破壊神の終末救世記

シマフジ英

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52 エピローグ(ルーツ視点)

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「起きよ、ルーツ」
「え……?」
 一体誰だ? 俺は死んだはずじゃ……?

 声に答えるように目を開けると、そこは不思議な空間だった。空の上なのに地面に横たわっているような感覚。そして、失ったはずの左手が、ある。

「ルーツ、話があって君をここへ呼んだ」
「……誰だ?」
 声の方を見ると、そこには青い服と帽子を身に着けた小人がいた。

「私はユグドラシルの精」
「ユグドラシル……?」
「聞いたことは無いか? あらゆる世界に姿の一部を晒している大樹だ」
「そんな物が……。それで俺に何の用です? そもそも俺は死んだはずじゃ?」
「いいや、まだだ。君の肉体は滅びたが、魂が召される前に呼び寄せた」
「何でそんなことを……?」
「ふむ」
 ユグドラシルの精は俺から距離を取った。俺は身体を起こし、座って向き合う。

「君には大きな功績が残った。我々の仕事の一つは、そのような者に報いることなのだ」
「功績?」
「君は戦乱を収めた」
「戦乱を収めた? 何のことです……?」
 言っている意味が分からない。俺は世界を破壊しようとした。あのまま俺の目的が完遂されていれば戦乱はおろか、人間ごと滅びていたはずだが、戦乱を収めた記憶はない。

「気づいていなかったのか? 君たちオーデルグ一味が復讐と称して悪夢の地獄に落とした者たちは、ほぼ全員が戦乱の主導者だ。そして、彼らは長い期間に渡って悪夢を見せられたため、廃人となって再起不能になっている。戦乱を主導する者がいないから、今、この世界は話し合いで事が進んでいるのだ」
「……そんなの、結果論ではありませんか」
 死ぬまで悪夢を見させる術も、あの魔力結界が消えれば被術ひじゅつ者は解放される。だからまた戦乱に逆戻りかと思っていたが、そんな副作用があったとは……。

「そう、結果論だ。だが、立派な功績だ」
「本来の目的が世界の破壊だったにも関わず、ですか?」
「経緯は問わない。我々の価値観は人間とは違う。創造神サカズエや破壊神トコヨニがそうだったであろう?」
 その通りだと思う。彼らの価値観はよく分からなかった。サカズエは慢心の塊のようになっていたし、トコヨニに至っては、破壊神なのに、世界を救う選択をしてしまったのだから。

「そして君の言う通り、君が世界の破壊を実現させていたら、当然功績とは評価しなかった。そこには、ただ魔王がいただけだ。君を、戦乱を終わらせた偉人にとどまらせた者たちに感謝するが良い」
「なら、破壊神トコヨニが作ったコピー人間たちこそ評価されるべきでは? 彼らは戦乱どころか、世界を救ったのだから」
「彼らは既に救われている。君が、その力を授けたのだろう?」
「え……」
 そうか、上手くいったのか。俺などのために彼らの未来が奪われなくて、本当に良かった……。

「では改めて、ユグドラシルの決定を伝える。君には、ルーツという存在を保ったまま、もう一度チャンスを与える」
「……まさか、生き返れと?」
「そうだ。この世界に未練があるのならこの世界に戻れば良い。ユグドラシルが繋がっている別の世界でも良い。人生をやり直すのだ」
「俺のような罪人にそんなチャンスを与えるとは……。本当に理解できませんね……」
「拒否はできぬぞ。これは決定事項だ」
「そんな横暴な……」
「時間は与えよう。ゆっくり考えると良い」
 ユグドラシルの精は、そう言うと姿を消してしまった。

 思いがけない形でとんでもない選択肢を与えられてしまったものだ。

 この世界に戻る? 冗談はよせ。俺は罪人だし、サナ王女と関わるのはもうまっぴらごめんだ。コピー人間のルーツとサナの行末を見届けたい気はするが、それだけで戻ると決めて良いものか。

 だったら、新しい世界で新しい生き方を模索してみるか。

 さて、どうしたものだろう……。

 俺の選択は……。




 完
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