんが教えてくれただろう?歩幅を狭くするんだって】
何が美緒ちゃんよ。
悔しいけれど、初詣に出てきた円城寺家の人達は、もう誰もいなくなってしまった。
光輝の姿も女の姿も見えなくなった。
和真と二人で、人気のない道に屈む。
あまりに自分が哀れで仕方ない。
着物なんて着てこなければよかった。
【和真、手を貸して】
すっと目の前に手を差し出されて、私は和真の手を握った。
あの女が言ったように、歩幅を狭くして歩いてみたら、歩けた。
ゆっくり、ゆっくり歩いて行く。
もう和真の手もいらない。
自分で歩いて行ける。
握られた手を振りほどいて、歩き出すと、和真は聞こえるような大きなため息を付いた。
【本当に可愛くないな?】
【放っておいて。私は和真のセフレで婚約者じゃないわ】
【普通はセフレから婚約者になりたいんじゃないのか?】
【私、和真を好きだと思った事がないの。愛情もないのに、結婚するって変じゃない?】
【俺も玲奈を好きだと思った事はないけど、可愛いと思った事は何度かあったよ。今は少しも可愛くないけどね】
私はフンと顔を背けた。
【婚約破棄しましょう。和真といると息苦しい。一緒の部屋にいるのが苦痛なのよ】
【それなら空き部屋を探してもらおうか?】
【そうしてもらえる?私、次の宿泊先が見つかったら、このホテルを出て行くわ。せっかく日本に来たから観光をしていくわ】
【勝手にしろ】
和真は本気で怒ったようだ。
このホテルで久しぶりに光輝を見て、やはり私は光輝が好きだと思ってしまった。
光輝が大切にしている女を傷つけて、光輝を苦しめたい。
私の純情を踏みにじった復讐を遂げたら、アメリカに戻ろう。
和真と一緒にいたら、復讐の準備ができない。
何でも持っていそうな女から、何もかも奪ってやる。
愛されて育った女をボロボロにしてやる。
ホテルに戻ると、和真はフロントで空き部屋の確認をして、鍵をもらってきた。
一度、二人にあてがわれた部屋に戻ると、和真は自分の荷物を纏めだした。
【俺が狭い部屋に行ってやる。だが、俺の目の届かないところで、兄や美緒ちゃんに迷惑をかけるな。いいか?】
【何もしないわ】
和真は部屋から出て行った。
私はスマホを出すと、母国の友人に電話をした。
【手伝って欲しい事があるの。今から来てくれる?場所は……】
セフレの関係にあるのは、和真だけではない。
和真とセフレになった後、セフレは何人もできた。
いい友人も、悪い友人も……。
自家用ジェットを持った友人も一人や二人ではない。
偉そうに、新年親睦会で光輝の横に座って、妻役を披露する姿は、なんだかまだ子供のように見えて、とてもお粗末だ。
お化粧もまるで普段着を着る時みたいに薄くて、派手やかさはない。
派手やかさがないのに、愛らしさがあるのが許せない。
わたしにも愛らしさはあったような気がするけれど、それはずっと昔の様な気がする。
光輝に相応しい女になるために、早くからお化粧をマスターして、派手な洋服を身につけてきたけれど、もしかしたら、私は真逆なことをしてきたのだろうか?
光輝が好きになった女の子は、純粋で無垢で、愛らしい。
私が幼い頃に捨て去った物が、詰まったような子のようだ。
意地悪をして、英語で会話をして女に理解できないように早口で話した。
案の定、私達の会話は理解できていないようだった。
慣れない和服を着て、夜道を歩くのは大変だった。
けれど、転び掛けると和真だけではなく光輝まで手を貸してくれる。
自分の妻の手まで放して、抱き留めてくれた。
嬉しくて、抱きついたら、すぐに、引き剥がされた。それっきり私に手を貸さなくなった。
着物で歩いたことはない。
歩こうとすると、転んでしまう。
前のめりになって、手をついて転倒は防いだけれど、一歩前に足を踏み出すのが怖くなる。
前に飛んだ草履を女は、私の目の前に置いた。
「歩幅を狭くすると歩きやすいですよ」
「指図しないで」
「……ごめんなさい」
女はすぐに謝罪して、光輝と手を繋いで歩き出した。
一緒にアメリカからやって来た和真の友人のティファまで女と手を繋いでいる。
全く面白くない。
和真は冷めた目で私を見る。
【だから、普段着で行けばいいと言っただろう】
【何のために着つけの練習をしてきたと思うの?】
私は今日の為に着つけの練習をしてきたのだ。
あの女のような豪華に帯は結べなかったが、日本で言う普通の結び方はできるようにしてきた。
草履で歩くのは初めてだ。
足が前に出ない。歩こうとすると真っ直ぐに下りる着物が邪魔をして、足が出ない。
それで転びそうになる。
【美緒ちゃんが教えてくれただろう?歩幅を狭くするんだって】
何が美緒ちゃんよ。
悔しいけれど、初詣に出てきた円城寺家の人達は、もう誰もいなくなってしまった。
光輝の姿も女の姿も見えなくなった。
和真と二人で、人気のない道に屈む。
あまりに自分が哀れで仕方ない。
着物なんて着てこなければよかった。
【和真、手を貸して】
すっと目の前に手を差し出されて、私は和真の手を握った。
あの女が言ったように、歩幅を狭くして歩いてみたら、歩けた。
ゆっくり、ゆっくり歩いて行く。
もう和真の手もいらない。
自分で歩いて行ける。
握られた手を振りほどいて、歩き出すと、和真は聞こえるような大きなため息を付いた。
【本当に可愛くないな?】
【放っておいて。私は和真のセフレで婚約者じゃないわ】
【普通はセフレから婚約者になりたいんじゃないのか?】
【私、和真を好きだと思った事がないの。愛情もないのに、結婚するって変じゃない?】
【俺も玲奈を好きだと思った事はないけど、可愛いと思った事は何度かあったよ。今は少しも可愛くないけどね】
私はフンと顔を背けた。
【婚約破棄しましょう。和真といると息苦しい。一緒の部屋にいるのが苦痛なのよ】
【それなら空き部屋を探してもらおうか?】
【そうしてもらえる?私、次の宿泊先が見つかったら、このホテルを出て行くわ。せっかく日本に来たから観光をしていくわ】
【勝手にしろ】
和真は本気で怒ったようだ。
このホテルで久しぶりに光輝を見て、やはり私は光輝が好きだと思ってしまった。
光輝が大切にしている女を傷つけて、光輝を苦しめたい。
私の純情を踏みにじった復讐を遂げたら、アメリカに戻ろう。
和真と一緒にいたら、復讐の準備ができない。
何でも持っていそうな女から、何もかも奪ってやる。
愛されて育った女をボロボロにしてやる。
ホテルに戻ると、和真はフロントで空き部屋の確認をして、鍵をもらってきた。
一度、二人にあてがわれた部屋に戻ると、和真は自分の荷物を纏めだした。
【俺が狭い部屋に行ってやる。だが、俺の目の届かないところで、兄や美緒ちゃんに迷惑をかけるな。いいか?】
【何もしないわ】
和真は部屋から出て行った。
私はスマホを出すと、母国の友人に電話をした。
【手伝って欲しい事があるの。今から来てくれる?場所は……】
セフレの関係にあるのは、和真だけではない。
和真とセフレになった後、セフレは何人もできた。
いい友人も、悪い友人も……。
自家用ジェットを持った友人も一人や二人ではない。
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