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リシュリー⑦
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遠征から帰って来た日、イースが家に戻って来たのは翌朝だった。
思わず何処にいたのか問い詰めると、報告書を書いた後、疲れてそのまま宿舎で寝ちゃった、と言われた。
王宮の中には、騎士のための寮の他に宿舎があって、騎士なら誰でも利用出来ることになっている。寮の方は独身の騎士限定だけど、宿舎は家庭の有無に関係なく泊まれる。騎士の仕事は不規則で何日も家に帰れない日もあるから、そういった時のために用意されているらしい。
イースが騎士になったばかりの頃、話の流れで宿舎の存在は聞いたことがあったけれど、その時イースは「ま、俺はリシュリーのいる家に帰りたいから使うことはないかな」って話していた。そのこと、忘れちゃったのかな。
私たちの借りている部屋でなくとも、イースには帰る場所がある。その事実がなんだか苦しい。
他の騎士様の奥さんも、皆こんな気持ちなのかな……。
******
イースのいない二週間、私にもちょっとした変化があった。変化、って言っても、大したことではないんだけど。
これまでの私はイースがいない間も自炊して、殆どの時間を家で家事炊事に費やしていた。どうせ王都に知り合いもいないし、お店なんかも詳しくないから、って。
でも流石に二週間、一人で家でじっと閉じこもっているのも耐えられなくなって、とりあえず外に出てみることにしたの。ついでに、イースが不在の間、色々なお店でご飯を食べ歩きしてみよう、と思いついた。
実は、王都に来てから一年が過ぎたというのに、私が外食したのは片手で数える程しかない。そのどれもがイースと一緒の時だ。
別にイースから何か言われた訳ではないけれど、一応イースに養っている立場で、自炊よりお金のかかる外食をするのはなんだか罪悪感があった。
でも、ふと思ったのだ。イースが外食ばかりで家であまり食事を摂らなくなったのは、私のご飯が美味しくないからじゃないか、って。
村で両親と暮らしていた時も、それなりに料理はしていて、両親から美味しくないとか、マズイと言われたことはない。むしろ、父なんか「お母さんが作る料理より美味しいかも!」ってすっごく嬉しそうに言うものだから、自分では料理が得意だと思っていた。
でもそれって、親の欲目ってやつで、本当は私のご飯て美味しくないのかもしれない。自分で食べていても美味しく出来ていると思うけれど、イースの口に合わない味付けなのかも……。
イースはよく、王宮の近くの繁華街でご飯を食べたり、お酒を飲んだりする、って言っていた。どんな料理が人気なのか、調べにいってみよう。
王都は相変わらず人で賑わっていた。目の前の大きい通りにいる人なんて、うちの村の住人全員を集めた数より人数が多いんじゃないかな。ちょうどお昼時で、仕事の休憩中と思われる人が次々にあちこちの店の中へ吸い込まれていく。
男の人が多くて、ちょっと気後れする。どの店に入ろうかウロウロ彷徨っているうちに、なんとバッタリあのイースと同僚の騎士様に会ってしまった。
げっ! って思った瞬間には遅くて、騎士様とばっちり目が合ってしまう。あの時は酔っぱらっていたし、私のことなんて覚えてないかも、って期待は一秒で砕かれた。
「見覚えあると思ったら、この間の子じゃん。迷子か?」
「ち、違いますっ」
どうやら、ウロウロしている姿を見られていたみたいだ。
「え、じゃあもしかして俺の待ち伏せ――」
「違います!!!」
「んな被せ気味に否定すんなよ。お前も昼飯か?」
「え、はい」
そういえば、私はこの人のファンって設定なんだった。
ムキになってしまったのが恥ずかしく、ちょっと俯いてしまう。
「もしかして王都に来て日が浅いのか?」
「いえ、一年……は経ってますけど、そんなに田舎くさいですか」
「別にそういう意味で言った訳じゃないから! なんかキョロキョロしてたから。職業柄、目に付くんだよ、そういうの。迷子の保護とか道案内も仕事の一環だからな」
あー、そういう……。
どうやら、騎士様に悪意はなかったらしい。騎士にしては軟派すぎるような気もするけれど、基本的にはいい人なのだろう。
さりげなく周囲を確認してみたけれど、幸か不幸かイースは一緒にいないみたいだ。
「普段あまり外食しないんですけど、たまにはって思って。でも何処が美味しいのか……」
言いかけて、そこでハッと気が付いた。
この人はイースと同じ騎士。仲も良さそうだし、多分イースとご飯を食べにくることもあるんじゃない?!
