裸足のシンデレラ

綾月百花   

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第十八章

5   ダンスパーティーデビュー

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 今日は晴輝と輝明、彩花のダンスパーティーデビューの日だ。

 晴輝と輝明は、タキシードを身につけて、彩花は薄いピンクのドレスを身につけた。

 彩花の背中のリボンを締めて、リボンを結ぶと、彩花は緊張しているのか、プハーと息を吐いた。


「苦しくはない?」

「お腹に力を入れていたから、そんなに窮屈にならなかった」


 膝下のフレアースカートが付いているので、来年も着られるデザインを選んだ。

 裾が長すぎると、トイレも行きづらくなるので、初心者にはちょうどいい長さだと思う。

 髪にリボンで飾りを付けて、彩花を可愛く飾った。

 肌は綺麗なので、そのままで、唇にわたしの口紅を薄く塗ると、完璧に美しい令嬢の出来上がりだ。


「もう、いいわよ」

「ママ、ありがとう」


 彩花は嬉しそうに子供達の輪の中に戻っていった。

 直輝と大輝はスーツを着ている。

 わたしもドレスを身につけた。

 光輝さんがリボンを締めてくれる。


「彩花は美しくなったな」

「これから、もっと彩花は綺麗になっていくわ」


 まだ小学校1年生だ。

 もっと大人の女性になっていくと、きっと今より美しくなると思う。

 背もわたしより大きくなって、見栄えもよくなっていくだろう。

 成長が今から楽しみで仕方が無い。

 わたしのウエストのリボンを縛って、光輝さんはわたしを抱きしめた。


「今日も綺麗だよ」

「ありがとう」


 体を離すと、わたしの宝石箱から、ネックレスとイヤリングを出して、付けてくれる。

 髪はアップして、シンプルなストーンの付いた飾りを付けてある。

 綺麗に飾られて、わたしは光輝さんと一緒に子供達が待っているリビングに行くと、子供達が近づいてきた。


「「「ママも綺麗」」」


 彩花と直輝と大輝が声を合わせた。


「ママはパパのお姫様だからな」


 光輝さんはわたしを褒めてから、彩花の前に移動すると、彩花と視線を合わす。



「彩花も美しい」

「パパ、ありがとう」

「今日は最初にパパと踊ってくれるね?」

「はい」


 彩花は照れくさそうに、微笑んでいる。


「さあ、行こうか」



 今日は加羅さんと宇賀田さんは、黒のスーツを着て、水野さんはワンピースを身につけている。

 皆で部屋を出ると、女性SPが二人と男性SPが二人、わたし達の後を付いてくる。

 女性SPが増やされたのは、わたしと彩花を守る為だ。彩花が一人でトイレに行く時に、目を離さないように見張ってもらう為だ。

 わたしと子供達が誘拐されないように、SPの中で配置を考えて提案された。

 SPは全員で6人雇っている。夜間の間、部屋の外も守ってもらう為に、残りの二人は夜間要因になっている。

 バールで部屋に押し込まれた事があるので、手薄になる夜間も警備をお願いしている。

 パーティー会場に入ると、華やかなドレスを着た女性達と黒いタキシードを着た人達が、既に会場にいた。

 光輝さんが歩くと、道が開く。

 皆が頭を下げる中を進んで行くと、光輝さんは総帥のテーブルの近くに立った。

 今日は子供達用に椅子が置かれている。水野さん用の椅子も用意している。

 子供達をそこに座らせて、光輝さんとわたしは並んで立っている。

 今年も音大から女性を招いている。

 音の調整をしている。

 人々が会場の中に入ってくる。

 子供を連れた桜子さんも会場に入ってきた。

 桜子さんはオレンジのドレスを着ていた。

 わたしはオレンジっぽいピンクのドレスなので、全くバッティングしたわけではないけれど、似た色であることは間違いない。

 一緒に男性三人もいたが、桜子さんは子供だけ連れて、わたし達の前まで着た。

 我が家の子供達が、緊張しているのが分かる。

 晴輝と輝明が彩花の手を繋いでいる。



「昨日は、申し訳ございませんでした。さあ、謝りなさい」

「「「「「すみませんでした」」」」」


 五人の子供達が、声を合わせて、彩花に頭を下げた。

 男の子は半ズボンにブレザーを着ている。女の子達はワンピースを着ていた。


「彩花、許してあげられるな?」

「はい、パパ」


 彩花は返事をしたが、晴輝と輝明は、子供達を睨んでいる。

 何か事が起きたら、彩花を守ろうと身構えている。


「光輝、美緒、ごめんなさい。わたくしがしっかり見てなかったから、迷惑をかけました」


 最後に桜子が、深く頭を下げた。

 桜子さんの子供達が、桜子さんを見ている。


「これからは、しっかりしなさい」


 光輝さんは声をかけた。


「はい」


 頭をあげた桜子は、子供を連れて離れて行った。

 雅人と巧己が双子の手を繋いでいる。

 末っ子の琉真は桜子さんが、手を繋いでいる。

 ほったらかしになっていた子供達は、大きな子が双子の手を繋ぐことで、纏まって見える。

 桜子さんなりに考えたのだろう。

 壁側に寄った桜子さんの所に、三人の男性が近づいて行った。

 子供達が男性に甘えている。


「桜子さんはどうするのかしら?弁護士は想像より雑務も多くて忙しいのに。アメリカに行った恵麻さんもアメリカ支部に配属になって、日本に帰国していないのに。三人も日本に置くとは思えないのよね」

