氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

カザハナ

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後日談

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「追い出したりしませんよ。言ったでしょう、私はアシュリー嬢を花嫁として歓迎すると。私は貴女を手離す気は無いと。無理強いをする気は無いですが、貴女がそれで理解して頂けるのならば、婚前交渉をしても良いとすら思っていますよ。勿論、結婚前に子供が出来てしまうと、子供が産まれるまでは有らぬ疑いを掛けてくる輩も居るでしょうから、避妊薬はきちんと飲んで頂きますが、それで納得して頂けるのならば、今夜にでも伺いますよ?」

「理解しましたっ!理解しましたから、それだけは止めて下さい!!わたくし、婚前交渉はご辞退します~!!!今ですらもう、予想の上限を軽く越えているのに、これ以上の衝撃発言はお控え下さいっ!!」


 ジーンの言葉で思わずその行為を想像してしまい、全身を真っ赤に染め上げて、潤んだ瞳で抗議する。

 既に予想範囲内を大きく上回る出来事だらけで、許容量キャパオーバー気味なのだ。

 そんなアシュリーを見て、思わずジーンは口元が緩む。


「本当に、貴女の元婚約者は愚かで馬鹿な男ですね。貴女のような素直で純粋な、とても可愛い女性ひとを婚約者にして置きながら、それに気付かず他の女にうつつを抜かすなんて。そもそも、贈り物を届けるならば直に届けるか、確実に届くよう信頼の出来る相手に渡すのが常識でしょうし、受け取ったかどうかの確認は必要でしょう。それを贈り主に確認すらせず、他の者の言葉を鵜呑みにするなんて、阿呆にも程が有る。そんなだから最高級の女性を逃して、狡猾で汚ない女に引っ掛かるんですよ。気が変われば仰って下さいね?アシュリー嬢からのお誘いは、いつでも大歓迎ですから」


 ジーンはそう言いながら、アシュリーの部屋の前に到着した。


「ここが貴女の使用する部屋です。長旅でお疲れでしょう、今夜の晩餐はどうしますか?静かに一人で食べたいので有れば、部屋に持ち込ませますし、私と二人が良いので有れば、別室に用意させます。賑やかでも良いので有れば、普段と同じようにさせますが」

「……普段は賑やかなのですか?」


 両親が不在で、妹も嫁いだと聞いている。

 それなのに、賑やかになるのだろうかとつい疑問に思ったのだ。


「ええ。エヴァンス家は通常、使用人達と共に食べますから。ただしこれは、花嫁が賢く仕事に理解を示して下さる方で無いと同席には至りませんが。エヴァンス家は食事中でも仕事の話が飛び交う事が有るので、理解出来ない方では苦痛でしか無いでしょう。ですから、そのような方が花嫁になった場合、エヴァンス姓の者達だけで食べる事になっているのです。ですが、アシュリー嬢は賢く、仕事の内容を理解出来る方ですからね。一時間後に食事が出来るようにさせますが、どうしますか?」


 アシュリーは自分の意見を聞いて貰えるだけで無く、自身を評価して貰えた事にとても感激し、キラキラとした笑顔を見せる。

(貴族男性は、女性に意見を求めない事が多いのに、ジーン様はわたくしの言葉を聞いて、受け止めて下さるのだわ)

 普通なら選択肢すら与えずに、自分の思うまま押し進める事が多いのだ。

 アシュリーの中の、ジーンに対する好感度は上がるばかりだ。


「わたくしも、エヴァンス家の普段の晩餐に、混ぜて頂けると嬉しく思います!旅の間も皆様と一緒にお食事出来て、色々なお話が聞けて、とても楽しく有意義でした。長旅では有りましたが想像以上に快適で、ステラを含むエヴァンス家の使用人の方々に、沢山の気配り、心配りをして頂き、大した疲れも無い状態で王都へと連れて頂いた事に、とても感謝を致しております。わたくしの家族が多大なる迷惑を掛けてくるかも知れませんが、あの家に戻る気は無いので、面倒とは思いますが、この先宜しくお願い致します」


 あの家族の事だ。アシュリーがこんな所に居ると知れば、無理矢理にでも連れ帰ろうとするだろう。

 帰る気の無いアシュリーは、迷惑が掛かると解ってはいるが、それを承知で迎えられたのだから、若君に任せて良いと言っていたステラの言葉を信じて、ジーンに頭を下げるのだった。
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