桜の奇跡 ~赤い糸の絆~

綾月百花   

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桜の奇跡  ~赤い糸の絆~

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 空いていた診察室でカルテと死亡診断書を書き終えた後、原は初診室の中に入っていった。
 初診室は落ち着いていて、小野田と御園が室内で談笑していた。
 南は鞄の中に、備品の補充を行っていた。
「お疲れ様です」
「お疲れ、大変だったな。おい、その顔の血は患者の血なのか?」
 突然の小野田の声に、原はびっくりする。
 怪我をしていたことを、すっかり忘れていた。
「違いますよ」
 原が答える前に、南がぱたぱたと走り寄ってきた。
「加納先生のお母様に、破損した車の部品をぶつけられたんです」
「南さん。それは言わないでください」
「何故ですか?VF(心停止)起こすほどなのに、診療拒否はないですよね。原先生を平手打ちするし、その後も物を投げつけるし。原先生だけは診てもらいたくないなんて」
 南は自分のことのように怒っている。
 握りしめた手がふるふると震えている。
 何事かと、センターのナースや医師たちが集まってくる。
 大袈裟にしたくない。
 噂になれば、加納にも聞かれてしまう。
 過去が暴かれる。
 知られたくない過去が暴かれる。
「南さん、それ以上言わないでください」
「原先生は悔しくないんですか?あんなに罵倒されて」
「そんなことより、助け出せなかった命の方が、よほど悲しいですよ」
「原先生は、優しすぎます」
 南は怒ったように言いながら、清拭用のタオルを持ってきてくれる。
「原先生、そこに座ってください。傷の周りを拭きますから」
「どれどれ」と言いながら、小野田が傷を覗き込む。
「意外に深いぞ。汚染もあるな。五針くらい縫ったほうがいいかな」
「そんな大げさな」
「自分で鏡見てきたの?」
「いえ」
「それなら黙って処置されていなさい」
 センター長に逆らえるわけがなかった。
「デブリードマン(創面切除)するから生理食塩水持ってきて。メスとクーパー一番小さいサイズ」
「はぁい」
 ナースの杉浦が素早く器材を集めに行く。
「原先生はベッドに横になって、麻酔するよ」
 落ち着いていた初診室が、ばたばたと慌ただしくなる。
「ほら、原先生。早く横になってください」
「わかりました。よろしくお願いします」
 南にスクラブを引っ張られ、原は諦めたようにベッドにあがった。
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