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【36】幽霊 ーお祓いは必要ですかー
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休みの日の朝、スケッチブックを前にダニエルはため息をついた。
気晴らしに絵を描こうしたが、筆が進まない。
その様子に、共有キッチンからコーヒーを淹れて戻ってきたセレーナが、「どうしたの?悩み事?」と声をかけた。
「ありがとう」とカップを受け取り、ダニエルはその茶色い液体を暫し眺める。
そして意を決して、あのことを話し始めた。
「実はあたし、幽霊に取り憑かれたみたいなの」
「えぇっ!!」
セレーナは恐怖と驚愕でコーヒーカップ落としそうになる。
慌ててカップを机に避難させ、注意深く室内を見渡した。
「安心して、この部屋にはいないから」
「み、見えるの?」
「ううん、でも幽霊の視線を感じるの」
「えぇぇっ!?な、なにそれ!!」
「ハルボーン中佐からの依頼で、最近、ヴァリカレー宮殿で清掃しているでしょ」
セレーナは円らな瞳を恐怖に染めながらも、先を促すように頷く。
「誰もいない室内で、一人で掃除しているとね。感じるのよ、背中を這うような視線を…………」
「きゃぁぁぁぁ!」
清々しい朝の女子寮に、セレーナの声が響き渡った。
「しーっ!しーっ!!」
ダニエルは慌てて、人差し指を唇にあてる。
「ご、ごめん。でも、誰もいないのに視線を感じるなんて……あぁ、恐ろしいわ!きっと宮殿に住む幽霊に取り憑かれているのよ」
セレーナは涙目で、どうしよう!と繰り返しながら狭い室内を所在無げに歩き回る。
さっきまでダニエルも憂鬱だったのに、彼女の取り乱してぶりを見ていると、逆に冷静になってきた。
視線を感じだけで、危害を加えられるわけじゃないし。
気にするほどでもないかも。
元来、ダニエルは大雑把な性格なのだ。
「あたし、神父様に話してみるわ!よい祓魔師(エクソシスト)を紹介してくれるかもしれないし」
「え……お祓いは必要かな?今のところ、身体になんの影響もないよ。見られてるだけなら放っておいても」
「そんなのダメよ!今、なにも無くとも、今後ジワジワ影響が出てくるかもしれないじゃない」
それもそうかと、ダニエルはセレーナの意見を受け止めた。
「幽霊に取り憑かれたのって、いつからなの?」
「二回目に宮殿に行った時かなぁ」
「見られてる感じがするのは、掃除してる部屋だけ?」
「いや、宮殿内部の廊下でも感じるし、仕事している時や、帰り道でも感じるよ。この前、銀行へ行った時も感じたし」
「えぇ…めっちゃ憑いてきてるじゃない、その幽霊!」
「ストーカーみたいよね」
幽霊につけ回される自分を想像して、ダニエルは吹き出した。
「笑い事じゃないわよ!そいつは浮遊霊ね。その他に変わったことはない?」
「うーーん、電球がよく切れるようになったわ。それと、物の位置がよく変わっているの。脚立を使わなきゃ取れない場所に本が置かれていたり。後は対面に設置されていたソファーが、背中合わせになっていたり……」
「本はたまたまだろうけど、電球は幽霊の仕業ね!ソファが背中合わせになるのは誰の仕業だろう?」
「わかんないけど、気持ち悪いよね」
奇妙な現象に、セレーナも顔を顰める。
「他には?