「所長に確認したら、三人共、日本で仕事がしたいと希望を出しているらしい。所長は、三人共アメリカに留学をさせたいらしい。企業弁護士として経験を積ませたいが、拒んでいるらしい。桜子には、忠告はした。彼等が伸びるのか排除されるのか、桜子次第だ」

「頑張って弁護士になれたなら、もっと自分を伸ばさなくちゃ勿体ないわ。誰でもなれる物ではないのに、わたしもずっと小さな時から、目標を立てて、勉強をしてきたのに……。彼等の努力が、桜子さんに潰されてしまうと思うと、すごく残念だわ」

「彼等とも面談をするか?」

「桜子さんの肩を持つ可能性が高いわ。桜子さんが彼等の背中を押してくれたら、彼等は努力すると思うけれど。桜子さんの言葉には、どこか逆らえない威力があるのよ。子供の親として、彼等を支配しているなら、彼等は桜子さんの言葉に逆らえないと思うの」

「言葉の威力か」

「わたしも何度も桜子さんの言葉の威力で逆らえなくなったから、分かるの。桜子さんは意識的か無意識なのか分からないけれど、人を縛る言葉を使うの。その言葉から簡単に逃れられない。残されるのは、罪悪感よ。わたしも光輝さんが助けてくれなかったら、自分を見失ったまま操作され続けていたわ」

「言葉で縛られている可能性があるなら、彼等を解放してやらなくてはならないな。明日にも招集するか?」

「助けてあげて」

「荒療治になるが、桜子から引き離してみよう」


 光輝さんの瞳がキラリと輝いたように見えた。

 もう大丈夫のような気がした。

 司会者が「子供ダンスの時間です」と言った。

 わたしと光輝さんは子供達と手を繋いで、ダンスを踊る。

 いつの間にか、和真さんとティファさんも来ていて、子供達と手を繋いで、クルクルダンスを踊る。

 軽やかな弦楽四重奏曲が演奏されている。

 桜子さんの子供は、男性三人と混ざって踊っている。

 桜子さんも子供達も男性たちも楽しそうに踊っている。

 わたしは間違った事を言ったのだろうか?

 余計なお世話だったろうか?

 迷いながらも、わたし自身ができなかった弁護士の仕事ができる彼等が、その道を閉ざされることが悔しく感じられて、やはりわたしは間違ってないと信じたいと思った。




 …………………………*…………………………




 子供ダンスが終わった後に、軽やかなダンスのメロディが流れ出した。

 光輝さんは、彩花の手を取り、わたしは晴輝の手を取り、輝明はティファさんが手を取ってくれた。

 ファーストダンスが始まった。

 彩花も晴輝も輝明も嬉しそうに笑顔を浮かべている。

 晴輝はまだリードはできないので、わたしも光輝さんとダンスの練習をしていた。

 わたしが上手にリードしながら、晴輝は嬉しそうに踊っている。

 わたしの身長が低いので、わたしより少し小さい晴輝は踊りやすかったかもしれない。

 曲の途中で、わたしは輝明と踊った。

 晴輝はティファさんと踊っている。

 彩花は和真さんと踊っている。

 昨日は泣いていた彩花は、今日は笑顔だ。

 ステップもターンも完璧に踊っている。

 この時間は、わたし達のお披露目の時間なので、皆はわたし達を見ている。

 一曲踊り終えて、拍手された。

 前方に並んで一礼する。


「今日は長男、晴輝、次男、輝明、長女、彩花のファーストダンスを行いました。健やかに成長している姿を見ていただきましてありがとうございました」


 光輝さんは、彩花と手を繋いで、挨拶をした。

 もう一度、一礼をする。

 それから、一度、控えの場所に移動する。

 拍手で見送られ、暫くすると、音楽が流れ出した。


 皆がダンスを始めた。


「晴輝も輝明も上手だったよ」

「彩花もすごく上手だった」


 三人とも照れている。



「彩花ちゃん、上手だったよ。また踊ってね」

「和真お兄ちゃん、私も楽しかった。また踊ってね」

「今からまた踊るか?」

「うん」


 彩花は、和真さんに誘われて、ダンスの輪の中に入っていった。


「ティファお姉ちゃん、踊って」

「いいとも!」



 晴輝がティファさんの手を引っ張って、ダンスの輪の中に入っていった。

 輝明が、わたしをじっと見ている。



「輝明は、少し待っていなさい。ママはパパと先に踊るから」

「大人気ないわ」


 光輝さんはわたしをエスコートして、ダンスを始めた。

 クルクルダンスを踊っていると、オレンジのドレスが見えた。よく見ると桜子さんと男性が踊っている。



「ねえ、あれ、桜子さんよ」

「どこだ?」

「オレンジのドレスよ」


 わたし達はダンスをしながら、中央まで行った。

 壁側に子供を立たせて、二人の男性が子供を見ている。


「もしかして、代わる代わるダンスをしているの?子供を放置して」

「美緒、声が大きい」

「ごめんなさい」


 わたし達はダンスをしながら、桜子さん達を観察した。

 いつもは、一度しか踊らないけれど、何度も踊って、観察した。

 4度目に踊った後に、確信に変わった。

 最初に踊っていた相手に、戻っている。

 桜子さんは、順番に男性と踊っているのだ。

 わたし達は、席に戻った。

 ずっとダンスをしていられる立場ではない。

 総帥の椅子に座ると、すぐに面談を始めた。

 今日、お披露目をした子供達は、和真さんとティファさんが相手になってくれている。

 小さな子供達は、加羅さんが隣の椅子に座って話し相手になってくれている。


 

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