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第1章★閑話★
2☆鏡の国のカルラ☆
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ワタル「菫、菫!」
菫「……うーん」
ワタル「起きろ。うなされながら涙流して寝てるんじゃねーよ」
菫「……えっ、なに? 朝?」
ワタル「まだ夜中だよ。ちょっと、匿ってくれ。カボシがおれを探してるらしいんだ」
菫「なんで?」
ワタル「今日パーティーあっただろ。あの王女様、飲みすぎて酔っ払いながらおれと一緒に寝ると言い張ってるらしい」
菫「寝てあげなよ」
ワタル「おい! 敵国の王女となんて嫌だよ!」
菫「わたし眠いんですけど……明日隠れ里に出発だし」
ワタル「泣きながら寝て疲れ取れるわけねーだろ。ほら、涙拭け」
菫「うん、ありがとう」
ワタル「菫の部屋にいさせてもらうぜ。ここなら誰もこないだろ」
菫「いいですけど、わたし寝るからね。ヒサメ様のところに行った方がいいよ……」
ワタル「おい、寝るな!」
菫「わたしそのパーティーの準備で疲れたの……おやすみ……」
カルラ『……ワタル、大丈夫?』
ワタル「うわあああ! びっくりした! どこから声が聞こえるんだよ!」
カルラ『ここだよ~』
ワタル「雷電の鏡? 何で繋げてあるんだ?」
カルラ『菫、いつもうなされて涙流して寝るから、心配で』
ワタル「……毎日?」
カルラ『う、うん……ごめん』
ワタル「ふーん、なるほど。隅に置けないよなー、カルラって」
カルラ『ごめんなさい』
ワタル「お前はいいよな。研究してるからパーティー不参加を許されてるなんて」
カルラ『……嫌だよ』
ワタル「ん? パーティー好きだった?」
カルラ『嫌い。でも天界城にいれば菫に会えるだろ……』
ワタル「!」
カルラ『涙を拭いてあげられる……ワタルがきてくれて良かった……』
ワタル「死の監獄の方がいいじゃん。カボシもこないし。代わって欲しいくらいだ」
カルラ『死の監獄、前は気楽でいいと思ってたけど、菫に出会ってからは天界城に行きたくてたまらない』
ワタル「カルラって……普通のヤツだったんだな」
カルラ『え?』
ワタル「いや、うつむいてブツブツ独り言言うし、笑い方もおかしいし、オドオドしてるし、気味悪いヤツだと思ってたけど」
カルラ『う……』
ワタル「普通の感覚を持った、普通の男だったんだな」
カルラ『……そう?』
ワタル「ああ」
カルラ『俺、菫のことたくさん傷つけたからな……ひどいこと言ったし、ひどいこともした』
ワタル「ふうん?」
カルラ『多分俺が世界で1番菫を傷付けた。こんなに優しい人の心を抉った』
ワタル「……」
カルラ『もう2度としない。菫の心を護れる存在になりたい』
ワタル「それってさ……」
カルラ『え?』
ワタル「菫を好きなんじゃなくて、罪悪感に基づいて行動してねえか?」
カルラ『え?』
ワタル「だったらやめてやれ、菫に失礼だ。心も体も時間が経てば癒える。お前の優しさに触れ、菫は充分癒やされただろう。カルラにも幸せになる権利がある」
カルラ『……』
ワタル「もういいよ、カルラ。菫はもう大丈夫。カルラは本当に好きなヤツと一緒になれよ。罪悪感に基づく行動は、菫はすぐ気付くぜ。あいつは感情の機微に聡いからな」
カルラ『ワタル様……俺じゃ、菫様には分不相応ですか』
ワタル「え? そうじゃなくて……」
カルラ『俺、出会う前から菫に憧れてたから……』
ワタル(ん? どういうことだ?)
カルラ『妹が菫の専属侍女だったから、妹からたくさん菫の話を聞いてきた。俺が11歳のときから、ずっと』
ワタル(ああ、そんなこと言ってたな、記憶操作されたとき朦朧としながら。本当のことだったのか)
カルラ『顔なんて知らなかったよ、死の監獄にきた菫を見るまで。19歳の今まで』
ワタル(19歳?)
