おとこの娘の恋愛事情

綾月百花   

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第六章

2   赤ちゃんが産まれます

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 陣痛の間隔が10分を切ったので、やっと部屋に戻ったら、医師はやっとベッドに横になってもいいと言ってくれた。

 ネグリジェに着替えて、陣痛の合間に、お茶をもらい、おれは喉を潤す。

 ベッドには出産に備えて、整えられていた。

 これから本番なんだと思うと、緊張する。

 陣痛は強く、間隔も短くなって、長くなる。

 おれは痛みで疲弊していた。

 呼吸法も忘れて、「痛いよ、痛いよ」と泣き叫ぶ。

「チェリー、はあ、はあ、はあ……だろう?」

 アスビラシオン様は落ちついていて、おれに呼吸法を思い出させてくれる。

「はあ、はあ、ふう、ふう……」

「間隔は5分を切っていますね」

 カナル様が時計を見て、報告してくれる。

「まだ5分なの?」

 これからもっと痛くなるのかと思うと、男のおれが、どうして?と想う気持ちと、男でありながら、貴重な体験ができるな……と真逆な感想を抱いている自分に出会った。

「チェリーは、ママになるんだよ」

 アスビラシオン様は幸せそうに微笑む。

「おれがママ……うっ!」

 また陣痛が来て、おれは呼吸法でなんとかしようと思うが、お腹がすごく痛くなる。

「ううううっ、痛い。生まれる」

 おれは知らずに力んでいた。

「どれどれ?」

 医師が、おれのあそこを覗き込んで、指を入れて診察する。

「ふむ。時間はどうだね?」

「2分を切っています」

 カナル様が時間を正確に教えてくれる。

「力むときは、もっと長く力んでみなされ」

「分かった、うううっ」

 おれはアスビラシオン様の手を握って、強く長く力んだ。

「はあ、はあ、はあ……」

 目の前がチラチラする。

「今の調子だ。今度の陣痛で、しっかり力みなされ。もう頭が出かけているよ」

「ほんとかよ?うっ!」

 激しいお腹の痛みに、おれは力一杯力んだ。

「頭が出てきた。殿下ご覧になりますか?」

「どんな美人だろうか?」

 アスビラシオン様はおれの手を放して、赤ちゃんの様子を見に行ってしまった。

「次の陣痛で、しっかり産みなされ」

「うっ!」

 おれは握る物がなくなって、シーツを握る。

「おぎゃおぎゃ」と産声が聞こえた。

「はあ、はあ、はあ……」

 どうやら生まれたらしい。

「チェリー、可愛い男の子だ」

 医師が取り上げた赤ちゃんを、おれの胸の上に抱かせてくれる。

 小さいのに、ずっしりと重い。

 これがおれとアスビラシオン様の赤ちゃんなのか?

 赤ちゃんはアスビラシオン様と同じ黄金の髪をしていた。

 頬を突くと、目を開けた。

 瞳の色もアスビラシオン様と同じ黄金の色をしている。

 おれはホッとした。

 また陣痛のような痛みが来て、おれは力んだ。

「殿下、臍の緒を切りますか?」

「是非、切らせてもらいます」

 アスビラシオン様は医師に教わりながら、赤ちゃんの臍の緒を切った。

「奥様、王子様をお預かりしますね」

 モリーが来て、赤ちゃんを連れて行った。

 赤ちゃんを産湯に付けるんだ。

 モリーとメリーが準備していたのは知っていた。

「チェリー、よく頑張ったな。私達の子を産んでくれてありがとう」

「……シオン様」

 ラウ様とカナル様は、騎士の敬礼をしている。

 そうだよね。王子様が生まれたと言うことは、この子がこの国を継いで行くことになるんだね。

 おれの下肢はランドが綺麗に拭いてくれて、産後の処置をされた。

 汗で濡れたネグリジェは、真新しい物に替えられた。

 胸のところが開くようになっている。

 ちゃんと産後のブラジャーも付けられた。

 妊娠してから、胸が張って大きくなったが、ちゃんと母乳が出るのだろうか?

 肌着を着た赤ちゃんをモリーが連れてきて、おれに抱かせてくれる。

「初乳を与えてみなされ」

 医師が、戸惑っているおれに指示を出す。

 アスビラシオン様が、胸のボタンを外して、ブラジャーを下げた。
 
 胸を出すと、赤ちゃんをずらして、乳首に赤ちゃんの口を持って行く。

「あつ……」

 生まれたばかりなのに、乳を吸うことをちゃんと知っていることに驚いた。

 チュチュチュと赤ちゃんは一生懸命に、乳を飲んでいる。

 片方を吸われると、胸が張ってきて、もう片方の胸が濡れてくる。

 ランドがタオルを持って来た。

 赤ちゃんにとって初乳は免疫を上げるために必要な物だったよな。

 前世の保健体育の時間に習った事があった。

「もう片方も飲んでみなさい」

 アスビラシオン様は吸い付く、赤ちゃんを胸からはずと、おれの胸を隠してくれた。

 もう片方の胸のボタンを外すと、赤ちゃんに乳首を吸わせる。

 おれはちゃんと母乳が出るようだ。

 健康な子に育って欲しいので、これは良かった事だろう。

 赤ちゃんはしっかり飲むと、眠ってしまった。

 アスビラシオン様が赤ちゃんを立てて抱くと、背中をさすった。

 元気の良い、ゲップが出た。

 モリーが迎えに来た。

「ベッドでお休みしていただきますね」

「ああ、頼む」

 モリーとメリーは慣れているのか、赤ちゃんをベビーベッドに寝かせた。

 ランドが、ブラジャーの中に、タオルを挟み込んでくれた。

 そうだよね。母乳が出ちゃうから、濡れちゃうよね。

 ドルフはおれに触れない。

 ランドの旦那様だから、不用意に触れないようにしているのだろう。

 おしもの世話は、ランドの役目らしい。

「ラウ、父上に知らせてきてくれ」

「はっ!」

 ラウ様が初めて、アスビラシオン様の側から離れた。

 勿論、ラウ様も夜には家に戻るので、四六時中一緒にいるわけではないけれど、とても珍しい。

 この部屋にはカナル様もいるので、安心しているのだろう。

 初乳を与えたおれは、力尽きて、眠ってしまった。

「疲れたな?ゆっくり休みなさい」

 優しいアスビラシオン様の声に、おれは無意識で頷く。

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