イースの好みを、知っているかも。
「あのっ! 騎士様オススメのお店ってありますか?!」
「あるっちゃあるけど、女の子が好む店ってよりかは野郎の店って感じなんだよな」
「野郎の店? で構いません! どんとこいです! お店の場所を教えていただけませんか?!」
「んー……教えるのはいいけど、毎日俺のこと待ち伏せとかしちゃ駄目だぞ?」
「しませんっ!!!」
ハハハ、って軽く笑う騎士様がどこまで本気で言っているのかは分からないけれど、取り合えず教えてはくれるみたいだ。
思わず何処にいたのか問い詰めると、報告書を書いた後、疲れてそのまま宿舎で寝ちゃった、と言われた。
王宮の中には、騎士のための寮の他に宿舎があって、騎士なら誰でも利用出来ることになっている。寮の方は独身の騎士限定だけど、宿舎は家庭の有無に関係なく泊まれる。騎士の仕事は不規則で何日も家に帰れない日もあるから、そういった時のために用意されているらしい。
イースが騎士になったばかりの頃、話の流れで宿舎の存在は聞いたことがあったけれど、その時イースは「ま、俺はリシュリーのいる家に帰りたいから使うことはないかな」って話していた。そのこと、忘れちゃったのかな。
私たちの借りている部屋でなくとも、イースには帰る場所がある。その事実がなんだか苦しい。
他の騎士様の奥さんも、皆こんな気持ちなのかな……。
******
イースのいない二週間、私にもちょっとした変化があった。変化、って言っても、大したことではないんだけど。
これまでの私はイースがいない間も自炊して、殆どの時間を家で家事炊事に費やしていた。どうせ王都に知り合いもいないし、お店なんかも詳しくないから、って。
でも流石に二週間、一人で家でじっと閉じこもっているのも耐えられなくなって、とりあえず外に出てみることにしたの。ついでに、イースが不在の間、色々なお店でご飯を食べ歩きしてみよう、と思いついた。
実は、王都に来てから一年が過ぎたというのに、私が外食したのは片手で数える程しかない。そのどれもがイースと一緒の時だ。
別にイースから何か言われた訳ではないけれど、一応イースに養っている立場で、自炊よりお金のかかる外食をするのはなんだか罪悪感があった。
でも、ふと思ったのだ。イースが外食ばかりで家であまり食事を摂らなくなったのは、私のご飯が美味しくないからじゃないか、って。
村で両親と暮らしていた時も、それなりに料理はしていて、両親から美味しくないとか、マズイと言われたことはない。むしろ、父なんか「お母さんが作る料理より美味しいかも!」ってすっごく嬉しそうに言うものだから、自分では料理が得意だと思っていた。
でもそれって、親の欲目ってやつで、本当は私のご飯て美味しくないのかもしれない。自分で食べていても美味しく出来ていると思うけれど、イースの口に合わない味付けなのかも……。
イースはよく、王宮の近くの繁華街でご飯を食べたり、お酒を飲んだりする、って言っていた。どんな料理が人気なのか、調べにいってみよう。
王都は相変わらず人で賑わっていた。目の前の大きい通りにいる人なんて、うちの村の住人全員を集めた数より人数が多いんじゃないかな。ちょうどお昼時で、仕事の休憩中と思われる人が次々にあちこちの店の中へ吸い込まれていく。
男の人が多くて、ちょっと気後れする。どの店に入ろうかウロウロ彷徨っているうちに、なんとバッタリあのイースと同僚の騎士様に会ってしまった。
げっ! って思った瞬間には遅くて、騎士様とばっちり目が合ってしまう。あの時は酔っぱらっていたし、私のことなんて覚えてないかも、って期待は一秒で砕かれた。
「見覚えあると思ったら、この間の子じゃん。迷子か?」
「ち、違いますっ」
どうやら、ウロウロしている姿を見られていたみたいだ。
「え、じゃあもしかして俺の待ち伏せ――」
「違います!!!」
「んな被せ気味に否定すんなよ。お前も昼飯か?」
「え、はい」
そういえば、私はこの人のファンって設定なんだった。
ムキになってしまったのが恥ずかしく、ちょっと俯いてしまう。
「もしかして王都に来て日が浅いのか?」
「いえ、一年……は経ってますけど、そんなに田舎くさいですか」
「別にそういう意味で言った訳じゃないから! なんかキョロキョロしてたから。職業柄、目に付くんだよ、そういうの。迷子の保護とか道案内も仕事の一環だからな」
あー、そういう……。
どうやら、騎士様に悪意はなかったらしい。騎士にしては軟派すぎるような気もするけれど、基本的にはいい人なのだろう。
さりげなく周囲を確認してみたけれど、幸か不幸かイースは一緒にいないみたいだ。
「普段あまり外食しないんですけど、たまにはって思って。でも何処が美味しいのか……」
言いかけて、そこでハッと気が付いた。
この人はイースと同じ騎士。仲も良さそうだし、多分イースとご飯を食べにくることもあるんじゃない?!
イースの好みを、知っているかも。
「あのっ! 騎士様オススメのお店ってありますか?!」
「あるっちゃあるけど、女の子が好む店ってよりかは野郎の店って感じなんだよな」
「野郎の店? で構いません! どんとこいです! お店の場所を教えていただけませんか?!」
「んー……教えるのはいいけど、毎日俺のこと待ち伏せとかしちゃ駄目だぞ?」
「しませんっ!!!」
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