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61 アメリアの婚約パーティー
帝国に大雪が降って、一ヶ月後に、シェイン公爵家でパーティーが開かれた。
クリスマスも終わり、新年も過ぎた日柄の善い日だ。
冬だが、春の訪れを感じさせる穏やかで暖かな日であった。
午前中から始まったパーティーには、美しく着飾ったアメリア様とシャイン公爵令息が、仲良く並び、皆様にお辞儀をした。
ちょうどダンスを終えたばかりだ。
アメリア様の頬は、愛らしいピンク色で、とても可愛らしい。
シャイン公爵令息と目を合わせて、照れ笑いをしている。
「皆様、今日は私の息子、シェックとアメリア皇女様との婚約パーティーにいらしてくださいましてありがとうございます。私の息子は、皇帝陛下のご息女、アメリア皇女様とこの度、正式に婚約致しました。この場で、皆様に報告させていただきました。どうぞ、これから二人の成長を見守っていただけますように」
この邸の主人のシャイン公爵が、ダンスを終えた二人を紹介した。
招かれた客人が、拍手をしている。
皇帝陛下と皇妃様はご機嫌で、目を細めて、手を叩いている。
今日はシリピリー様以外の弟妹が集まり、華やかさが数倍増している。
皆さん、婚約者を連れて参加をしているので、美しい令嬢も勢揃いしている。
わたしの結婚式には招かなかったので、初顔合わせとなった。
わたしはシオンに、一人ずつ紹介をされていった。
皆さん、幼い頃のわたしを知っている方ばかりだそうだ。覚えていなくて申し訳ないが、恐縮するわたしを、誰も責めたりしなかった。
年齢はわたしが、一番年下でした。
これから結婚ラッシュが始まるのだと、シオンが言っていた。
皆さん、シオンがわたしと結婚するのを待っていたという。
アメリア様が婚約したので、次は第二皇子のモレークラ様とクレラ公爵令嬢との結婚式になるそうだ。
その前に、シオンとわたしが結婚を済ませていることを、皆様に公表しなくてはならないと言っていた。
モレークラ様と第三皇子のメルーリオ様に、早く披露宴を済ませろと、シオンは言われていた。
シオンも早めにお披露目をしたいと言っている。
「父上が最初に俺の結婚のお披露目会をして、俺のお披露目会の翌月に続けて、おまえ達の結婚式を順番にすると言っていたよ。外国から客人を招くことになるから、同じ頃合いの方がいいと思うが、毎月、結婚式を挙げていたら、客人は何ヶ月も帝国に足止めされる。客人も暇ではないし、客を宮殿に住ませると、食事代などの雑費が増える。父上もかなり悩まれている」
「確かに、毎月、結婚式をしていたら、客人はずっと旅をしていなくてはならない。宮殿を開放したとしたら、食事などの雑費がかなり増える。この際、纏めて結婚式をした方が、客人の訪問は一度で済む」
「そうだな、一緒に結婚式をするか?」
モレークラ様とメルーリオ様が、それぞれの婚約者に合同結婚式でもいいか尋ねている。
「もう、待ちくたびれましたわ」
「私も早くメルーリオと結婚したいわ」
二人の花嫁候補はどちらも公爵令嬢ですのに、合同結婚式でも文句はないようです。
女性に年齢を聞いてはいけませんが、どちらも18歳だと言っていらした。
婚約自体は16歳に済ませているようです。
結婚をしなければ、皇子達の領地に一緒には行けないらしく、寂しい想いをしているし、結婚をしなければ、触れあうこともできないと言っておられる。
クレラ様とメリアット様は、とても仲良く、「これから親族になるのだから、マリアナ様も仲良くしてくださいね」と優しくわたしに声をかけてくださいます。
シオンが頷いています。
「アメリアの紹介も済んだ。その辺でお茶でも飲むか?」
「ああ、そうしよう」
モレークラ様はクレラ様を、メルーリオ様はメリアット様を、エスコートしていきます。
「アナ、さあ、行こう」
「はい、シオン」
「仲良くできそうか?」
「はい、努力を致します」
「気負わなくてもいい。いつものアナでいればいい」
「分かりました。至らない所は、教えてくださいね」
「ああ、皆、アナの救出の準備を手伝ってくれた者達だ。ここにアナがいるだけで、長年の苦労も報われると思っているだろう」
「有り難いお言葉です。皆様にお礼を言った方がいいかしら?」
「笑っておれば良い」
「はい」
「兄さん、早く、二人の内緒話は後ですればいいだろう」
モレークラ様が呼んでいらっしゃいます。
「さあ、行こう」
「はい」
アメリア様の婚約の報告が済んで、ダンスパーティーが始まっている。
ダンスはせずに、皆でテーブルを囲む。
テーブルの上には、花籠が飾られて、メイドがお茶を淹れてくれている。
美しいケーキが三段のケーキスタンドに置かれている。
一番下は色取り取りのケーキ、二番目はフルーツ、一番上は、チョコレート。
「何を食べる?」
「イチゴをください」
「ああ、取ってあげよう」
シオンは手を伸ばして、器にイチゴを入れてくれた。
「あら?ケーキは食べないの?」とクレラ様がお上品に首を傾げられた。
「イチゴが好きなの」
わたしはパーティーの時に、あまり食べない。
宮殿でいろんな味に慣れてきているが、ドゥオーモ王国では食事らしい食事は戴いていないし、デザートも食べたことがなかったので、未だに食べたことがない物がある。
どれもが美味しいと受け付けるわけでもないので、パーティーでの食事は気をつけている。
