桜の奇跡 ~赤い糸の絆~

綾月百花   

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桜の奇跡  ~赤い糸の絆~

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 外来や病棟は、時間の縛りがあるのに対して、センターは流動的だ。いつもびっくり箱が置かれていて、いつ予想のつかないびっくり箱が開くか分からない。一度開いたびっくり箱は、連鎖反応を起こし、次々と開くことがある。
「市消防本部から入電です。40代男性。階段から転落による頭部外傷。意識は鮮明です」
 救急車から直通のホットラインを看護師の杉浦が出て、情報を伝えてくれる。
「受け入れOKです」
 患者を受けるか受けないかは、初診室に配置されたその日のリーダーが決めることになっている。院内のベッドの空き状態を頭に入れなければならないが、慣れてこれば自然と頭は働いてくれる。
 今日の初診室は原とセンター長の小野田だ。
 リーダーは原だった。
 小野田は救命救急に来てからの指導医だ。
 またホットラインの電話が鳴り、杉浦が電話に出た。
「市消防本部から入電です。60代女性。階段から落下。股関節と腰の痛みを訴えています」
「小野田先生、受けられますか?」
「ほい、いいよ」
「受け入れOKです」
「千客万来だね。原先生」
「そうですね。呼び水になってしまったのかな?」
「来るときは、一度に来ること多いからね」
 病院の敷地内に来たのか、救急車のサイレンが止んだ。
 スクラブの上の長白衣を脱いで、受け入れ口へと向かった。
「救命救急医の原です。お名前言えますか?」
「山本です」
「南さん、バイタルとって、ラインは一号液ゆっくり落としてください」
「はぁい」
「山本さん、どこが痛いですか?」
「痛い、痛い」と訴える40代の男性は、少しパニックを起こしているようだった。忍耐強く症状を聞きだしていく。
「頭から血が出ているんです」
「大丈夫ですよ。もう病院にいますから、きちんと治るように処置しますね」
「はい。でもいっぱい血が出てしまって」
「痛かったですね。どうして頭を打ったのか覚えていますか?」
 しばらく考えてから、患者はハッとしたように目を瞬かせた。
「会社の資料室で荷物を纏めて抱えて出てきたんです。急いでいたのでエレベーターを待たずに階段で降りて行ったんですけど、足を踏み外して、そのまま荷物と一緒に落ちたんです」
「頭以外に痛いところはありませんか?」
「首がすこし。右の足首が痛いし、腰も痛む」
「少し見せてくださいね」
 頸部に腫れはなかった。足首の患部は赤く少し腫れていた。
「腰はどのあたりが痛みますか?」
「尻の上の方」
「尾骶骨の上のあたりですか?」
 触診すると、「ひっ」と悲鳴を上げる。
「頭と腰と足首のレントゲン撮ってもらいますね。頭と頸と腰はCTも撮ります」
「お願いします」
「南さん。患者さんレントゲン室にお連れしてください」
 出血している頭の天辺に多めのガーゼを貼り付け、検査オーダーを電子カルテに書き込む。
 初診室の片隅には小野田が診察をしていた。階段から落下した六十代の女性は、整形にコンサルタントを取ったようだ。整形のドクターが降りてきている。救急車と直通のホットラインが鳴った。
 師長の三隅が電話を取った。
「市消防本部から入電です。40代男性。意識障害、頭部外傷の疑いです」
「受け入れてください。何分で到着ですか?」
 三隅が両手を開いた。十分で到着なのだろう。
 診察室のモニターに先程の頭部外傷のレントゲン写真が映りだしている。それをゆっくり確認していく。原は放射線科に読影の勉強に出ているので、読影はできるほうだ。
「頭出血なし。頸部異常なし。腰、足首骨折なし。この写真、明日放射線科でみてもらってください」
「はぁい」
 三隅が返事をした。
 レントゲンの写真は、どの写真も放射線科に診てもらうことになっている。専門化が進んだ医療の責任の分担である。
 患者が戻ってきた。
「ナート準備して、キシロカイン10ml」
「はぁい」
 南が素早くナートセットと処置用カートを持ってくる。
「山本さん。頭の方は今のところ出血はありませんでした。足首と腰の方も骨折はありませんでした。頭の傷の縫合をしますね」
「おねがいします」
 山本は少し落ち着いてきたのか、視線を合わせて頷いている。
「消毒のあと麻酔しますね」
 ナースから綿球を受け取って頭部の消毒をすると、局所麻酔をする。麻酔がかかったころに、ブルーの布に丸く穴の開いている清潔な布を患部に被せ、次の救急車が来るまでに傷口を綺麗に縫合した。

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