初恋の終わり ~夢を叶えた彼と、居場所のない私~

あんこ

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リシュリー⑥

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 イースが無事、遠征から帰って来た。
 戦神様のお陰か、目立った怪我は無い。一緒に行った騎士たちも全員、無事に帰って来れたらしい。
 今度、戦神様の像がある教会へ、御礼に行ってみようかな。

 遠征から帰ってきたばかりだと言うのに、帰って来た日の夕方、イースは再び出かけて行った。遠征は当初の予定通り、二週間で終わったけれど、報告書の提出とか支給されている剣や鎧の手入れその他諸々の仕事が残っているらしい。「先に寝てていいからね」って言われたけれど、そんなに遅くなるもの?

 遠征中は休みが無かったから、遠征に行った騎士たちは明日から交代でお休みを取るんだって。
 イースはまだ騎士になって日が浅いから、先輩騎士たちが休みの日を決めてから、それに合わせて他の下級騎士の人たちと調整してお休みを決めるって言っていた。

 分かっていたことだけど、騎士の仕事って大変だ。イースがいつ帰ってきてもいいように、数日前から夕食はイースの好物ばかり用意していた。今日もそう。長時間煮込んだポークカレーは肉がホロホロで、我ながらいい出来だ。付け合わせのサラダもゆで卵とトマトを飾り切りして見た目にも楽しいし、デザートには特製のなめらかプリンも作った。

 ……折角、一緒に食べれると思ったのにな。

 心を籠めて作った料理は、イースの口に入ることは無かった。
 仕方ない、タイミングが悪かった。カレーは明日の朝温めなおせばいいし、またイースがいる時に作ればいい。
 プリンは……私はなんだか食欲が湧かないし、ご近所のおばさまにでも差し入れしようかな。

 おばさまの家は私たちの家の前の道を挟んで斜め向かいにある。
 引っ越してきたばかりの時向こうから話しかけてくれて、それを切っ掛けに、街中であった際などに言葉を交わすようになった。おばさまは生粋の王都生まれ、王都育ちらしく、王都の情報に明るいから、色々とお世話になっている。

 適当な籠に容器ごとプリンを詰め、家の外に出る。
 いつものお世話になっている御礼、と言ってプリンを渡すと、おばさまはとても喜んでくれた。大工の旦那様が代の甘党なんだって。

 折角外に出たので少し散歩して帰ろう。
 家から少し離れた公園を目指して歩いていると、遠目に見覚えのある男性を見掛けた。イースの同僚の騎士だ。イースから紹介されたことは無いけれど、間違いない。
 一度だけ、王宮の訓練場が一般開放されていた日に、騎士団の訓練をこっそり見に行ったことがあるのだ。

 年に一度、一般開放の日だけは貴族も平民も関係なく、騎士様たちの訓練風景を囲いの外側から見学することが出来て、筋肉好きの若い女子や、騎士に憧れる幼い男の子なんかに大人気らしい。
 私が行った時も、凄い混雑だった。イースが自分はまだ弱いから、私に見られるのは恥ずかしい、と言って私が行くことに消極的だったから、人垣の隙間から隠れるように見たんだ。

 目の前の彼は、騎士服とは違う私服を着ているけれど、イースと剣を合わせた後、仲良さそうに肩を叩き合っていた人だ。私と同じ黒髪だから、なんとなく覚えていた。

 その彼は見るからに酒に酔った様子で、気分良さそうに歩いている。気になってじっと見ていたら、流石騎士様というべきか、酔っぱらっているにも関わらず私の視線に気付くと近づいて来た。

 どうしよう。ここで逃げたら変に思われるよね。
 あたふたしている内に、彼が目の前にやって来てじっとこちらを見下ろしていた。


「何か俺に用かな、お嬢さん」

 あ、これ、私子どもだと思われているわ、って、口調で分かった。確かに背は低いけど、立派に成人しているのになぁ。でも、ここでイースの妻です、って言い出すのもおかしいし、合わせた方がいいよね。

「い、いえ、あの、騎士様ですよね? 以前お見掛けしたことがあったので」

「おっ、キミ、俺のファン?」

「……ファ、ファンです!」

「そうかそうか、照れるな~。気持ちは嬉しいけど、後五年くらい経ったらまた来て欲しいかな。こんな時間にひとりは危ないよ」

(……つまり直訳すると、ガキには興味ねぇ、とっとと帰れ、ってことね。)

「あの、遠征に行かれていたのですよね」

「よく知ってるな。そうなんだよ、ちょうど今日帰ってきたばっか。久々にダチと飲んできたから、ご機嫌なのよ」

「……遠征の報告だったり、お仕事はいいのですか?」

「わぁー、お嬢ちゃん意外とスパルタ?! 私たちの税金で生きているんだから馬車馬のように働け、ってタイプ?」

「い、いえ、そんな風に思ったことは」

「俺らだって騎士である前に人間なの。報告書も上官も逃げない。明日でいんだよ明日で! 帰って来た日くらい休ませろよ~」
 
「ええ、その通りだと思います。お兄さんは間違ってません」

「お、分かってくれた? ってことで、ひとりが怖いなら家まで送るけど~」

「え?! いえ、大丈夫です! ひとりで帰れますのでっ。 お勤め、ご苦労様でした!」

「あ、おい!」


 聞こえない振りをして、全速力で家まで走る。
 変に思われたかな。酔っていたみたいだし、大丈夫だよね。

 久々に走ったら息が上がって、玄関の扉に寄りかかりながらずるずるとしゃがみこむ。

「報告書、明日でもいいんじゃない……」

 ねぇ、イース。その仕事は、本当に今日しなければいけない仕事なの?
 それとも、仕事っていうのは嘘で、本当は違うところにいるの?


 
 
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