《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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62   影の帰還

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「皇帝陛下、鳥を飛ばそうか迷いましたが、あまりに異常過ぎて、直接戻ってきました」


 ラーメ王国を探りに行った影は10人。そのうちの一人が戻ってきた。

 残りの9名は引き続き、調査を続行している。


「ラーメ王国は北の山脈にございました。土地のほとんどは山脈です。王家は開けた大地に立っておりましたが、帝国のような立派な建物ではなく、木造家屋を大きくした程度の大きさでございます。北国特有の冷たい風が王宮内にも吹いております。暖炉の部屋は、五部屋でございます。一つ目はキッチンで料理を作っております。二つ目は使用人部屋。三つ目は子供部屋。四つ目と五つ目は大部屋にあります。大部屋にはベッドなどはございません。大きな敷布を床一面に敷き、王家の者はそこで眠っております」

「雑魚寝か?」

「そうでございます。とにかく雪深く寒い土地なので、仕方がないのかもしれませんが、親、兄妹、嫁を混ぜて抱き合って暖を取っていました。シリピリー様が思いし、ゴルド様は、第一王女のアンクル王女とも第二王女のイミエラ王女とも抱き合っておりました。母上となるクニエラ王妃とも第二夫人、第三夫人とも抱き合っております。抱き合うことで暖を取っているようで、帝国での秩序的な物は、ラーメ王国にはありません。お食事も冬の前に備蓄した物を、少しずつ食べているようです。熊や野鳥等、山に住む動物ですね。野菜や野草も干した物がぶら下がっておりました。その様な物を少しずつ調理しているようです。王家がその様な有様なので、国民も同じでございます。家にこもり寒さを凌ぎ、暖を取るために無差別に抱き合うという文化であると判断致しました。シリピリー様の婚姻先には、とても向かないと判断致しました。残りの9名は引き続き調査をしておりますが、調査をする必要もないかと思いますので、帰還の指示をお願いします」

「すぐに帰還するように、鳥を飛ばせ」

「ありがとうございます」


 影は頭を下げると、姿を消した。


「何という国であるか」

「シリピリーをお嫁に出さなくて良かったわ」

「シリピリーを騙して、嫁にもらうつもりでいたのでしょう。シリピリーは何も知らない乙女ですから」


 影が戻ったと聞き、俺は父上の執務室にやって来た。

 マリアナが噂で聞いた話しは真実だった。

 頬を染めて、話してくれた事に感謝したい。

 ドゥオーモ王国で執務を一人でしていた経験は大きい。

 彼女の知識を眠らせておくのは惜しい。

 だが、今は床に伏せている。

 アメリアの婚約パーティーで、アルと話してから、心が不安定になってしまった。

 まるで、この宮殿に来たときのように寝込んでいる。

 ずっと側にいたいが、仕事もある。

 笑顔もずっと見てはいない。


「シリピリーを呼んできて欲しい。嫌がって暴れても、抱えてでも連れてきてくれ」


 シリピリーもあの大雪の日から部屋に閉じ籠もって出てこなくなった。

 父上は、父上の近衛騎士に頼んだ。

 父上の護衛の二人が、部屋から出て行った。

 父上の近衛騎士は、かなりの強者なので、一人でも抱えて連れてくることは可能であろうが、嫁入り前の娘であるので、複数で行動したのであろう。


「クラクシオン、マリアナのお陰で助かった。お礼を言いたいが、まだ伏せっておるのか?」

「はい、父上、アルに兄妹ではないと言われた事が苦しいのか、恨んでいると言われた事が苦しいのか、そのどちらの言葉にも傷つき、心傷めてしまったのか、パーティーの帰りに大泣きして意識を失ってから、笑顔も見せず、ベッドで伏せっております。目が赤くなっておりますので、泣いているのだと思います」

「折角、笑顔を見せて、健康的になってきたというのに、どうしたものか?心を壊すほどの事をアルギュロスが言ったのであれば、この先、アルギュロスとは会わせることはできぬ。マリアナは帝国であっても、その知識は宝である。どうにか元気づけよ」

「はい、そのつもりでいます」


 扉がノックされて、父上の近衛騎士が開けた。


「下ろせ、下ろせ、無礼者」


 なかなか威勢のいい。

 閉じ籠もっていても元気であるなら、それほど心配はいらない。


「シリピリー、無礼者は、其方だ。私の近衛騎士が迎えに行ったはずだ。大至急の用があったから、わざわざ頼んだのだ」

「乙女を担ぐなんて、恥ずかしいわ」

「それなら、自分の足で歩いてきたらよかったではないか?」

「そうだけれど」


 床に下ろされたシリピリーは俯いて、ドレスの裾を直している。

 父上は、どう話すのか?


「シリピリー、父はラーメ王国を調べるために影を送り込んだ」

「それで、どんな国でしたか?帝国の次に大きな国なのでしょう?立派な建物や美味しい物や美しい物もあったのかしら?ゴルドは元気でしたか?」


 シリピリーは矢継ぎ早に色々聞いている。


「そうであるな、帝国の次に大きな国というのは、殆どが山脈であるためのようだ。この季節は雪に覆われて、日々、吹雪いておる。国は貧しく、王宮は木造の邸であるそうだ。暖炉は5つしかないそうだ」

「嘘よ」

「ちゃんと聞きなさい」

「はい」

「暖炉の一つはキッチンにあるそうだ。備蓄を調理しておるそうだ」

「備蓄品ですか?戦でもないのに」

「話を聞いていたか?外は雪深く吹雪いておるのだ。土は凍てついておるであろう。野菜も果物もできはしない。山で狩ってきた熊や野鳥などの動物と僅かな野菜や野草が干されていたそうだ。それを使い、毎日の食事にしておるようだ」

「動物なんて」

「まだ話は終わっておらぬ。暖炉の二つ目は使用人の部屋にあるそうだ。暖炉の三つ目は子供部屋にあるそうだ。暖炉の四つ目と五つ目は大部屋にあるそうだ。その大部屋で王家の者が雑魚寝で過ごしておる」

「雑魚寝とは何でございましょう?」

「ただ無秩序に空いた場所で寝ているのだ。ただ寝ているだけではないそうだ。無秩序に抱き合って暖を取っておるのだ。シリピリーが心に留めているゴルド殿は、実の姉達とも母とも父の第二夫人とも第三夫人とも抱き合って暖を取っているそうだ」

「なんてこと?」


 シリピリーは話されていることが信じられないのか、険しい顔に代わってきた。


「もし、シリピリーが嫁に行けば、シリピリーはゴルド殿だけでなく、国王陛下や第二王子とも抱き合わなければばらなくなるが、そんな土地に嫁に行きたいのか?」

「嫌よ」

「この縁談は、どうしたらいいのだ?」

「お断りします。私は皇女ですわ。体を売るために嫁に行くような身分ではございません。なんと穢らわしい。ゴルド様にはお父様から、破談にしてくださいませ」


 気の強いシリピリーらしい言い分であった。

 馬鹿馬鹿しいと言いながら、父上の執務室を出て行く。







 私は手紙を交換するための鳩を外に放った。

 手紙は書かなかった。

 未練が残る終わり方にはしたくなかった。

 二度と会うこともないゴルド様の思いを鳩に乗せて、鳩は真っ直ぐに飛んでいく。



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