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第3章★眠り姫★
第5話☆リョウマVSセイ☆
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地面に倒れ込んだ菫は、倒れ込んだままニコニコ笑ってセイを見る。
「図星ね」
「違う。本が落ちただけだ」
「……マユラ様もいたんじゃない? これは推測ですが、あなたとマユラ様の関係は他とは少し違う。マユラ様が言えばおとなしく敵国騎士の妹との婚約にも応じる……そういう関係性」
「違う……」
「弱みを握られているか……それとも、セイ様がマユラ様に恋慕の情を抱いているか。どっちかな?」
「違う!」
セイは倒れた菫の元に大股で歩いてきて、胸ぐらを掴んだ。
「姫様とはいえ失礼なことを言うと容赦しない」
菫はセイの剣幕に驚いたが、再び笑顔を作る。
「じゃあ、教えて下さい。ルージュ様は23歳。センジュ様もそれくらいかな? 何故年齢的に釣合いそうなセンジュ様じゃなくて、末っ子のあなたが結婚相手なの?」
「知らないよ、マユラ様に聞けよ!」
あっ、と口をつぐんだセイを覗き込み、今度は心配そうに菫が見つめた。
「やはり、1番下の立場のセイ様はマユラ様に脅されていますね?」
「何でそんなことがわかるんだよ!」
「わかりますよ、わたしも兄弟の中で1番立場が下だもの」
「……」
「結婚が嫌なら、婚約を断るのはわたしがします。稲田一族別邸に居づらいなら、離れてもらうことも可能です。セイ様、婚約したいの? あなたの気持ちが知りたいの」
セイは菫を見つめていたが、やがて突き飛ばすと、六芒星を空中で描いた。緑色の光が放たれると、菫に向かって六芒星が飛んでくる。
「うるさいよ、三文安のくせに! ちょっと眠ってなよ」
菫は光を全身に受け、フッと意識が遠のいた。
セイが、呼吸を荒らげて気を失うように倒れ込んだ菫を見る。
静かに眠っているようだった。
セイは菫を横抱きにすると、近くにあったベッドへと運び、静かに寝かせた。
「……なんなの、この女。わざわざ赤騎士団長の屋敷に忍び込んでいたわけ? 怖いんだけど」
小さく疑問を口にすると、後ろから良く通る低い声が聞こえてきた。
「忍び込んでなどいない。俺が招いた」
セイが慌てて後ろを振り返ると、今顔合わせで見た婚約者の兄が扉に寄りかかって腕を組んでいた。
「ええと、リョウマ義兄さん……?」
「菫から離れろ」
静かな声色で言うリョウマに、ゾクリと背筋が凍ったセイはおとなしく従った。
「……この人、ただの天界国女中だよね? 赤騎士団長ともあろう方が、なぜ女中なんかを気にかけるの?」
菫が天界国に潜入していることは伏せてセイが言う。
「愛人候補だ。気軽に触るな」
「……え」
こいつ悪魔の恋人じゃないの? とセイは菫を見て疑問に思う。
「確かに……天界城には愛人制度があるって聞いたことあるけど……」
仮にも倭国王女なのに、そんなことしてるんだ、とセイは驚いた。
「ルージュと結婚する意図を言ってもらおうか、義弟よ」
「……別に……ルージュさんが可愛かったから、結婚してもいいかなって思っただけだよ」
リョウマはそれを聞いてフッと鼻で笑った。
「違うだろう。稲田一族を存続させるには、遺伝子を残さなければならない。そこで仮当主のマユラは、分家の子供3人の結婚相手を考えた。末っ子のお前は敵国の代々赤騎士団長の家系であるルージュの元へ。優性遺伝が欲しいのだろう? 子を成すことが真の目的だろう」
「え……」
「名門の陰陽師、稲田一族は遺伝子を重んじていると言っていたからな」
「え、誰が……?」
リョウマはポーカーフェイスのままジッとセイを見る。
「恐らく長男は菫を狙えとマユラに命令されていたのではないか? 吸血王と竜神女王の遺伝子を受け継いでいるからな」
「……えっ?」
「王家の遺伝子が稲田一族に加われば最強だろう。子を成せないマユラは、子孫繁栄を異常に気にしている。違うか?」
「! 知ってるの、この人が倭国王女だと?」
リョウマはフッと下を向いて笑った。
「安心しろ。天界国側にはバレていない。俺の胸に留めておいている」
「な、なぜ……? 敵国王女だぞ。普通竜神女王様みたいに捕虜にしたり、人質にするんじゃないの?」
セイが震えながらリョウマに聞いた。
リョウマはセイを見据えると片方の口角を上げてニヤリと笑う。
「……倭国王女だと秘密にする代わりに、俺の下僕として働かせている」
「……」
セイはリョウマを睨みつけた。
リョウマが考えていたのは、もし菫と心から通じていると倭国のみんなに知られたら、菫の立場が悪くなる可能性があることだ。
