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終章『赤き翼』編
第二十九話「嵐の前の」-1
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マキナがケーキを平らげるのを待ってから、僕は彼女と共に、【イットウ】にとんぼ返りした。
指針が定まったとはいえ、時間が無いことには変わりない。僕の思いついた作戦も、悠長にやっていては、実現不可能になってしまう。
「お、おかえり。マキナとは――」
会えたのかい? と、恐らく言おうとしていたのだろう。店に戻ってきた僕に向けて、顔を上げたオレリアの言葉が終わるよりも早く、僕はカウンターに駆け寄った。
「オレリア、すまない。魔信機を貸してくれないか、急いで連絡を取らなきゃいけないところがあるんだ」
「そりゃ、もちろんいいけど……でも、そんなに血相変えて、どこに?」
「――にだ。もしかするとあいつなら、【愛奴】を打倒できる武器を用意できるかもしれない」
「……ふうん、自信、あるんだ」
ニヤリ、と彼女の口元が、楽しそうに歪む。それは、籠の中で羽ばたく小鳥を見つめるのにも似た、嗜虐的な色合いと、未熟者の成長を喜ぶ年長者としての意味合いが、両方溶け出しているように見えた。
「いや、まあ、絶対ってわけじゃ――」
「――自信は、おありのようですよ」
僕の声を追い抜くようにして、無機質な声が、背後から飛んでくる。
マキナは、店内に足を踏み入れる前に一度、小さく礼をしてから、その澄んだ瞳をオレリアに向ける。
「やあ、マキナじゃない。久しぶり、確か……」
「オレリア様とは、十二年ぶりです。その節はお世話になりました」
「へえ、立派になったねえ。こんな端っこの街まで、はるばるお疲れ様」
まるで、久しぶりに会う親戚か何かのように、しみじみとやり取りを交わす彼女らだったが、長々とそれを続けるようなことはしなかった。
時間が無いことはわかってくれているのだろう。とはいえ、僕にだって急かすようなつもりはなかった。ラティーンの忠告は、しっかりと僕の中に根を張っている。
「ジェイ、魔信機の準備には少し時間をもらうけど、構わないかい?」
「ああ、その間にと言ったら何なんだが、魔術に関する資料はないか? 混魔術式について、少しばかり調べたいことがあるんだ」
「そうかい、それなら、リタの書庫を使いな。あの子が魔術の勉強に使ってる蔵書だ、役に立たないってことはないだろ」
助かる、とだけ残して、僕は二階に向かう階段に足をかけた。
薄氷の上を渡るような、危うく脆く、おっかなびっくりな進軍だったが、それでも、道は繋がっている。
鍵を握っているのは、【愛奴】が使う混魔術式。
それに関する資料は、確かにリタの書庫の中にあった。彼女は決して、自室に僕を入れようとはしなかったが、その理由も頷ける程度に、部屋の中は煩雑に散らかっていた。
それでも、根気よく当たっていけば、暫くの後に、当たりの書物を見つけることができた。それを読み込みつつ、僕は懐から、もう一つ資料を取り出す。
エイヴァが別れ際に渡してくれた、リトラのカルテ。これもまた、今回の戦いにおいて、大きな意味を持つはずだ。
僕は、それらを読み耽った。ラティーンは信じろと言っていたが、リタがいつ目覚めるかわからない以上、こちらで使える戦力にはどうしても限界がある。
ならば、モノを言うのは事前の準備だ。死霊術の土台で戦ったのでは、勝ち目がない。やるとするのならそれ以外、搦め手を駆使してようやく、勝機が見えるかどうかというところだろう――。
と、そのようにしばらくの間、交互に資料を読み進めていれば、不意に戸を叩く音が聞こえてくる。
「おーい、ジェイやい。魔信機の準備、できたよ!」
呼びかける声に、腰を上げた。
怯心は、一旦地べたに置くことにした。答えはすぐに出るものではないと、言い聞かせても聞かないようだったので、とりあえず、その場に放置していくしかない。
