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容量
しおりを挟む人の心はコップに例えられたりするよね。
ほら、ストレスを溜められる容量は人によってそれぞれ……とか、そんなような話をするときによく聞く表現でしょう?
個人的にはわかりやすい例えだと思うの。
ストレス……ではないけれど、感情の面で、いまの私の状況を説明するには特に。
貴方と出会ったのは会社の入社式だったよね。
そう、隣の席だった。
大企業に入社できたのも相当運が良かったと思ったけれど、何百人といる中で貴方の隣に座れたことの方がよっぽど幸運だったと思う。
あまり人付き合いが得意な方ではないから、私は上手にお話できなかったと思うけど、それでも貴方は優しく接してくれたよね。
それから私達は仲良くなった。
同じ事務所に配属されたのが大きかったよね。
廊下で会えばお話して。
難しい仕事があれば助け合って。
私達の絆は少しずつ深まっていったよね。
貴方はいつも優しくて。明るくて。冗談も上手で。
いつも俯いて不安げな私に声をかけてくれて。
楽しくて温かい気持ちにしてくれたね。
そう、貴方は私に愛を注いでくれたの。
温かい愛を。
けど、私のコップは欠陥品で。
いつも酷い目にあってきた人生だったから。
望まぬ刺激物で満たされていたから。
心のコップはひび割れだらけ。
貴方が折角注いだ愛も、注いだ端から漏れていっちゃうの。
それでも貴方は愛してくれて。
隙間ができないように、空っぽにならないように、絶えず愛を注ぎ続けてくれたね。
幸せだった。
けど。
だけど。
なぜなの?
いつしか貴方は愛を注いでくれなくなった。
なにがいけなかったの?
貴方の友達を傷つけたから?
貴方のお家を突き止めたから?
貴方の両親と勝手にお話したから?
どれも貴方からの愛へのお返しじゃない?
私の愛は受け入れてくれないの?
――――そんなの許さない。
あんなに温かかったのに。
注いでくれた愛はどんどんと熱を失いながら、少しずつ漏れ出て消えていっちゃうの。
熱を失って冷たくなったそれは、サラサラきらきらしていたはずなのに、いつしかどろどろとしたなにかに変わっちゃった。
もうもとには戻らない、戻せない気がしてなんだか切なかったけれど、ひとつ気付いたことがあるの。
どろどろに変わったそれは、私のひび割れたコップから漏れなくなったの。
あは。
これはこれでありかもね。
どろどろとへばりついて、固まったそれは少し鼻を突くような臭いがして呼吸が苦しくなるけれど、たしかに貴方の愛だったものだから。
漏れて無くなるよりはずっといいよね。
うふふ。
あははははははははははは。
うん。知ってる。
実はもう気付いているの。これがなにか。
――愛は憎悪に変わったの。
いま、貴方が入るだけの袋を探しているんだ。
中々大きい容量のがなくて。
見つけられたらすぐ戻るから。
待っててね。
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