ワタル「お前31歳じゃなかったか?」
カルラ『う……ごめん……年齢詐称してました……』
ワタル(……なんで?)
カルラ『菫は俺の世界で1番大好きな人なんだ。罪悪感なんて……言わないで欲しい』
ワタル「……ああ、悪かった」
カルラ『ワタルが1番良く知ってるだろ、菫を。幸せになってほしいんだ。俺が幸せにできないなら、気持ちの優しい人と結婚して欲しい……』
ワタル(わかる)
カルラ『俺じゃなくてもいい、菫が幸せになればそれでいい』
ワタル(わかるよ、カルラ……)
ワタル「随分献身的じゃねーか。わかったよ。変なこと言って悪かったな」
カルラ『うん……良かった』
ワタル「でも、もうお前も寝ろよ。菫の泣く姿見ながらじゃ、カルラも毎日眠れてないんだろ、心配で」
カルラ『俺なんか別にいいんだけど……』
ワタル「今日はおれがカルラの代わりに菫を見ててやるから、お前もたまにはゆっくり寝ろよ」
カルラ『え?』
ワタル「いつもありがとう」
カルラ『! わ、ワタル……』
ワタル「おれの大事な姉を、大切に思ってくれてありがとう。カルラがいれば、おれも安心して菫を任せておける」
カルラ『い、いえ……もったいないお言葉です……』
ワタル「おやすみ、カルラ。また明日から菫を頼む」
カルラ『うん……任せて。おやすみ、ワタル』
ワタル「ああ、おやすみ」
ワタル「……鏡、閉じたけど」
菫「……なんて話をしているのよ」
ワタル「顔、ニヤニヤしてるけど」
菫「焚き付けるのはやめてよ」
ワタル「嬉しいくせに」
菫「……」
ワタル「良かったな、涙止まって」
菫「そうね……」
ワタル「というわけで、今夜はここに泊めろよ」
菫「わかりましたよ、一緒に寝ようか」
ワタル「よし、あー良かった良かった。カボシから逃げられた」
終わり
菫「……うーん」
ワタル「起きろ。うなされながら涙流して寝てるんじゃねーよ」
菫「……えっ、なに? 朝?」
ワタル「まだ夜中だよ。ちょっと、匿ってくれ。カボシがおれを探してるらしいんだ」
菫「なんで?」
ワタル「今日パーティーあっただろ。あの王女様、飲みすぎて酔っ払いながらおれと一緒に寝ると言い張ってるらしい」
菫「寝てあげなよ」
ワタル「おい! 敵国の王女となんて嫌だよ!」
菫「わたし眠いんですけど……明日隠れ里に出発だし」
ワタル「泣きながら寝て疲れ取れるわけねーだろ。ほら、涙拭け」
菫「うん、ありがとう」
ワタル「菫の部屋にいさせてもらうぜ。ここなら誰もこないだろ」
菫「いいですけど、わたし寝るからね。ヒサメ様のところに行った方がいいよ……」
ワタル「おい、寝るな!」
菫「わたしそのパーティーの準備で疲れたの……おやすみ……」
カルラ『……ワタル、大丈夫?』
ワタル「うわあああ! びっくりした! どこから声が聞こえるんだよ!」
カルラ『ここだよ~』
ワタル「雷電の鏡? 何で繋げてあるんだ?」
カルラ『菫、いつもうなされて涙流して寝るから、心配で』
ワタル「……毎日?」
カルラ『う、うん……ごめん』
ワタル「ふーん、なるほど。隅に置けないよなー、カルラって」
カルラ『ごめんなさい』
ワタル「お前はいいよな。研究してるからパーティー不参加を許されてるなんて」
カルラ『……嫌だよ』
ワタル「ん? パーティー好きだった?」
カルラ『嫌い。でも天界城にいれば菫に会えるだろ……』
ワタル「!」
カルラ『涙を拭いてあげられる……ワタルがきてくれて良かった……』
ワタル「死の監獄の方がいいじゃん。カボシもこないし。代わって欲しいくらいだ」
カルラ『死の監獄、前は気楽でいいと思ってたけど、菫に出会ってからは天界城に行きたくてたまらない』
