22 / 42
FILE3『無自覚と功罪』
1・幼馴染
しおりを挟む
自室の窓から見える空を仰ぐと、いわし雲の隙間から太陽の光が差し込んでまるで後光のように美しかった。
ぼくは空が好きだ。海や山とか、自然のものを見ても特に何の感想もないのだけれど、空に限っては別だった。何時間眺めていても飽きない。同じ光景はその瞬間しかないからだ。
空は『完璧』なのだそうだ。完璧であるためには、一瞬たりとも同じではならないからだ。
絵にも描けない美しさとは、きっとこういうような風景を言うのだ。いくら竜宮城が相手でも、自然と自然のコントラストの美しさには敵うまいと、ぼくは密かに浦島太郎に反旗を翻している。
運動会のある月には、体育の授業が増えるのはどこの学校も同じなのだなと、どうでも良いことを思いながら机に向かって上の空で鉛筆を動かしていた。明日は雨が降るだろうから、体育館での練習になるだろう。もしかしたら、雲の速さも手伝って、台風がきているのかもしれない。
この学校に転校してきて早一週間。何となくクラスの雰囲気もわかりはじめてきた。学業に力を入れているためか、恐らくぼくがクラスで一番運動が出来ると自負していた。現に、五十メートル競走のタイムでは、余裕を持って一位になれた。元々体育は得意だったし、前の学校でもリレーの選手を任されていたので、運動神経が悪い方ではないとは思っていたが、これほどまで簡単に一位になれるとは思っていなかった。
逆を言えば、この前の小テストでは下から数えた方が早かった。前の学校では、勉強は中の上をキープしていたぼくだったが、この学校ではそう上手くはいかないようだった。五十点満点中十五点で、早速帰ってから母に怒られたものだった。
「大谷くん、筆が止まっているね」
こほん、と咳払いをした仙石 ハルカが、教卓に立ち仁王立ちをし、ぼくに向かって定規を突きつけながら言った。
「なあ、こんなことして何か意味があるの? 倶楽部に入るのは構わないけど、おれのプロフィールなんかいらないだろ。百問って、拷問だぞ」
司は少し遠くの席に座って本を読んでいた。
探偵倶楽部に入って騙されたと気付いたのは、人数がぼくを含め三人しかいないことだった。つまり、仙石と司しかいなかった。
「君の身長や体重、血液型。それから、趣味や嫌いなものなど、知っておいて損はない。例えば、ある人をターゲットに話を聞き出す場合、趣味の合う者を宛がえば、すんなりと話が聞けるかもしれない。つまりはプロファイル捜査をする際に必要なのだよ」
一人で納得したように頷き、今日かけている派手な赤い眼鏡をずり上げた仙石に、ブーイングを投げかけ、司を振り向いた。
「なあ司、言ってやってよ。百問って、何だよこれ。好きなタイプとか、初恋はいつだったとか、必要ないじゃん」
司はゆっくりと顔を上げて肩を竦めた。
「諦めろ、たくみ。俺もやらされた」
「司、裏切者!」
「ハルカは一度言いだしたら絶対に曲げないよ」
残念そうに首を振った司を見て、ぼくは諦めた。二人は家が隣同士の幼馴染みで、産まれたときから一緒に過ごしてきたそうだ。
だから仙石の性格は司が一番良く知っている。残念だが、さっさと終わらせるしかなさそうだった。
1.続く
ぼくは空が好きだ。海や山とか、自然のものを見ても特に何の感想もないのだけれど、空に限っては別だった。何時間眺めていても飽きない。同じ光景はその瞬間しかないからだ。
空は『完璧』なのだそうだ。完璧であるためには、一瞬たりとも同じではならないからだ。
絵にも描けない美しさとは、きっとこういうような風景を言うのだ。いくら竜宮城が相手でも、自然と自然のコントラストの美しさには敵うまいと、ぼくは密かに浦島太郎に反旗を翻している。
運動会のある月には、体育の授業が増えるのはどこの学校も同じなのだなと、どうでも良いことを思いながら机に向かって上の空で鉛筆を動かしていた。明日は雨が降るだろうから、体育館での練習になるだろう。もしかしたら、雲の速さも手伝って、台風がきているのかもしれない。
この学校に転校してきて早一週間。何となくクラスの雰囲気もわかりはじめてきた。学業に力を入れているためか、恐らくぼくがクラスで一番運動が出来ると自負していた。現に、五十メートル競走のタイムでは、余裕を持って一位になれた。元々体育は得意だったし、前の学校でもリレーの選手を任されていたので、運動神経が悪い方ではないとは思っていたが、これほどまで簡単に一位になれるとは思っていなかった。
逆を言えば、この前の小テストでは下から数えた方が早かった。前の学校では、勉強は中の上をキープしていたぼくだったが、この学校ではそう上手くはいかないようだった。五十点満点中十五点で、早速帰ってから母に怒られたものだった。
「大谷くん、筆が止まっているね」
こほん、と咳払いをした仙石 ハルカが、教卓に立ち仁王立ちをし、ぼくに向かって定規を突きつけながら言った。
「なあ、こんなことして何か意味があるの? 倶楽部に入るのは構わないけど、おれのプロフィールなんかいらないだろ。百問って、拷問だぞ」
司は少し遠くの席に座って本を読んでいた。
探偵倶楽部に入って騙されたと気付いたのは、人数がぼくを含め三人しかいないことだった。つまり、仙石と司しかいなかった。
「君の身長や体重、血液型。それから、趣味や嫌いなものなど、知っておいて損はない。例えば、ある人をターゲットに話を聞き出す場合、趣味の合う者を宛がえば、すんなりと話が聞けるかもしれない。つまりはプロファイル捜査をする際に必要なのだよ」
一人で納得したように頷き、今日かけている派手な赤い眼鏡をずり上げた仙石に、ブーイングを投げかけ、司を振り向いた。
「なあ司、言ってやってよ。百問って、何だよこれ。好きなタイプとか、初恋はいつだったとか、必要ないじゃん」
司はゆっくりと顔を上げて肩を竦めた。
「諦めろ、たくみ。俺もやらされた」
「司、裏切者!」
「ハルカは一度言いだしたら絶対に曲げないよ」
残念そうに首を振った司を見て、ぼくは諦めた。二人は家が隣同士の幼馴染みで、産まれたときから一緒に過ごしてきたそうだ。
だから仙石の性格は司が一番良く知っている。残念だが、さっさと終わらせるしかなさそうだった。
1.続く
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる