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佐々木さんと元カレ
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しおりを挟む気分は最悪だ。
「っ、もうちょい、離れてよ……」
酒気を帯びた人間特有の熱。
首筋にかかる湿った吐息と匂いにげんなりする。
「臭い……」
「うわー…… 今のはグサッて来た……」
しくしくとわざとらしく目を覆って泣き真似をする男、篠田に佐々木は本気でイラっとした。
本当ならもっと口汚く罵倒したい。
しかし、ちらっとバックミラー越しにこちらを見るタクシーの運転手の視線がどうも気になってしまい、佐々木はぼそぼそと文句を言ったり、隙あらば体重をかけて来ようとする篠田にちまちまと抵抗することしかできなかった。
タクシー代はもちろん篠田持ちだ。
割高となったタクシー代を思えば、どっかそこら辺にあるホテルや漫画喫茶に一晩泊まった方が絶対にいいのに。
(清水くんとか、他の奴に頼ればいいのに……)
結局なんだかんだそこそこ集まり、そこそこ盛り上がったらしいプチ同窓会。
途中から隣りの酔った篠田に絡まれてしまい、気づいたらお開きとなっていた。
そのまま二次会に参加するらしいメンバーから逃げようとした佐々木はあっさり縁起の悪い男に捕まり、当然のように他のメンバーに見送られてしまった。
(完全に誤解されている…… 気遣われている……)
別れ際の清水くんの晴れやかな笑顔。
何をどう勘違いしているのか知らないが、佐々木とこの迷惑な男の関係はとっくのとうに終わっている。
(こいつ、絶対になんか清水くん達に言ったな)
ぞわぞわするような手つきで触って来ようとする篠田の手の甲をつねる。
「いてっ」
その声にまた運転手の視線を感じた。
(最悪だ……)
まるで節操のないバカップルを見るような……
そんな不躾な視線。
それがとても恥ずかしく、情けない。
ただの被害妄想かもしれないが。
最悪だ、最低だ、もう嫌だ、と散々内心、そして口にも出したが無情にもタクシーは佐々木の住むアパート前で止まった。
「へぇー…… ここに住んでんだ」
そんな佐々木の嫌々な態度などまったくちっとも気にせず、篠田は大人しく図々しく佐々木が鍵を出すのを待った。
「……嘘つき」
「あ?」
「酔ってるとか、もう歩けないとか、絶対嘘でしょ」
「嘘? 俺が?」
じとーとした目で篠田を睨む。
頬はまだほんのり赤いが、貼り付けたような笑みを浮かべた男の目は軽薄に歪んでいた。
さっきのへにゃへにゃとした歩きやぐだぐだした口調が嘘のように今ははっきりしている。
はっきりと人を舐めたような、とにかくムカつく態度をしている。
「まっさかー 俺、嘘なんかつかねぇよ」
「それがもう既に嘘じゃん」
散々嘘を付いてきた奴が。
どの口が言うのか。
脳裏に浮かぶ、かつては恋人だった男につかれた最低最悪な嘘の数々。
嘘をつかれたというよりも騙されたというべきか。
約束を破られたというのか、誤魔化されたというべきか。
「相変わらず可愛くねーな、そういうとこ」
昔を思い出して自然と強張ってしまった顔。
どうやらなかなかに不細工な面構えとなっていたようだ。
「嫌ならもっと本気で拒否れよ」
「してるよ。本気で嫌だって何回も言った」
むにっと頬を抓って来る篠田の手を振り払う。
この男は昔からそうだ。
「それこそ嘘だろ」
「嘘じゃ、」
昔からそうなのだ。
「嘘つけ」
嘘が上手いと見せかけて、本当はすごく雑。
悪気もなく人を雑に扱う。
「本気で嫌がってないくせに」
そんな雑な男に佐々木は散々引っかかったのだ。
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