《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

文字の大きさ
30 / 71

30   続く魚料理

しおりを挟む
「少し、早いですが、夕食の時間に致しましょう」


 帰宅後暫くしてから、宰相が部屋に迎えに来た。


「すまないが、入浴をしたいのだが」

「気づかずに、申し訳ございません」


 宰相は礼儀正しく、お辞儀をした。

 最敬礼と呼ばれるきっちり45度で、この宰相は礼儀の正しい宰相だと思えた。


「では、食事の後に、お風呂に案内を致します。お客様には東の国で有名な大浴場を準備しておりますが、なにぶん、食後は毎日、眠られておりますので、お疲れなのかと思っておりました」

「心配していただいていたようだ。さすがに汗臭くて、気分が悪い」

「そうですね。少し汗臭いですね。せっかくのできたての食事が冷めてしまいますので、お先にお食事をどうぞ」

「では、頼む」

「はい」

「ジュリアン、行くぞ」

「……」


 ジュリアンは帰宅の途中から機嫌が悪い。

 やはりルビーのネックレスが欲しかったようだ。

 ずっとルビーのネックレスの話をするので、「うるさい!」と初めて、怒鳴ったのだ。そうしたら、口を利かなくなった。

 目をうるうるさせて、今にも声を出して泣き出しそうになってしまった。

 だが、ここで甘い顔をすれば、またルビーのネックレスが欲しいと言い出す。

 我が儘すぎるのも困る。

 少しは金銭感覚という物を、じっくり考えさせる必要があると思うのだ。

 マリアナが国に産業を増やすべきだと、いろんな産業を広めているが、何事も最初から上手くいく物ではない。少しずつ成果を出してきた所だ。

 そのお陰で、国は潤ってきた。

 国益を出すことができるようになってきたのに、次から次へとお金を使っていたら、いつまで経ってもドゥオーモ王国は貧困な国のままだ。

 そうして考えると、マリアナは、宝の泉だ。

 僅か11歳で湧き水から川を造ることを思いつき、魚の養殖場まで作り、人々の飢えをなくした上に、輸出産業まで考えた。

 川魚は帝国にも売りに出している。

 川の氾濫を無くすために、僅か12歳でダムと堤防の設計図まで作り、それを完成させた経歴がある。まだ他にもいろいろあるのだ。

 次から次に、新しい産業を考えて、成功させている。

 国益を出しているのは、マリアナで、そのお金を浪費しているのはジュリアンなのだ。

 王妃に相応しいのは、どこから見てもマリアナではないか?

 俺はどこを見て、真実の愛などと世迷い言を言っていたのだろう。

 父上はマリアナとの結婚を勧めていた。

 母上は、マリアナを敵を見るような目で見ていた。

『第一夫人は愛さなくてもいい。第二夫人と真実の愛を温めればいい』と母上から教わった。

 母上は第一夫人であったが、父は母上を愛しているように見えなかった。

 父は執務が終わると、俺のことも放っておいて、離宮に住んでいた。

 朝食も夕食も俺は、母上と二人で食べていた。

 父上の真実の愛は第二夫人の元にあった。

 それが証拠に、第二夫人は俺と変わらぬ年齢の姫が生まれて、その次も姫が生まれた。そうして、俺が10歳の時に、とうとう第二王子が生まれた。

 さすがに動揺した。

 父上にとって、俺はいらない子ではないかと。

 だが、父は、俺を後継者にしようとしてくれている。

 それなのに、父上に逆らい、執務も公務もマリアナに押しつけ、可愛いだけの取り柄のジュリアンと結婚して、ひたすら浪費をしている。

 今日のジュリアンの姿を見て、俺は愚かなことをしてきたのだと、やっと気づけたのだ。

 もっとマリアナを大切にしなくてはならない。

 食事もろくに食べさせずに仕事をさせてきたので、マリアナは日に日に痩せていき、絶えず目の下に隈ができていた。

 あんな生活をさせていては、宝の泉は枯れてしまう。

 俺は帝国に来てよかったと今、思っている。

 マリアナの大切さを思い知ったのだ。

 彼女の頬を殴り、子を孕む腹を蹴った事を悔やんだ。

 謝ったら、許してくれるだろうか?