ケーキも然り。
きっと美味しい物に違いないが、もし口に合わなくて、食べられない時に残す事は許されない。
シオンと二人の時は、シオンが助けてくれるけれど、自分でも気をつけなければならない。
イチゴは帝国に来て、初めて口にしたが、これは好物になった。
とにかく無難なのだ。
「ケーキも美味しいのに」
メルーリオ様にお皿にケーキを載せてもらったメリアット様がポツリと呟いた。
これからいろんなお宅のお茶会に出なければならないのに、ケーキ一つ食べられないのは、問題よね。
困ったわ。
飲み込むように食べるのも失礼になるし、断ることも失礼になってしまう。
「それなら俺が代わりにケーキを食べようか?」
悩んでいると、シオンはお皿にケーキを一つ載せて、二人の間に置いた。
銀のスプーンで、一欠片、わたしの口に運んでくださった。
口の中で、甘いクリームが広がった。
これなら食べられそうね。
「まあ、仲が宜しいわ」
クレラ様とメリアット様が感動的に声を上げた。
きっとこれから、この二人とお茶会に出席することになるだろう。
嫌われたくはない。
記憶喪失もあるし、わたしは二人よりも年下である。
結婚すれば、年下の私を『お義姉様』と呼ばなくてはならない。
それは、きっと気持ちのいいことではないと思う。
取ってもらったイチゴを食べながら、考えていると、シオンがお皿にチョコレートを取って置いてくれた。
包みを見て、ホッとした。
このチョコレートは、普段、皇妃様とお茶会で食べているチョコレートだった。
「クラクシオン様、ありがとうございます」
「この仲間の時は、シオンでいい。気を張るな、疲れてしまうよ」
シオンはわたしの肩を軽く撫でた。
「モレークラ、メルーリオ、クレラ殿、メリアット殿、頼みがある」
シオンは四人の名前を呼んだ。
「マリアナは、ドゥオーモ王国で碌な食事も与えられず、お茶会も出たことがなかった。今、いろんな食べ物を食べさせて味を覚えさせているが、時に苦手な物もある。舌が慣れていないのだ。ケーキも食べたことがなかった物だ。お皿に取ったら、食べるのがマナーだ。今日のように、無難なイチゴを選んだ時は、どんなケーキなのか分からないのだ。迷っているようなら、無難な物を教えてやって欲しい」
「その様な理由がありましたのね」
「たいへん失礼な事を言いましたわ」
「いいえ、今はいろんな事を学んでいますが、食べ物の味を想像することは、とても難しいのです」
「俺が同伴できないときは、サポートを頼みたい」
「兄上、お任せください」
「俺も気にかけます」
モレークラ様とメルーリオ様にわたしは頭を下げた。
「私もお手伝いをさせていただきますわ。苦手な物を教えてくださいませ」
「ええ、11年も人質にされていたら、私なら生きて戻って来られないと思いますわ。私もお手伝いさせていただきますわ」
クレラ様もメリアット様も優しいお言葉をくださった。
「よろしくお願いします」
わたしは頭を下げた。
味方になっていただけたようで、少し肩の力が抜けてきました。
「お兄様達、どこにもいないと思っていたら、こんな所で、お茶会していたのね」
元気な声が聞こえて、そちらを向くと、今日の主役が並んでいた。
「クレラ殿、メリアット殿、ご機嫌麗しゅうございます。今日は私の婚約パーティーに参加して戴きまして、感謝いたしております。私の旦那様になるシェック・シェイン公爵令息ですわ」
「アメリア様、この度はおめでとうございます。シェック様、おめでとうございます」
クレラ様は素早く立ち上がると、お辞儀をなさった。
アメリア様とシェック様はお辞儀をなさっている。
「アメリア様、婚約おめでとうございます。シェック様、おめでとうございます。美男美女のとてもお似合いなお二人ですわ」
メリアット様は美しくお辞儀をなさった。
アメリア様もシェック様とお辞儀をされている。
アメリア様のお辞儀は、とても美しいお辞儀です。
さすが皇女様です。
わたしももっと頑張らなくては。
表情も美しい笑顔をしていらっしゃいます。
「マリアナ、先ほどアルギュロスが来ていたわ」
「お兄様が?」
「シェック殿のご友人だとか」
シェック様は、お辞儀をされました。
「アルとは、幼馴染みなのです」
「どちらにいらっしゃいましたか?」
わたしは無意識に立ち上がっていた。
「連れて行くわ」
アメリア様は、わたしの手を握って歩いて行かれる。
「アメリア、今日はよせ」
「兄妹なのに、他人のままではいけませんわ。お兄様もいつまでも放置してないで、会わせればいいのよ」
アメリア様は、もどかしそうにわたしの手を引く。
人を掻き分けて、どんどん歩いて行く。
わたしはアメリア様の手を引き剥がすこともできずに、引っ張られていく。
アメリア様がいきなり立ち止まった。
目の前に、兄様と愛らしいお顔の令嬢がいた。
令嬢ではなく、兄様の奥様ですね。たぶん。
「アル、マリアナを連れてきたわ。きちんと話しをしなさい。これは、皇女命令ですわ」
そう言うと、わたしを兄様の前に突き出して、アメリア様は去っていかれました。
すぐに、わたしの隣にシオンが来てくださいました。
「アル、久しぶりだ」とシオンが声をかけました。
「クラクシオン皇太子殿下、お久しぶりでございます」
兄様は、シオンに会釈をした。けれど、わたしの事は見ていなかった。
「兄様」
わたしは声をかけてみた。
震えたわたしの声は、兄様に届いたのでしょうか?