「そういえば……あ、でもこれは関係ないか」
「なに?何でもいいから教えて」
「ハルボーン中佐から、ワックスをかけてくれって、よく言われるようになったわ。最初は月に一回でいいって言っていたのに、毎週かけてくれって……」
そう言われる日に限って、ソファーが背中合わせに設置されてるのよね。
先週は拭く前に戻したら、翌日もまた同じように背中合わせになっていて、その時は「ソファーの位置を変えないようにワックスをかけてくれ」と意味不明な指示を受けたんだった。
最近は絨毯にブラシをかけさせたり、とにかく屈む仕事ばかり言いつけられる。
「ワックスってそんなにこまめに塗らなきゃいけないのね」
「うーん、月一でいいんじゃないかな。きっとあたしの塗り方が悪いのね」
「そうかもしれないわ。中佐は遠回しに指摘しているのかも」
ダニエルは中佐の真意に気づけなかったのを恥じた。
次はもっと念入りにソファーを磨こう。
「明日、教会へ行くから、神父様に相談してみる。最強の祓魔師を探してくるから、安心して」
「…………うん、ありがとう」
親身になってくれるセレーナには悪いが、実はダニエルは祓魔師を信じてない。
それどころか宗教も神も信じてないし、なんなら詐欺師だと思っている。
信心深い彼女には口が裂けても言えない秘密だ。
気晴らしに絵を描こうしたが、筆が進まない。
その様子に、共有キッチンからコーヒーを淹れて戻ってきたセレーナが、「どうしたの?悩み事?」と声をかけた。
「ありがとう」とカップを受け取り、ダニエルはその茶色い液体を暫し眺める。
そして意を決して、あのことを話し始めた。
「実はあたし、幽霊に取り憑かれたみたいなの」
「えぇっ!!」
セレーナは恐怖と驚愕でコーヒーカップ落としそうになる。
慌ててカップを机に避難させ、注意深く室内を見渡した。
「安心して、この部屋にはいないから」
「み、見えるの?」
「ううん、でも幽霊の視線を感じるの」
「えぇぇっ!?な、なにそれ!!」
「ハルボーン中佐からの依頼で、最近、ヴァリカレー宮殿で清掃しているでしょ」
セレーナは円らな瞳を恐怖に染めながらも、先を促すように頷く。
「誰もいない室内で、一人で掃除しているとね。感じるのよ、背中を這うような視線を…………」
「きゃぁぁぁぁ!」
清々しい朝の女子寮に、セレーナの声が響き渡った。
「しーっ!しーっ!!」
ダニエルは慌てて、人差し指を唇にあてる。
「ご、ごめん。でも、誰もいないのに視線を感じるなんて……あぁ、恐ろしいわ!きっと宮殿に住む幽霊に取り憑かれているのよ」
セレーナは涙目で、どうしよう!と繰り返しながら狭い室内を所在無げに歩き回る。
さっきまでダニエルも憂鬱だったのに、彼女の取り乱してぶりを見ていると、逆に冷静になってきた。
視線を感じだけで、危害を加えられるわけじゃないし。
気にするほどでもないかも。
元来、ダニエルは大雑把な性格なのだ。
「あたし、神父様に話してみるわ!よい祓魔師(エクソシスト)を紹介してくれるかもしれないし」
「え……お祓いは必要かな?今のところ、身体になんの影響もないよ。見られてるだけなら放っておいても」
「そんなのダメよ!今、なにも無くとも、今後ジワジワ影響が出てくるかもしれないじゃない」
それもそうかと、ダニエルはセレーナの意見を受け止めた。
「幽霊に取り憑かれたのって、いつからなの?」
「二回目に宮殿に行った時かなぁ」
「見られてる感じがするのは、掃除してる部屋だけ?」
「いや、宮殿内部の廊下でも感じるし、仕事している時や、帰り道でも感じるよ。この前、銀行へ行った時も感じたし」
「えぇ…めっちゃ憑いてきてるじゃない、その幽霊!」
「ストーカーみたいよね」
幽霊につけ回される自分を想像して、ダニエルは吹き出した。
「笑い事じゃないわよ!そいつは浮遊霊ね。その他に変わったことはない?」
「うーーん、電球がよく切れるようになったわ。それと、物の位置がよく変わっているの。脚立を使わなきゃ取れない場所に本が置かれていたり。後は対面に設置されていたソファーが、背中合わせになっていたり……」
「本はたまたまだろうけど、電球は幽霊の仕業ね!ソファが背中合わせになるのは誰の仕業だろう?」
「わかんないけど、気持ち悪いよね」
奇妙な現象に、セレーナも顔を顰める。
「他には?
「そういえば……あ、でもこれは関係ないか」
「なに?何でもいいから教えて」
「ハルボーン中佐から、ワックスをかけてくれって、よく言われるようになったわ。最初は月に一回でいいって言っていたのに、毎週かけてくれって……」
そう言われる日に限って、ソファーが背中合わせに設置されてるのよね。
先週は拭く前に戻したら、翌日もまた同じように背中合わせになっていて、その時は「ソファーの位置を変えないようにワックスをかけてくれ」と意味不明な指示を受けたんだった。
最近は絨毯にブラシをかけさせたり、とにかく屈む仕事ばかり言いつけられる。
「ワックスってそんなにこまめに塗らなきゃいけないのね」
「うーん、月一でいいんじゃないかな。きっとあたしの塗り方が悪いのね」
「そうかもしれないわ。中佐は遠回しに指摘しているのかも」
ダニエルは中佐の真意に気づけなかったのを恥じた。
次はもっと念入りにソファーを磨こう。
「明日、教会へ行くから、神父様に相談してみる。最強の祓魔師を探してくるから、安心して」
「…………うん、ありがとう」
親身になってくれるセレーナには悪いが、実はダニエルは祓魔師を信じてない。
それどころか宗教も神も信じてないし、なんなら詐欺師だと思っている。
信心深い彼女には口が裂けても言えない秘密だ。
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