ワタル「カルラって……普通のヤツだったんだな」
カルラ『え?』
ワタル「いや、うつむいてブツブツ独り言言うし、笑い方もおかしいし、オドオドしてるし、気味悪いヤツだと思ってたけど」
カルラ『う……』
ワタル「普通の感覚を持った、普通の男だったんだな」
カルラ『……そう?』
ワタル「ああ」
カルラ『俺、菫のことたくさん傷つけたからな……ひどいこと言ったし、ひどいこともした』
ワタル「ふうん?」
カルラ『多分俺が世界で1番菫を傷付けた。こんなに優しい人の心を抉った』
ワタル「……」
カルラ『もう2度としない。菫の心を護れる存在になりたい』
ワタル「それってさ……」
カルラ『え?』
ワタル「菫を好きなんじゃなくて、罪悪感に基づいて行動してねえか?」
カルラ『え?』
ワタル「だったらやめてやれ、菫に失礼だ。心も体も時間が経てば癒える。お前の優しさに触れ、菫は充分癒やされただろう。カルラにも幸せになる権利がある」
カルラ『……』
ワタル「もういいよ、カルラ。菫はもう大丈夫。カルラは本当に好きなヤツと一緒になれよ。罪悪感に基づく行動は、菫はすぐ気付くぜ。あいつは感情の機微に聡いからな」
カルラ『ワタル様……俺じゃ、菫様には分不相応ですか』
ワタル「え? そうじゃなくて……」
カルラ『俺、出会う前から菫に憧れてたから……』
ワタル(ん? どういうことだ?)
カルラ『妹が菫の専属侍女だったから、妹からたくさん菫の話を聞いてきた。俺が11歳のときから、ずっと』
ワタル(ああ、そんなこと言ってたな、記憶操作されたとき朦朧としながら。本当のことだったのか)
カルラ『顔なんて知らなかったよ、死の監獄にきた菫を見るまで。19歳の今まで』
ワタル(19歳?)
ワタル「お前31歳じゃなかったか?」
カルラ『う……ごめん……年齢詐称してました……』
ワタル(……なんで?)
カルラ『菫は俺の世界で1番大好きな人なんだ。罪悪感なんて……言わないで欲しい』
ワタル「……ああ、悪かった」
カルラ『ワタルが1番良く知ってるだろ、菫を。幸せになってほしいんだ。俺が幸せにできないなら、気持ちの優しい人と結婚して欲しい……』
ワタル(わかる)
カルラ『俺じゃなくてもいい、菫が幸せになればそれでいい』
ワタル(わかるよ、カルラ……)
ワタル「随分献身的じゃねーか。わかったよ。変なこと言って悪かったな」
カルラ『うん……良かった』
ワタル「でも、もうお前も寝ろよ。菫の泣く姿見ながらじゃ、カルラも毎日眠れてないんだろ、心配で」
カルラ『俺なんか別にいいんだけど……』
ワタル「今日はおれがカルラの代わりに菫を見ててやるから、お前もたまにはゆっくり寝ろよ」
カルラ『え?』
ワタル「いつもありがとう」
カルラ『! わ、ワタル……』
ワタル「おれの大事な姉を、大切に思ってくれてありがとう。カルラがいれば、おれも安心して菫を任せておける」
カルラ『い、いえ……もったいないお言葉です……』
ワタル「おやすみ、カルラ。また明日から菫を頼む」
カルラ『うん……任せて。おやすみ、ワタル』
ワタル「ああ、おやすみ」
ワタル「……鏡、閉じたけど」
菫「……なんて話をしているのよ」
ワタル「顔、ニヤニヤしてるけど」
菫「焚き付けるのはやめてよ」
ワタル「嬉しいくせに」
菫「……」
ワタル「良かったな、涙止まって」
菫「そうね……」
ワタル「というわけで、今夜はここに泊めろよ」
菫「わかりましたよ、一緒に寝ようか」
ワタル「よし、あー良かった良かった。カボシから逃げられた」
終わり
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