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第2章★呪詛返し★
第6話☆犯人探し☆
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結界付近に戻ると、シデンを中心に笑顔の国民たちが見えた。
やはりシデンが綺麗に結界を張ってくれたと騒いでいる。
シデンはマユラや国民に囲まれて祝福を受けていた。
センジュはすでにこの場にはおらず、どこかに行ってしまったようだ。
「菫!」
裕が手を上げるのが見えた。頭ひとつ分高いので、わかりやすかった。
近くに行くと、裕の側にカオスも所在なげに立っている。
「裕、カオス様!」
菫が言うと、裕が隣りにいるカオスを見下ろして首をかしげる。
「ええと、菫……この子は?」
「わたしの専属侍女のカオス様」
「あっ、そうだったのか」
倭国王族は素性がばれないようにしており、裕と菫の接触もそれほど多くなかったため、菫さえ裕の専属侍女などの名前や顔は知らなかった。
「何か可愛い子が俺の近くをうろうろしてるなと、不思議だったんだよ」
ははは、と朗らかに笑いながら裕が言った。カオスが恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「裕、太一様ですが……」
エイチ先生に言われた診断を裕に話す。裕は心配そうに聞いていたが、やがて頷いた。
「とりあえず太一殿の容態が安定しているようで良かった。結界もシデン殿が張ってくれたから大丈夫」
カルラが菫の後ろで守るように立っていたが、裕に向かって口を開いた。
「裕、当主は太一が起きてから決めるのはダメなの?」
「……あれ、カルラ? 君、どうしてここに?」
カルラを見た裕が、驚きながら周囲を見渡し、誰も聞かれないように小さく言う。
「天界国橙騎士団長の仕事は?」
菫とカルラは顔を見合わせた。
カルラが倭国人で、天界国橙騎士団長として働いていることは裕に言ってあるが、八雲の愛人の子で、稲田一族当主候補者ということは知らない。
菫は慌ててカルラの素性を話す。
裕もさすがに驚いたようだった。
「えっ……太一殿の腹違いのお兄さんだったのか!」
「うん、だから10日間の休みを取ってきたんだ~」
カルラが言うと、裕は難しい顔をする。
「10日間で当主は決まりそうなのかい?」
菫は裕に向かい、首を振って言葉を発する。
「無理でしょうね」
課題がそれぞれあること、課題をクリアしたものがもう1通の遺言状を読めることを、菫は伝える。
「結界を張り直したということは、裕の言う10日縛りはなくなったわけですよね?」
「ああ、そうだね。俺は結界が心配だったたけだから、稲田一族の後継者は、またゆっくり決めてもいいよ」
「それぞれ、かなり難しい課題なので、期間を設けてやるとして、とにかく今は太一様の呪詛返しの術を解くことを最優先にしたいです」
「うん。そっちは菫に任せているから、もちろんそれでいい。太一殿を頼む」
「ありがとう、裕。あと、当主立ち会いの件ですが、わたし感情移入してしまって、特定の候補者を贔屓してしまいそうなんです」
「うん? つまり、公平に立ち会いするのが難しい感じかい?」
「はい。裕か……できれば第三者の方が立ち会いをするのが良いと思います」
「うーん」
裕は腕を組んで考え始めた。
「無理だな。俺も小さい頃から遊んでいた太一殿を贔屓しそうだ」
確かに人材不足の今、無理を言っているかもしれない。
「……確かに立ち会いが菫1人で候補者が8人だときついかもな」
裕は再び考えると、頷いた。
「ただ、責任者はいないとダメかなと思ってる。菫は引き続き稲田一族後継者関連の責任者としていてほしい。それから立会人として、アコヤ殿とローゼンバッハ殿を派遣させよう」
あっ! と菫は口を手で押さえた。確かに適任だ。倭国に何の関係もない人たちのまっさらな立会人。