こう言っておけば、菫が倭国に帰っても立場が危ぶまれることはないはすだ、とリョウマは思った。
「……なるほどね。何も能力がなくて、王女のくせに国民のことを助けられない三文安だけど、容姿だけはいいもんね。王女とバレて体を使ってリョウマ義兄さんに取り入ったか」
反論したかったが、リョウマは我慢した。
「1つ間違っている。菫が俺に取り入ったのではない。俺が無理矢理菫を屈服させた。彼女に溺れた俺の負けかもしれないがな。ククッ」
なるべく悪役に見えるよう、リョウマは黒い感情を出して笑った。
「……三文安なんて、本当は竜神女王様に代わって天界国に捕虜にされるのがいいんだけどね。捕虜交換できないの?」
仮にも自国王女なのに、この男は菫に対して失礼なことばかり言うものだから、リョウマは先程からイライラしていた。
「倭国で評判最悪なんだよ、この女。国民の金を食いつぶすだけで、魔物退治すらできないし、大臣や重鎮にうるさく口だけは出すし。リョウマ義兄さん、吸血王様の代わりにこいつを殺してくれていたら良かったのに」
リョウマはそれを聞いて怒りの頂点に達した。
「ふざけるなよ……セイ、お前は稲田一族に翻弄された哀れな道具だ」
セイはリョウマを睨みつけた。
「俺は道具じゃない! 稲田一族の立派な一員だ!」
和紙を取り出し、六芒星の印を空中で描くとリョウマの方へ和紙を飛ばす。
リョウマの全身が光を放った。
腕組みを解いて眉を潜めたリョウマは、光に包まれたと思ったら、菫の体の中に吸い込まれて行った。
「……あんなのが義兄になるのかよ」
菫の中に取り込まれたリョウマに毒づくと、ふと菫が苦しそうな表情になった。
「悪いね、三文安。夢見術でゆっくり眠ってな。2度と俺たちの邪魔しないでね」
菫の目からたちまち涙が溢れ出し、うなされ始めた。セイは動きを止める。
「……え?」
「うっ……うっ……」
「なに? 泣きながら寝てるの?」
セイが菫を見下ろすと、涙がとめどなく流れていた。
「戦争……亡くなった人に……償い……」
戦争の夢を見ているんだ、とセイは目を見開いた。
涙が溢れて苦しそうにうなされている。
夢見術にかかって涙を流しながら眠る魔人は初めて見た、とセイは思った。
「弱すぎるだろ、この女……」
セイは忌々しそうに菫を見下ろす。
「……とにかく、顔合わせ終わるまでおとなしくしてて。終わったら術解いてあげるからさ。うるさい義兄もそれまで内部に閉じ込めておいてね」
冷たい声で言うと、セイはリョウマの部屋を出て、応接間へと向かった。
☆続く☆
「図星ね」
「違う。本が落ちただけだ」
「……マユラ様もいたんじゃない? これは推測ですが、あなたとマユラ様の関係は他とは少し違う。マユラ様が言えばおとなしく敵国騎士の妹との婚約にも応じる……そういう関係性」
「違う……」
「弱みを握られているか……それとも、セイ様がマユラ様に恋慕の情を抱いているか。どっちかな?」
「違う!」
セイは倒れた菫の元に大股で歩いてきて、胸ぐらを掴んだ。
「姫様とはいえ失礼なことを言うと容赦しない」
菫はセイの剣幕に驚いたが、再び笑顔を作る。
「じゃあ、教えて下さい。ルージュ様は23歳。センジュ様もそれくらいかな? 何故年齢的に釣合いそうなセンジュ様じゃなくて、末っ子のあなたが結婚相手なの?」
「知らないよ、マユラ様に聞けよ!」
あっ、と口をつぐんだセイを覗き込み、今度は心配そうに菫が見つめた。
「やはり、1番下の立場のセイ様はマユラ様に脅されていますね?」
「何でそんなことがわかるんだよ!」
「わかりますよ、わたしも兄弟の中で1番立場が下だもの」
「……」
「結婚が嫌なら、婚約を断るのはわたしがします。稲田一族別邸に居づらいなら、離れてもらうことも可能です。セイ様、婚約したいの? あなたの気持ちが知りたいの」
セイは菫を見つめていたが、やがて突き飛ばすと、六芒星を空中で描いた。緑色の光が放たれると、菫に向かって六芒星が飛んでくる。
「うるさいよ、三文安のくせに! ちょっと眠ってなよ」
菫は光を全身に受け、フッと意識が遠のいた。
セイが、呼吸を荒らげて気を失うように倒れ込んだ菫を見る。
静かに眠っているようだった。
セイは菫を横抱きにすると、近くにあったベッドへと運び、静かに寝かせた。
「……なんなの、この女。わざわざ赤騎士団長の屋敷に忍び込んでいたわけ? 怖いんだけど」
小さく疑問を口にすると、後ろから良く通る低い声が聞こえてきた。
「忍び込んでなどいない。俺が招いた」
セイが慌てて後ろを振り返ると、今顔合わせで見た婚約者の兄が扉に寄りかかって腕を組んでいた。
「ええと、リョウマ義兄さん……?」
「菫から離れろ」
静かな声色で言うリョウマに、ゾクリと背筋が凍ったセイはおとなしく従った。
