54 / 102
【37】家族の鎖 ーあたしは働き蜂ー
しおりを挟む
その日も宮殿内で幽霊にたっぷり見られた後、ダニエルは不肖の弟ポーラとカフェで待ち合わせた。
夏の午後、日差しを遮る赤いパラソルの下で、ダニエルを見つけた彼は手を振る。
「ねぇさん!」
「悪いわね、こっちまで来てもらって」
ポーラはダニエルのために椅子を引いてくれた。
「ううん、近衛隊は宮殿近くから離れられない決まりなんでしょ。仕方ないよ。レモネードでいい?」
そしてオーダを取りに来たウェイターにダニエルの分の注文も済ませる。
女性のエスコートはだけは上手いんだよなぁ。
学舎で何を学んできたのやら。
感嘆するやら呆れるやらで、内心複雑だ。
「僕の方の借金はどうにかなったよ。パトロンのマダムに援助してもらったんだ。ねぇさんの方は大丈夫?」
「銀行のローンを組んだから、とりあえずそれで凌ぐわ」
「金貸しよりも銀行のほうが金利は低いもんね」
「でも借金には変わりないから、休み返上で清掃のバイトを入れている。今日も朝から仕事してきたところよ」
ため息を混じりにグラスのストローを口に運ぶと、ポーラは顔を曇らせた。
申し訳なさと怒りと悔しさを混ぜたような、男の子の表情。
ダニエルの苦労をわかってくれる人がいる。
ただそれだけで心は慰められる。
理解するだけじゃなくて、お金を稼いでくれたらもっと良いんだけど。
「この前あった時、誰かに見られてる気がするって言ったでしょ?あれからそういう気配ってない?」
「ないよ!女性からの視線はよく感じるけどね」
ポーラは目の前を歩く二人の女性に目をつける。
淡いドレスを着た身形の良い令嬢に付き従う侍女に、パチリとウィンクを送る。
男慣れしてなさそうな侍女は頬を赤らめ俯いた。
ったく、どうして男ってこうなのかしら。
姉と一緒にいる時くらい、女漁りはやめてほしいものだ。
「そうか、じゃあやっぱり私が……」
「……私がなに?ねぇさん」
「私が幽霊に憑かれているのかな、って」
「幽霊?」
ポーラは怪訝な表情でダニエルを見つめる。
「えぇ、最近、誰かに見られてるいる気がするの。誰もいない部屋でも視線を感じるから、きっと幽霊の仕業かなって」
「馬鹿馬鹿しい!幽霊なんていないよ」
ポーラはダニエルの幽霊説を一蹴する。
「ねぇさん、誰かに見張られてるんじゃないの?」
「あたしも最初はそう思ったけど、誰もいない部屋で一番視線を感じるのよ」
ダニエルは朝、セレーナに話したことを再度ポーラにも打ち明けた。
「それは奇妙だね……でも僕は幽霊なんて信じない!」
「あたしも信じてないけど、セレーナがお祓いしたほうがいいんじゃないかって」
ポーラは心底呆れたようにダニエルを見つめた。
「祓魔師なんて信じるのかい?あんなの詐欺師じゃないか!」
「そうだけど……」
おいおいと言いたげに、ポーラは頭を抱えた。
そして伝票を握りしめ、立ち上がる。
「しっかりしてくれよ、ねぇさん。詐欺に引っかかるのは父上だけで十分だ」
そう言い残し、ポーラは会計をすませ肩で風をきって歩いていく。
彼にとっては我慢ならない話題だったのだろう。
ポーラがトラウマを抱えているのを知っていたのに……無神経だったわ。
ダニエルはその背中を、ため息混じりで見送った。
ダニエルとポーラが祓魔師を信じなのは、父上シシェック・マッキニーが新興宗教にはまっているからだ。
ダニエルが家を飛び出し、軍人として身を立て故郷へ戻った時には既に、父は宗教にズッポリはまっていた。
聞くところによると、家を出てしばらくした後、父はその宗教にのめりこむようになったらしい。
ダニエルが故郷に戻るまでの数年、彼らを城に招き、お布施と称してお金を貢ぐ父。
そしてそれに怒り心頭の母と、肩を寄せ合い身を守る幼い弟妹。
その頃の弟と妹の心情を考えると、遣る瀬無い気持ちで一杯になる。
母からは「貴女が家を出た事にショックで、あの人はああなったのよ」と詰られた。
あたしのせいにしないで!と反発したい気持ちもある。
こんな自分でも、いなくなって父はショックだったのか。
ダニエルに無関心な父だったが、愛されていたのかもと仄暗い喜びもある。
こんな事で父からの愛情を見い出すなんて。
自分でもつくづく馬鹿だと思う。
ダニエルは解っている。
父と母にとって、自分は働き蜂にすぎないということを。
時折おそってくる、逃げ出したくなるような閉塞感。
そして目を背けたい事実。
後ろめたさと罪悪感。
それがダニエルと家族を繋ぐ鎖だった。