「アコヤ様とローゼンバッハ博士、適任かも! さすが裕!」
「え、そうかい? 菫に褒められると嬉しいな」
裕はにこにこと笑う。
あとは菫は、太一に呪詛返しをかけた人物を探し出し、太一の術を解かせることだった。
裕に、今日も稲田一族別邸に泊まると言って別れた。
「菫様、今日も稲田一族別邸に泊まるの? 危険だからうちに泊まりませんか?」
カオスが心配そうに言う。
「ありがとう、カオス様。わたし太一様に呪詛返しをかけた術者を探さないといけないの。しばらく稲田一族別邸にいて、探ることにします」
「カオス、俺も……別邸に泊まりたいんだけど……いい?」
カルラがカオスの目線までしゃがんで言う。カオスはすぐに頷いた。
「別にお兄ちゃんはどこで寝てもいいけどさ……菫様を危険な目に遭わせないでよね」
「わかってるよ」
苦笑したカルラは、カオスと別れて菫と一緒に稲田一族別邸に向かう。
「……俺も疑われてる?」
稲田一族別邸までゆっくり歩きながらカルラが呟く。
呪詛返しをした人物のことを言っているのだろう。
「表向き疑いますけど、カルラ様はわたしとずっと一緒にいたので、アリバイあるでしょ」
「あ……うん、そうだな」
カルラが寂しそうに頷いた。
菫はその様子を見てクスッと笑う。
「みんなの前ではそういいますが、カルラ様がそんなことするわけないし、信頼していますから、疑ってないですよ。むしろ一緒に探してほしいくらい」
そう言うと、菫はカルラの腕に自分の腕を絡めた。
「そう……ありがとう」
赤くなったカルラは、菫が絡みやすいように腕を少し上げた。
「今夜、センジュ様の部屋から抜け出して、あなたの部屋に行くね」
「え……大胆なこと考えるね」
「一緒にぐっすり寝るんじゃないの?」
カルラは気まずそうに頷いた。
「そうだけど、センジュの部屋を抜け出せるか? あいつ独占欲強そうだぞ」
「はい、恐らくもう止められません。わたしはもう用無しだと思います。あの人は太一様に対抗してわたしを繋ぎ止め、嫉妬させようとしていただけですから」
カルラは断言するような菫の言い方に「そうなのか?」と首を傾げた。
「そうだな……お互いに寝不足だからな……ただ、菫が隣で寝ていたら、俺、ちょっと眠れる自信ないな。また死の監獄のときみたいにならなきゃいいけど……」
困ったように呟くカルラに、菫は笑いながら言った。
「1晩で6回もできます? あのときは復讐をしたい一心で休憩時間ごとにきて、わたしを抱いたからできたんでしょ」
「……なんだよその分析」
カルラが真っ赤になりながら菫の背に合わせてしゃがみ、目線を合わせた。
「あのときはアンタ、いつもうなされながら寝るし……どこかに消えてしまいそうだったから」
「なにそれ。だから休憩時間ごとに見にきてたの? そこまでわたし儚くないです。わりと丈夫なのよ」
菫はケラケラと笑う。カルラは真剣な顔で頷いた。
「だって拘束したとき、倭国再建の基盤ができたら責任取って自害するって言ってたから。電撃もなかったし、あれは本気なんだろ……」
お見通しか、と菫は思った。カルラは鋭いし、良く人を見ているので菫の考えもわかっているのだろう。
「だから、誰とも心を酌み交わさないと決めているんだろ」
「カルラ様……」
「そんなこと、アンタを見ていたらすぐにわかるよ。リョウマだってきっと気づいてる」
「……」
「でも俺はもう無理。菫とずっと一緒にいたい。だから安心して俺には寄りかかってほしい。自害しないで、戦争の責任を取る方法を考えよう」
「国民を巻き込むわけにはいきません」
わざと突き放すように国民という言葉を選んだが、カルラは笑いながら菫の頭を撫でた。
「俺、菫に迷惑たくさんかけたけど、菫は見捨てずに助けてくれた。国民とか、王族とかじゃなくて、ただ1人の魔人として、菫を助けたいんだ。俺は王女だから菫が好きなんじゃない。優しくて情に厚い人柄の菫が好きなんだよ」
「……うん、ありがとう」
