裸足のシンデレラ

綾月百花   

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第十章

14   新年親睦会   誘拐2

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 ※ 軽くレイプシーンあります。苦手な方は、※を抜かしてください。



 ※↓
 目を覚ますと、わたしは、どこかで、男に貫かれていた。

 体の中に大きな異物があり、激しく動いている。

 お腹の中がすごく痛い。

 大きく開かれた足が目視できる。

 背中も痛い。

 土ではない。コンクリートか木材か。硬い物が素肌を擦る。

 すごく冷たい。


【目を覚ましたか?】

【やめて、何しているの?】

【君の体の中を見知らぬ男の精液で満たしているんだ】

【いやだ!痛い!】


 男は達したのか、わたしを引き寄せて、奥に欲望を押しつける。

 内臓が破れてしまいそうな恐怖を感じる。


(怖い、助けて)


【いやだ!助けて!痛い!】


 わたしは身をよじって逃げだそうとした。けれど、強く硬い拳がわたしの顔を殴る。

 父の拳の比ではない。一矢君より強い。


【黙ってやられろ】


 左右の頬をサンドバッグを殴るように拳で殴られて、喉の奥に血が流れてくる。

 鼻血が出たのかもしれない。

 藻掻く手を押さえられて、次々に襲われる。


「いやだ、たすけて」 


 深々と挿入されて、わたしは人形になったように、犯され続けた。

 ただ痛くて、こんな性交は初めてだ。


「いやだ、光輝さん、助けて」

【光輝か?光輝のせいで、おまえはやられるんだ!】

「痛い!痛いってば!」

【俺等の子を産めよ。面白い騒ぎになるぜ】

「いやだ」


 もう英語で話すことはできなかった。聞き取ることもできない。そんな余裕はなかった。

 押さえつけられたわたしは、抵抗もできなかった。

 わたしは数を数える。白人が3人と黒人が2人。5人の男の玩具にされている。

 胸元も乱されて、ブラも手で引き裂かれた。

 光輝さんと違う手が、わたしを玩具のように嬲る。


【抵抗したら、刺してやる】


 顔の真横にナイフが刺さった。


「ヒィ!」


 わたしは抵抗も身動きもできなくなった。

 体が横に揺れると、ナイフが頬や首に触れて、チカッとした痛みが走る。

 ただ怖い。

 この時間が早く終わることだけを、待った。

 目を覚ましてから、どれくらいの時間が過ぎたのか分からない。

 髪も体中も男の精液で汚された。

 匂いが青臭くて、気持ちが悪い。


【お、いい指輪をしているじゃないか?】


 指輪を抜かれる前に、わたしは急いで左手の薬指を口に入れると、歯で指輪を抜いて飲み込んだ。


【おまえ、飲み込んだのか?吐き出せ、この野郎!】


 脇腹を蹴り上げられ、痛みに呼吸ができなくなる。

 何度も何度も脇腹を蹴られ、顔の真横にあるナイフが、頬や首に当たる。


【指輪を吐け】


 今度は別の男が、みぞおちを拳で何度も殴った。痛くて息ができない。


【指輪は諦めろ】

【クソまみれで出てくるぜ】

【そろそろいいだろう】


 男達は満足したのか、わたしから離れて見下ろす。


【撮影したから、楽しみにしていることだ。SNSに流してやる】


 ※↑


 男の一人がわたしにスマホを見せた。

 動画で撮られていて、それをSNSに流される事が分かった。

 光輝さんにまた迷惑をかけてしまう。

 男達はわたしを置き去りにして、出て行った。

 わたしはレイプをされたのに、何故か冷静だった。

 体が鉛のように重い。

 ゆっくり体を起こすと、ナイフで切れた髪が床に落ちた。

 痛くて、そして、とても寒い。

 這いずって明け放れた扉の前に移動した。

 雪が吹雪いていた。

 積もってはいないが、わたしのいる場所まで雪が舞い込んでくる。