「……この人、ただの天界国女中だよね? 赤騎士団長ともあろう方が、なぜ女中なんかを気にかけるの?」
菫が天界国に潜入していることは伏せてセイが言う。
「愛人候補だ。気軽に触るな」
「……え」
こいつ悪魔の恋人じゃないの? とセイは菫を見て疑問に思う。
「確かに……天界城には愛人制度があるって聞いたことあるけど……」
仮にも倭国王女なのに、そんなことしてるんだ、とセイは驚いた。
「ルージュと結婚する意図を言ってもらおうか、義弟よ」
「……別に……ルージュさんが可愛かったから、結婚してもいいかなって思っただけだよ」
リョウマはそれを聞いてフッと鼻で笑った。
「違うだろう。稲田一族を存続させるには、遺伝子を残さなければならない。そこで仮当主のマユラは、分家の子供3人の結婚相手を考えた。末っ子のお前は敵国の代々赤騎士団長の家系であるルージュの元へ。優性遺伝が欲しいのだろう? 子を成すことが真の目的だろう」
「え……」
「名門の陰陽師、稲田一族は遺伝子を重んじていると言っていたからな」
「え、誰が……?」
リョウマはポーカーフェイスのままジッとセイを見る。
「恐らく長男は菫を狙えとマユラに命令されていたのではないか? 吸血王と竜神女王の遺伝子を受け継いでいるからな」
「……えっ?」
「王家の遺伝子が稲田一族に加われば最強だろう。子を成せないマユラは、子孫繁栄を異常に気にしている。違うか?」
「! 知ってるの、この人が倭国王女だと?」
リョウマはフッと下を向いて笑った。
「安心しろ。天界国側にはバレていない。俺の胸に留めておいている」
「な、なぜ……? 敵国王女だぞ。普通竜神女王様みたいに捕虜にしたり、人質にするんじゃないの?」
セイが震えながらリョウマに聞いた。
リョウマはセイを見据えると片方の口角を上げてニヤリと笑う。
「……倭国王女だと秘密にする代わりに、俺の下僕として働かせている」
「……」
セイはリョウマを睨みつけた。
リョウマが考えていたのは、もし菫と心から通じていると倭国のみんなに知られたら、菫の立場が悪くなる可能性があることだ。
こう言っておけば、菫が倭国に帰っても立場が危ぶまれることはないはすだ、とリョウマは思った。
「……なるほどね。何も能力がなくて、王女のくせに国民のことを助けられない三文安だけど、容姿だけはいいもんね。王女とバレて体を使ってリョウマ義兄さんに取り入ったか」
反論したかったが、リョウマは我慢した。
「1つ間違っている。菫が俺に取り入ったのではない。俺が無理矢理菫を屈服させた。彼女に溺れた俺の負けかもしれないがな。ククッ」
なるべく悪役に見えるよう、リョウマは黒い感情を出して笑った。
「……三文安なんて、本当は竜神女王様に代わって天界国に捕虜にされるのがいいんだけどね。捕虜交換できないの?」
仮にも自国王女なのに、この男は菫に対して失礼なことばかり言うものだから、リョウマは先程からイライラしていた。
「倭国で評判最悪なんだよ、この女。国民の金を食いつぶすだけで、魔物退治すらできないし、大臣や重鎮にうるさく口だけは出すし。リョウマ義兄さん、吸血王様の代わりにこいつを殺してくれていたら良かったのに」
リョウマはそれを聞いて怒りの頂点に達した。
「ふざけるなよ……セイ、お前は稲田一族に翻弄された哀れな道具だ」
セイはリョウマを睨みつけた。
「俺は道具じゃない! 稲田一族の立派な一員だ!」
和紙を取り出し、六芒星の印を空中で描くとリョウマの方へ和紙を飛ばす。
リョウマの全身が光を放った。
腕組みを解いて眉を潜めたリョウマは、光に包まれたと思ったら、菫の体の中に吸い込まれて行った。
「……あんなのが義兄になるのかよ」
菫の中に取り込まれたリョウマに毒づくと、ふと菫が苦しそうな表情になった。
「悪いね、三文安。夢見術でゆっくり眠ってな。2度と俺たちの邪魔しないでね」
菫の目からたちまち涙が溢れ出し、うなされ始めた。セイは動きを止める。
「……え?」
「うっ……うっ……」
「なに? 泣きながら寝てるの?」
セイが菫を見下ろすと、涙がとめどなく流れていた。
「戦争……亡くなった人に……償い……」
戦争の夢を見ているんだ、とセイは目を見開いた。
涙が溢れて苦しそうにうなされている。
夢見術にかかって涙を流しながら眠る魔人は初めて見た、とセイは思った。
「弱すぎるだろ、この女……」
セイは忌々しそうに菫を見下ろす。
「……とにかく、顔合わせ終わるまでおとなしくしてて。終わったら術解いてあげるからさ。うるさい義兄もそれまで内部に閉じ込めておいてね」
冷たい声で言うと、セイはリョウマの部屋を出て、応接間へと向かった。
☆続く☆
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