2人は顔を見合わせて笑うと、ゆっくりした足取りで稲田一族別邸へと向かった。まるで2人きりの散歩を楽しむかのように。
☆続く☆
やはりシデンが綺麗に結界を張ってくれたと騒いでいる。
シデンはマユラや国民に囲まれて祝福を受けていた。
センジュはすでにこの場にはおらず、どこかに行ってしまったようだ。
「菫!」
裕が手を上げるのが見えた。頭ひとつ分高いので、わかりやすかった。
近くに行くと、裕の側にカオスも所在なげに立っている。
「裕、カオス様!」
菫が言うと、裕が隣りにいるカオスを見下ろして首をかしげる。
「ええと、菫……この子は?」
「わたしの専属侍女のカオス様」
「あっ、そうだったのか」
倭国王族は素性がばれないようにしており、裕と菫の接触もそれほど多くなかったため、菫さえ裕の専属侍女などの名前や顔は知らなかった。
「何か可愛い子が俺の近くをうろうろしてるなと、不思議だったんだよ」
ははは、と朗らかに笑いながら裕が言った。カオスが恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「裕、太一様ですが……」
エイチ先生に言われた診断を裕に話す。裕は心配そうに聞いていたが、やがて頷いた。
「とりあえず太一殿の容態が安定しているようで良かった。結界もシデン殿が張ってくれたから大丈夫」
カルラが菫の後ろで守るように立っていたが、裕に向かって口を開いた。
「裕、当主は太一が起きてから決めるのはダメなの?」
「……あれ、カルラ? 君、どうしてここに?」
カルラを見た裕が、驚きながら周囲を見渡し、誰も聞かれないように小さく言う。
「天界国橙騎士団長の仕事は?」
菫とカルラは顔を見合わせた。
カルラが倭国人で、天界国橙騎士団長として働いていることは裕に言ってあるが、八雲の愛人の子で、稲田一族当主候補者ということは知らない。
菫は慌ててカルラの素性を話す。
裕もさすがに驚いたようだった。
「えっ……太一殿の腹違いのお兄さんだったのか!」
「うん、だから10日間の休みを取ってきたんだ~」
カルラが言うと、裕は難しい顔をする。
「10日間で当主は決まりそうなのかい?」
菫は裕に向かい、首を振って言葉を発する。
「無理でしょうね」
課題がそれぞれあること、課題をクリアしたものがもう1通の遺言状を読めることを、菫は伝える。
「結界を張り直したということは、裕の言う10日縛りはなくなったわけですよね?」
「ああ、そうだね。俺は結界が心配だったたけだから、稲田一族の後継者は、またゆっくり決めてもいいよ」
「それぞれ、かなり難しい課題なので、期間を設けてやるとして、とにかく今は太一様の呪詛返しの術を解くことを最優先にしたいです」
「うん。そっちは菫に任せているから、もちろんそれでいい。太一殿を頼む」
「ありがとう、裕。あと、当主立ち会いの件ですが、わたし感情移入してしまって、特定の候補者を贔屓してしまいそうなんです」
「うん? つまり、公平に立ち会いするのが難しい感じかい?」
「はい。裕か……できれば第三者の方が立ち会いをするのが良いと思います」
「うーん」
裕は腕を組んで考え始めた。
「無理だな。俺も小さい頃から遊んでいた太一殿を贔屓しそうだ」
確かに人材不足の今、無理を言っているかもしれない。
「……確かに立ち会いが菫1人で候補者が8人だときついかもな」
裕は再び考えると、頷いた。
「ただ、責任者はいないとダメかなと思ってる。菫は引き続き稲田一族後継者関連の責任者としていてほしい。それから立会人として、アコヤ殿とローゼンバッハ殿を派遣させよう」
あっ! と菫は口を手で押さえた。確かに適任だ。倭国に何の関係もない人たちのまっさらな立会人。
「アコヤ様とローゼンバッハ博士、適任かも! さすが裕!」
「え、そうかい? 菫に褒められると嬉しいな」
裕はにこにこと笑う。
あとは菫は、太一に呪詛返しをかけた人物を探し出し、太一の術を解かせることだった。