 外に車が駐まっていて、皆がそこに乗り込んでいる。

 わたしは破れたスカートに触れた。スマホがあった。

 ポケットからスマホを出して、ナンバーと人が見えるように写真を撮った。

 車は走り去った。

 わたしは光輝さんに電話を掛けた。

 ワンコールで繋がった。



『美緒!どこにいる?』

「光輝さん、ごめんなさい」

『場所を教えてくれ?』

「うん」


 開けられた扉から見える景色を見た。 


「目の前に、石の階段がある。鳥居が見える。お正月に来たところに似ている」

『すぐに迎えに行く』

「待って、……わたしレイプされて、映像をSNSに流すって言われた。ごめんなさい。また迷惑をかけてしまう。ごめんなさい。穢されてごめんなさい……」



 扉の外から雪が舞い込んで寒い。

 わたしは扉を閉めて、スマホの通話を消すと床に横になった。

 体が鉛のように重い。

 これからどうしたらいいのか、考える。

 授業で習った事があった。

 レイプされたら、まず警察に行って病院に付き添ってもらって精液詐取した後に、アフターピルを飲めば妊娠は避けられる。

 大丈夫、大丈夫と言い聞かせる。そうしてないと弱いわたしが泣き出してしまう。

 泣くのは、全て終わってからでいい。


「2,3,5,7,11,13……」


 わたしは素数を数えて、現実逃避をしていた。




 …………………………*…………………………




「美緒!」

 社の扉を開けられ、光輝さんが入って来た。

 閉じていた目を開けた。


「美緒!」

「警察に連れて行って、アフターピル飲まないと赤ちゃんができちゃう」


 わたしは重い体をゆっくり起こした。


「ああ、すぐに行こう」


 抱きついてこようとする光輝さんを、「待って」と止める。


「体中に精液とか、汚いのがついているから、これも証拠になるね?」

「ああ、なるだろう」


 ストールを掛けようとする光輝さんの手を拒んだ。



「証拠品がなくなっちゃう」

「寒いだろう。ストールなら証拠が消えたりしない。」

「うん」



 光輝さんはわたしを包むように、わたしのストールを掛けてくれた。



「犯人は白人3人と黒人2人だった。日本語は通じてないと思う。全部英語で話していた」


 わたしはポケットに触れた。


「写真、撮ったの」


 すぐにスマホの写真を開く。

 男達が乗り込む所の車の写真が写っている。


「知っている?この人達」

「俺は知らない。後で和真とティファに聞いてみよう」

「うん」

「立てるのか?」

「たぶん」


 立ち上がると、フラリと体が揺れる。

 殴られたお腹や脇腹が痛い。


「体が重くて痛い」

「抱き上げるか?」

「大丈夫」


 わたしは光輝さんの手を拒んだ。

 けれど、光輝さんはわたしを抱き上げて歩き出した。



「靴は車の中だ」

「汚いわたしを乗せてくれる?」

「美緒は汚くない」


 男の精液でグチャグチャなわたしが汚くないはずがないのに、光輝さんは汚くないと言ってくれた。

 光輝さんの車の後ろに、もう一台、車が駐まっていた。

 和真さんとティファさんだった。

 どんな顔をしていいのかわからない。

 二人は駆け寄ってきて、わたしを見て、何も言わずに、車の扉を開けてくれた。

 わたしは光輝さんの車に乗せられた。



「警察に行って、病院に連れて行く。後の事は頼む。映像をSNSに載せると言われたそうだ。調査を頼みたい」

「任せとけ!もう手は打った!」

「引き続き調査をしておく」

「頼んだ」


 簡単な遣り取りで、光輝さんは、すぐに運転を始めた。

 単調な音声のナビの声が、現実味を遠ざける。



「卓也さんと恵麻さんは無事ですか?突然部屋の扉が壊されたみたいで、男達が入って来たの。男達は体も大きくて、すごく強くて、二人とも強いはずなのに、殴られて蹴られていたから」