階下に戻り、ある場所への通信を行い、その後はまた、書庫に籠もった。
その合間を見て、他の準備も整えていく。向かうのが死地なれば、用心をし過ぎるということはない。
指針が定まったとはいえ、時間が無いことには変わりない。僕の思いついた作戦も、悠長にやっていては、実現不可能になってしまう。
「お、おかえり。マキナとは――」
会えたのかい? と、恐らく言おうとしていたのだろう。店に戻ってきた僕に向けて、顔を上げたオレリアの言葉が終わるよりも早く、僕はカウンターに駆け寄った。
「オレリア、すまない。魔信機を貸してくれないか、急いで連絡を取らなきゃいけないところがあるんだ」
「そりゃ、もちろんいいけど……でも、そんなに血相変えて、どこに?」
「――にだ。もしかするとあいつなら、【愛奴】を打倒できる武器を用意できるかもしれない」
「……ふうん、自信、あるんだ」
ニヤリ、と彼女の口元が、楽しそうに歪む。それは、籠の中で羽ばたく小鳥を見つめるのにも似た、嗜虐的な色合いと、未熟者の成長を喜ぶ年長者としての意味合いが、両方溶け出しているように見えた。
「いや、まあ、絶対ってわけじゃ――」
「――自信は、おありのようですよ」
僕の声を追い抜くようにして、無機質な声が、背後から飛んでくる。
マキナは、店内に足を踏み入れる前に一度、小さく礼をしてから、その澄んだ瞳をオレリアに向ける。
「やあ、マキナじゃない。久しぶり、確か……」
「オレリア様とは、十二年ぶりです。その節はお世話になりました」
「へえ、立派になったねえ。こんな端っこの街まで、はるばるお疲れ様」
まるで、久しぶりに会う親戚か何かのように、しみじみとやり取りを交わす彼女らだったが、長々とそれを続けるようなことはしなかった。
時間が無いことはわかってくれているのだろう。とはいえ、僕にだって急かすようなつもりはなかった。ラティーンの忠告は、しっかりと僕の中に根を張っている。
「ジェイ、魔信機の準備には少し時間をもらうけど、構わないかい?」
「ああ、その間にと言ったら何なんだが、魔術に関する資料はないか? 混魔術式について、少しばかり調べたいことがあるんだ」
「そうかい、それなら、リタの書庫を使いな。あの子が魔術の勉強に使ってる蔵書だ、役に立たないってことはないだろ」
助かる、とだけ残して、僕は二階に向かう階段に足をかけた。
薄氷の上を渡るような、危うく脆く、おっかなびっくりな進軍だったが、それでも、道は繋がっている。
鍵を握っているのは、【愛奴】が使う混魔術式。
それに関する資料は、確かにリタの書庫の中にあった。彼女は決して、自室に僕を入れようとはしなかったが、その理由も頷ける程度に、部屋の中は煩雑に散らかっていた。
それでも、根気よく当たっていけば、暫くの後に、当たりの書物を見つけることができた。それを読み込みつつ、僕は懐から、もう一つ資料を取り出す。
エイヴァが別れ際に渡してくれた、リトラのカルテ。これもまた、今回の戦いにおいて、大きな意味を持つはずだ。
僕は、それらを読み耽った。ラティーンは信じろと言っていたが、リタがいつ目覚めるかわからない以上、こちらで使える戦力にはどうしても限界がある。
ならば、モノを言うのは事前の準備だ。死霊術の土台で戦ったのでは、勝ち目がない。やるとするのならそれ以外、搦め手を駆使してようやく、勝機が見えるかどうかというところだろう――。
と、そのようにしばらくの間、交互に資料を読み進めていれば、不意に戸を叩く音が聞こえてくる。
「おーい、ジェイやい。魔信機の準備、できたよ!」
呼びかける声に、腰を上げた。
怯心は、一旦地べたに置くことにした。答えはすぐに出るものではないと、言い聞かせても聞かないようだったので、とりあえず、その場に放置していくしかない。
階下に戻り、ある場所への通信を行い、その後はまた、書庫に籠もった。
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