裕に、今日も稲田一族別邸に泊まると言って別れた。
「菫様、今日も稲田一族別邸に泊まるの? 危険だからうちに泊まりませんか?」
カオスが心配そうに言う。
「ありがとう、カオス様。わたし太一様に呪詛返しをかけた術者を探さないといけないの。しばらく稲田一族別邸にいて、探ることにします」
「カオス、俺も……別邸に泊まりたいんだけど……いい?」
カルラがカオスの目線までしゃがんで言う。カオスはすぐに頷いた。
「別にお兄ちゃんはどこで寝てもいいけどさ……菫様を危険な目に遭わせないでよね」
「わかってるよ」
苦笑したカルラは、カオスと別れて菫と一緒に稲田一族別邸に向かう。
「……俺も疑われてる?」
稲田一族別邸までゆっくり歩きながらカルラが呟く。
呪詛返しをした人物のことを言っているのだろう。
「表向き疑いますけど、カルラ様はわたしとずっと一緒にいたので、アリバイあるでしょ」
「あ……うん、そうだな」
カルラが寂しそうに頷いた。
菫はその様子を見てクスッと笑う。
「みんなの前ではそういいますが、カルラ様がそんなことするわけないし、信頼していますから、疑ってないですよ。むしろ一緒に探してほしいくらい」
そう言うと、菫はカルラの腕に自分の腕を絡めた。
「そう……ありがとう」
赤くなったカルラは、菫が絡みやすいように腕を少し上げた。
「今夜、センジュ様の部屋から抜け出して、あなたの部屋に行くね」
「え……大胆なこと考えるね」
「一緒にぐっすり寝るんじゃないの?」
カルラは気まずそうに頷いた。
「そうだけど、センジュの部屋を抜け出せるか? あいつ独占欲強そうだぞ」
「はい、恐らくもう止められません。わたしはもう用無しだと思います。あの人は太一様に対抗してわたしを繋ぎ止め、嫉妬させようとしていただけですから」
カルラは断言するような菫の言い方に「そうなのか?」と首を傾げた。
「そうだな……お互いに寝不足だからな……ただ、菫が隣で寝ていたら、俺、ちょっと眠れる自信ないな。また死の監獄のときみたいにならなきゃいいけど……」
困ったように呟くカルラに、菫は笑いながら言った。
「1晩で6回もできます? あのときは復讐をしたい一心で休憩時間ごとにきて、わたしを抱いたからできたんでしょ」
「……なんだよその分析」
カルラが真っ赤になりながら菫の背に合わせてしゃがみ、目線を合わせた。
「あのときはアンタ、いつもうなされながら寝るし……どこかに消えてしまいそうだったから」
「なにそれ。だから休憩時間ごとに見にきてたの? そこまでわたし儚くないです。わりと丈夫なのよ」
菫はケラケラと笑う。カルラは真剣な顔で頷いた。
「だって拘束したとき、倭国再建の基盤ができたら責任取って自害するって言ってたから。電撃もなかったし、あれは本気なんだろ……」
お見通しか、と菫は思った。カルラは鋭いし、良く人を見ているので菫の考えもわかっているのだろう。
「だから、誰とも心を酌み交わさないと決めているんだろ」
「カルラ様……」
「そんなこと、アンタを見ていたらすぐにわかるよ。リョウマだってきっと気づいてる」
「……」
「でも俺はもう無理。菫とずっと一緒にいたい。だから安心して俺には寄りかかってほしい。自害しないで、戦争の責任を取る方法を考えよう」
「国民を巻き込むわけにはいきません」
わざと突き放すように国民という言葉を選んだが、カルラは笑いながら菫の頭を撫でた。
「俺、菫に迷惑たくさんかけたけど、菫は見捨てずに助けてくれた。国民とか、王族とかじゃなくて、ただ1人の魔人として、菫を助けたいんだ。俺は王女だから菫が好きなんじゃない。優しくて情に厚い人柄の菫が好きなんだよ」
「……うん、ありがとう」
2人は顔を見合わせて笑うと、ゆっくりした足取りで稲田一族別邸へと向かった。まるで2人きりの散歩を楽しむかのように。
☆続く☆
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