Shame,on me

埴輪

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工藤くんはお疲れ気味

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 別れ際の水野さんの笑顔がしばらく見られないと思うと残念だ。

(まぁ、佐々木さんとも会わなくてすむし……)

 キラキラとした水野さんの笑顔の後にぼんやりとした佐々木さんの顔が浮かぶ。
 頭の中の佐々木さんがどんな顔をしていたのか確認するよりも先にその幻影を打ち消した。

(……いや、だ。しばらく会えないから困るんだよ)

 夜の繁華街を通ると、冷たい風が工藤の首筋を撫でた。 

「さむ……」

 何か羽織って来るべきだったと後悔しながらも、例のパーカーはもう着る気になれなかった。
 たぶん、きっと良くない何かが憑いている。
 不吉だ。

 信号待ちの間、ぼんやりとスマホを覗く。
 予想通り、横暴な姉からのメールが延々と流れていた。 
 暇人かと毒を吐きながらも工藤は自分があの姉に逆らえないことを自覚している。
 それに昨日は散々抗議したのだ。

『いい加減、俺の服勝手に持って行くのやめろよ!』
『いいじゃん、ちょっとぐらい。けち臭い男はモテないわよ~』
『ちょっとじゃねぇから言ってんだよ』

 思い出すだけでも腹が立つ。

『いいから私の鍵返してよ。あれがないと通勤が不便なんだから』
『返せって……』
『だってあのパーカーのポッケに入れといたのに、ないんだもん。つまり、あんたが落としたってことじゃん』
『意味わかんねぇよ、その理屈……』

 無視しようと思った。

『あーあー、無くなったって知ったら、彩香が悲しむだろうなー お揃いで買ったお守りがついてたのに…… あーあー、どっかの誰かさんが気づかずに落とすから。普通、気づかない? ポッケになんか入ってたらさ?』
『……』

 妹の名前を出されると弱い。

 それに、正直工藤は心当たりがあった。
 というか、可能性があるのはぐらいだ。

(佐々木さんの連絡先なんて知らないし…… 水野さんに聞く? いや、不自然すぎる)

 あの夜、酔ってヤってしまったあの夜。
 どう考えても可能性があるのはあの夜、佐々木さんの部屋だ。

 タイミングは限りなく最悪である。 

(直接行く? でも、万が一違ったら……)

 こうしてうんうん唸っても仕方がない。
 明日から連休だ。
 佐々木さんと職場で会おうとしても結構先になってしまう。

「……」

 昨日の夜から今日まで同じことをずっと考えていた。
 そのせいでいつも以上に体力精神力を消耗してしまった。

「……なんでこんな悩んでるんだろう」

 葛藤はある。
 が、正直もう真剣に考えるのが怠い。
 冷静になればなるほどなんだかアホらしくなる。

 面倒臭い。
 だるい。
 イライラする。

 あの夜からずっとそうだ。
 イライラもやもやする。

 なんで自分がこんなくだらないことに悩んでるのか。

(……姉貴も煩いし。さっさと片付ける、か)

 溜息を零しながら、工藤は漸く覚悟を決めた。

 基本、工藤は面倒くさいこと、嫌な事は先にやるタイプだ。

 よくよく考えればそんなに難しいことでもない。
 気まずさはあるが、逆を言えば難点はそれだけだ。
 佐々木さんがいるときに店に行って一言二言事情を説明すれば解決する。

(会うのはいいけど…… 周りに不審に思われたら最悪だ…… なんかいい言い訳……)

 葛藤は今もあるが、一度行動を決めると少しだけ心が軽くなったような気がした。

(……俺から会いに行ったら、びっくりするんだろうな)

 それとも迷惑そうにするのか。
 もしかしたら、まったくの無関心で事務的な対応をするかもしれない。

(……なんかムカつく) 

 ぼんやり脳裏に浮かんだいつも通りの佐々木さんの姿。

 心が一瞬でも軽くなったなんて、やはりただの錯覚かもしれない。
 今はもやもやしかしない。

 思わず舌打ちしてしまい、慌てて口を抑える。

 そのとき工藤の視界に佐々木さんが映った 

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