「卓也君と恵麻君は病院に入院させた。今頃は精密検査をしているだろう」

「無事だといいけど」

「美緒、今は自分の事を考えなさい」

「……うん、そうする……2,3,5,7,11,13……」


 素数を数えて、何も考えない。

 全て終わるまで、泣かないために。
 


 …………………………*…………………………




 警察に行って事情を話して、検査キットで精液採取して、指定病院に連れて行かれた。

 そこでも精液の採取を行われた。膣内洗浄と裂けた膣口の縫合もお願いした。

 子供を産むときに裂けるだろうから、そのままでもいいと言われていたけれど、どうしても嫌だった。

 できるだけ、元の体に戻して欲しいとお願いした。


「悔しいんです」

「分かりました」


 性交渉は暫く禁止だと言われた。膣壁がびらんを起こして、出血をしている。裂けた膣口も縫っている。

 婦人科の処置が終わると、最初に運び込まれた救急外来の一画に作られたシャワーブースで看護師さんに手助けされながら、シャワーを浴びる。

 わたしは、そのまま処置を受けるには汚れすぎていた。体中に浴びている精液をできるだけでたくさん採取してから、髪も肌も痛みの残る顔も綺麗に洗ってもらえた。

 やっと青臭い匂いもなくなり、院内の検査着を借りて、綺麗にされたストレッチャーに横にされた。

 髪がボサボサで、手櫛で整える。

 淡々とした作業で、涙は止まっている。

 それから処置室で顔の処置をされながら、男達が殴った腹や脇腹のエコーをして、検査室に運ばれ、いろんな検査
 を行われた。

 ストレッチャーで検査室に運ばれるときに、光輝さんに会えた。

 光輝さんは、すぐにわたしの側に寄って来て、わたしの横を歩いている。


「美緒、大丈夫か?」


 わたしは頷いた。すぐに手を繋いでくれる。


「今から検査をしますから」


 看護師さんが光輝さんに告げる。


「お願いします」


 腕には点滴が刺されている。

 指輪を飲み込んだ。その所在も確認しなければならないし、全身の検査……打撲痕も検査をしなければならないらしい。

 レントゲンで指輪の位置を確認すると、医師達が相談し始めた。

 そのまま汚物と一緒に出てくるまで待つか、内視鏡を使って取るか。

 そのまま待つのは、途中でどこかに引っ掛かるリスクとアレルギーを起こすこともあるそうだ。

 指輪が比較的取りやすそうな位置にあることから、内視鏡で指輪を取ることになった。

 内視鏡室に連れて行かれた。

 喉を通る管が苦しい。


「見つかりましたよ、取りますので、動かないように」


 暗室で医師が内視鏡を使って、指輪を取ろうとしてくれている。看護師さんが背中をさすってくれる。

 苦しくて、涙が出る。けれど、盗まれていたら、きっと、もっと辛かったと思う。

 一つ目が取れて、二つ目を取るとき、また管が喉を通る。苦しくて、また涙がこぼれる。

 指輪は看護師さんが洗って、光輝さんに手渡したと言った。

 処置が終わると、やっとピルを飲んだ。これで妊娠の心配はなくなる。

 父親が誰か分からない子供は産みたくはない。

 光輝さんの子なら産みたい。それ以外はいらない。

 わたしは、そのまま入院することになった。

 顔の殴打の傷も酷く、脳出血を起こしているらしい。

 脇腹やみぞおちの殴打で、内臓が腫れていると診断されて、安静を強いられた。

 脳出血は薬で様子を診ていくと言われた。

 たくさんの点滴に繋がれた。痛み止めも落とされている。


「ごめんなさい、また入院になって」

「美緒に辛い想いをさせたのは、俺のせいだ。すまない」

「写真の人、知らない人だったのでしょ?きっと運が悪かったんだよ」



 光輝さんの手がわたしの髪を撫でる。

 体中の擦過傷と打撲痕があるので、どこもかしこも痛くて、目を閉じて体を休めることにした。

 心の中では素数を数える。

 自分がレイプに遭ったことは忘れたい。

 昨日、結婚式を挙げたばかりなのに。

 どうして、こんな事になってしまったのだろう。



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