「ぼくは妹の存在は父から聞いていましたけれど、その顔も存在も覚えていないのです。いつも僕は乳母と邸に留守番していた記憶しかありません。いきなり妹だと現れても、困惑するだけです。使用されていた部屋は、もうありません。残されたあれこれも捨てて、さっぱりさせました。ぼくに妹はいなかった。妹も記憶がないなら、ない者同士他人になれば恨みもなくなります。それでいいでしょう?」
兄様はわたしに少し視線を向けて、尋ねたのでしょうか?
兄様もわたしの事を覚えていないのだったら、わたし達は兄妹だと言えるのでしょうか?
きっと兄様も悩まれたのでしょう。
父様はわたしの捜索に出かけて、兄様は乳母と二人きりだったと言っていた。
それは、きっととても寂しいことだと思う。
母様も亡くなり、不安なのに、一緒にいて欲しい父様は家には戻らない。
とても孤独で、寂しくて、不安で、怖くて……。
わたしが味わってきた物と同じ物を、兄様も味わってきたのでしょう。
それなら、兄様の言うように他人になった方が、心は落ち着くのかもしれない。
母様を殺したドゥオーモ王国の国王陛下が亡くなったとき、兄様はやっと恨みを果たしたと思ったでしょう。それなのに、捕らわれていたわたしは、寂しくて泣いていた。
兄様の恨みがわたしに代わってもおかしくはない。
わたしが死んでいれば、良かったと思ってもなんらおかしくはない。
わたしがいなければ、母様も父様も亡くなることは亡かったのだから。
「アルギュロス・プロートニク公爵、お初にお目にかかります。わたしは、クラクシオン皇太子殿下の妻のマリアナです。どうぞお見知りおきを」
わたしは、初対面の人に挨拶するように、兄様に挨拶した。
「ぼくはアルギュロス・プロートニク公爵、隣にいるのは妻のアリスと申します。どうぞお見知りおきを」
兄様も初対面の者に対するように挨拶をした。
兄様の奥様、アリス夫人は綺麗なお辞儀をした。
表情は少しも変わらない。
お人形のような人だと思った。
「アル、本当にそれでいいのか?」
「両親を殺された恨みを、その女に向けてもいいのか?」
兄様はシオンを睨んで、わたしを憎しみのこもった目で見た。
わたしは、それほど恨まれているのだと知っただけだった。
わたしは、一礼をすると、シオンの横を通って人混みの中を歩き出した。
全ての人に愛されるのは、とても難しい事だ。
距離を置けば、この恨みも薄れていくことを信じて、胸に手を置き、母様に祈りをする。
母様、兄様が選んだ道に進みます。
兄妹として元に戻れなくても、わたしは母様の子で、父様の子です。
「アナ」
わたしの腕を掴んだのは、愛するわたしの夫。
「今日は、もう戻っても宜しいでしょうか?」
「ああ、構わない」
「少し疲れてしまいました」
「ああ、帰ろう」
わたしもお人形のように微笑んだ。
けれど、シオンがわたしを抱きしめた。
「泣くのを我慢するな。人形のような笑顔など見せるな」
「はい」
わたしは人形にはなれなかった。
シオンの胸で、涙を流した。
シオンの近衛騎士達が集まって、わたし達を囲んで、馬車に誘導された。
馬車に乗り、シオンはわたしを掻き抱いた。
やっと人の目を気にせずに泣ける。
声を上げて泣いて、泣いた。
悲しかった。寂しかった。でも、シオンがいたから孤独ではなかった。
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