 これから、真面目に公務も執務もすると言ったら、信じてくれるだろうか?

 俺は変わりたい。

 こんな浪費女に執着していた自分が情けない。

 国の為に尽力してくれるマリアナの本当の夫になりたいと、本気で思ったのだ。

 国に戻ったら、ジュリアンと離婚してもいい。

 浪費女は王族に要らない。

 帝国での暮らしの間だけ、最後の時間を共に過ごして、国に戻ったら離縁の話をしよう。

 どちらの子が優秀か、考えるまでもない。

 マリアナも美しい。

 ただ激やせ過ぎて、不健康に見えるだけだ。

 そうさせたのは俺だから、国に戻ったら、きちんと食事を与えて、眠る時間も与えよう。そうすれば、出会った頃のマリアナに戻るだろう。

 可愛い笑顔をした、明るい女の子。

 おしゃべり好きで、俺の心を一瞬で鷲づかみにした女の子だった。

 母上が怖くて、きっと無口になったのだと、今なら分かる。

 もう一度、出会いからやり直したい。

 そんなことを考えながら部屋に案内された。

 扉を開けられると、高価な果物が飾られたテーブルに、二人分の料理が置かれていた。

 焼き魚……。

 後ろから歩いてきたジュリアンは、悲鳴を上げた。

 その口を、急いで手で塞いで、椅子に導かれる。

 メイドが果実酒をグラスに注いだ。


「どうぞ、ごゆっくり召し上がれ」


 宰相は礼儀正しくお辞儀をすると、部屋から出て行った。

 帝国に来て、こう連続で同じ料理が並ぶのは、何かの思惑があるのだろう。

 ジュリアンは魚が苦手なので、ジュリアンへの嫌がらせか、その嫌がらせに俺も含まれているのだろう。

 宿場町の一件を、帝国の皇帝陛下は知っているのだ。

 ジュリアンがマリアナを叩き、俺が殴り、蹴った事を。ジュリアンに至っては、腹の上で何度も跳ねたのだ。

 簡単に許せるわけはない。

 仕方なく、俺はジュリアンの魚をほぐし、「食べろ」と命令した。

 出された物は残さず食べて、皇帝陛下、クラクシオン皇太子の怒りを抑える努力をするしか、今はできることはなさそうだ。

 ジュリアンは果実酒で飲み込み、果実酒を飲み過ぎて、最後は椅子から落ちた。

 さすがの俺は、果実酒の度数が高いことに気づいて、適量だけいただいた。

 床に落ちたジュリアンを仕方なく、拾い、部屋に戻る。

 ジュリアンから、酸っぱい、汗臭い匂いがする。

 正直に言って、臭い。

 ジュリアンをベッドに転がすと、扉がノックされた。

 俺は扉を開けた。


「これは、第二夫人は眠ってしまわれましたか?」


 そこには宰相が立っていた。


「お風呂に案内致します」

「大浴場でなくて、普通の風呂でいい」

「そうでございますか、ですが折角ですので、どうぞ」


 お風呂の用意はされていたようだ。

 眠っていたら、そのまま放置されたのだろう。

 俺は大浴場に案内された。

 男女別の大浴場の中には誰もいなかった。


「どうぞ、ごゆっくり。お帰りの際は、お迎えに上がりましょうか?」

「いいや、部屋は覚えた。自分で戻れる」

「そうですか、ごゆっくりどうぞ」


 宰相はきっちり45度の角度で、お辞儀をすると去って行った。

 俺は脱衣所で服を脱ぐと、久しぶりに体を清潔にできた。

 頭と体を洗うと、シャワーで流した。

 湯船に入ろうかどうか迷い、止めておいた。

 酒を飲んだ後だ。それに、暑い季節なので、シャワーだけで十分だった。

 部屋に戻ると、眠る支度をして、ベッドではなくソファーに横になった。

 初めてジュリアンと距離を置いた。

しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

処理中です...