夏の午後、日差しを遮る赤いパラソルの下で、ダニエルを見つけた彼は手を振る。
「ねぇさん!」
「悪いわね、こっちまで来てもらって」
ポーラはダニエルのために椅子を引いてくれた。
「ううん、近衛隊は宮殿近くから離れられない決まりなんでしょ。仕方ないよ。レモネードでいい?」
そしてオーダを取りに来たウェイターにダニエルの分の注文も済ませる。
女性のエスコートはだけは上手いんだよなぁ。
学舎で何を学んできたのやら。
感嘆するやら呆れるやらで、内心複雑だ。
「僕の方の借金はどうにかなったよ。パトロンのマダムに援助してもらったんだ。ねぇさんの方は大丈夫?」
「銀行のローンを組んだから、とりあえずそれで凌ぐわ」
「金貸しよりも銀行のほうが金利は低いもんね」
「でも借金には変わりないから、休み返上で清掃のバイトを入れている。今日も朝から仕事してきたところよ」
ため息を混じりにグラスのストローを口に運ぶと、ポーラは顔を曇らせた。
申し訳なさと怒りと悔しさを混ぜたような、男の子の表情。
ダニエルの苦労をわかってくれる人がいる。
ただそれだけで心は慰められる。
理解するだけじゃなくて、お金を稼いでくれたらもっと良いんだけど。
「この前あった時、誰かに見られてる気がするって言ったでしょ?あれからそういう気配ってない?」
「ないよ!女性からの視線はよく感じるけどね」
ポーラは目の前を歩く二人の女性に目をつける。
淡いドレスを着た身形の良い令嬢に付き従う侍女に、パチリとウィンクを送る。
男慣れしてなさそうな侍女は頬を赤らめ俯いた。
ったく、どうして男ってこうなのかしら。
姉と一緒にいる時くらい、女漁りはやめてほしいものだ。
「そうか、じゃあやっぱり私が……」
「……私がなに?ねぇさん」
「私が幽霊に憑かれているのかな、って」
「幽霊?」
ポーラは怪訝な表情でダニエルを見つめる。
「えぇ、最近、誰かに見られてるいる気がするの。誰もいない部屋でも視線を感じるから、きっと幽霊の仕業かなって」
「馬鹿馬鹿しい!幽霊なんていないよ」
ポーラはダニエルの幽霊説を一蹴する。
「ねぇさん、誰かに見張られてるんじゃないの?」
「あたしも最初はそう思ったけど、誰もいない部屋で一番視線を感じるのよ」
ダニエルは朝、セレーナに話したことを再度ポーラにも打ち明けた。
「それは奇妙だね……でも僕は幽霊なんて信じない!」
「あたしも信じてないけど、セレーナがお祓いしたほうがいいんじゃないかって」
ポーラは心底呆れたようにダニエルを見つめた。
「祓魔師なんて信じるのかい?あんなの詐欺師じゃないか!」
「そうだけど……」
おいおいと言いたげに、ポーラは頭を抱えた。
そして伝票を握りしめ、立ち上がる。
「しっかりしてくれよ、ねぇさん。詐欺に引っかかるのは父上だけで十分だ」
そう言い残し、ポーラは会計をすませ肩で風をきって歩いていく。
彼にとっては我慢ならない話題だったのだろう。
ポーラがトラウマを抱えているのを知っていたのに……無神経だったわ。
ダニエルはその背中を、ため息混じりで見送った。
ダニエルとポーラが祓魔師を信じなのは、父上シシェック・マッキニーが新興宗教にはまっているからだ。
ダニエルが家を飛び出し、軍人として身を立て故郷へ戻った時には既に、父は宗教にズッポリはまっていた。
聞くところによると、家を出てしばらくした後、父はその宗教にのめりこむようになったらしい。
ダニエルが故郷に戻るまでの数年、彼らを城に招き、お布施と称してお金を貢ぐ父。
そしてそれに怒り心頭の母と、肩を寄せ合い身を守る幼い弟妹。
その頃の弟と妹の心情を考えると、遣る瀬無い気持ちで一杯になる。
母からは「貴女が家を出た事にショックで、あの人はああなったのよ」と詰られた。
あたしのせいにしないで!と反発したい気持ちもある。
こんな自分でも、いなくなって父はショックだったのか。
ダニエルに無関心な父だったが、愛されていたのかもと仄暗い喜びもある。
こんな事で父からの愛情を見い出すなんて。
自分でもつくづく馬鹿だと思う。
ダニエルは解っている。
父と母にとって、自分は働き蜂にすぎないということを。
時折おそってくる、逃げ出したくなるような閉塞感。
そして目を背けたい事実。
後ろめたさと罪悪感。
それがダニエルと家族を繋ぐ鎖だった。
0
あなたにおすすめの小説
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる