出会いと別れと復讐と

64

　カルラは部屋を出た直後に、周りを張り巡る全ての魔力を一気に掌握する。

　歩きながら、研究所員の脳内記憶を弄り、失神させていく。カルラの目視範囲内にさえ入ればどんな相手でも可能だ。

　そして、多くのデータが内臓されてるコンピューターに触れて、データ内容を一気に改竄する。その膨大な量のデータはカルラの脳内に直接流し込み記憶する。勿論持ち歩きの出来るデータ保存用の機械にもコピーして。

　先ずは建物内にある、実験体モルモット達の解放。ただし、そのまま解放すると後々問題が出てくる事もあるので、彼等の記憶も改竄してから外に出すが、薬が必要な魔力持ちは、その場に留めて男に任せる。

　カルラは気を失ってる研究所員達を次々に解放した能力者達の顔に変え、服も研究所の制服から質素な服に変容させてから、魔力で縛り、男に声を掛ける。


｢悪いけど、今から部屋に籠るわ。１週間程対価を払うの。それと、この建物全体に不可視と物忘れになる結界を掛けたから、誰も来ない筈よ。その間、所員こいつ等をあなたの好きにして良いわ。私が部屋から出てきた時に今後の話や細かい取り決めを話すから｣

　いつもなら研究所内で寝る事はないが、誰も入れないようにすれば問題はないだろう。建物内でも頑丈な所長室へと立て籠り、鍵を掛けてから、室内にあった機械の魔力を攻撃反射に書き換える。

　既にカルラは限界値を突破している。気を抜けば直ぐにでも昏睡状態に陥り、生死の境を彷徨うだろう。

　深い暗闇の中で歩き続けながら、ただ時間が経つのをひたすら待つ。そこにあるのは生と死のボーダーライン。

　目に見える線がある訳ではないけれど、本能的に解る物。死に向かって歩いて行けば、感覚が無くなり思考も鈍る。その先には死者の門が聳そびえ立つ事も、その中に入れば確実に死ぬ事も、カルラはその目で見て知っている。

　死者に無理矢理引っ張り込まれる者も、逆に死者に追い返される者もいるのだ。

　カルラはそのどちらでもなかったが、今はまだ、死に向かう事は出来ない。

　だからこそ、カルラはひたすら歩き続ける。時間の感覚が狂い、永遠とも感じる深い暗闇の中を。ただ復讐をする生きる事だけを考えて。

　カルラは眠る。深い眠りの底へと。誰も起こす事の出来ない深い暗闇の中へと。