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番外編《その①》
秋「ろく」
しおりを挟むいそいそとノートを鞄にしまいながら、あゆはなんとも気持ちの悪い思いを抱いていた。
(うっ、なんだろう…… この敗北感……)
後ろで敗者のくせにもう既に立ち直った秋がポジティブに笑っている。
今だけ秋の暢気さが羨ましい。
「でも、良かったです! また、苑子先輩の意外な一面が分かって」
「意外って…… そんな意外?」
ふぁーと欠伸をしながらあゆに突撃されたせいで地味に痛い背中を摩る苑子。
「いや、今ならアプリとかあるけど、結構レトロじゃない?」
「そうそう」
審査員を止めたのんのん達が漸く起き出した苑子に構いに行く。
「いつからやってたの?」
「んー…… しょーがくせい?」
首を回しながら、苑子が淡々と呟く。
たぶん、まだ寝ぼけている。
「なんか、やたらと古いゲーム持ってる奴がいて、」
何故だろう。
あゆは思わずドキっとした。
妙にそわそわする。
「すっごい、負けず嫌いで、毎回対戦挑まれて……」
「あれって対戦できるんですか?」
「あんま覚えてないけど……」
素朴な秋の問いに苑子は口元を緩ませる。
「とにかく、そいつを悔しがらせるのが楽しくて、」
だから、今でも好き。
苑子の何気ない最後の一言に、あゆは聞いてはいけないものを聞いてしまったような、もうなんかよく分からない、胸を掻きむしりたくなるような何かを感じたが、言葉にすることは最後までできなかった。
「苑子先輩らしいですね」
上機嫌な秋が頬を染める。
「いいなー」
苑子の鞄を持ちながら、秋は心底羨ましそうに嘆いた。
「そいつと代わりてぇ~」
「ふ、なにそれ」
くすっと苑子が笑う。
「本当、秋くんって変態だよね」
*
ふにゃっと、苑子にでれでれとする秋にあゆはそれ以降あまりムカつかなくなった。
愛の力を証明したから余裕が出来たんだろうと友人達は適当に言うが、あゆは違うと断言できる。
「なら! 今度は俺ともやりましょうよ、テトリ〇!」
じゃあ、どうして?と聞かれても、上手く説明することはできない。
できないったら、できない。
* *
そういえばさっきあゆに秋のどこがいいのかと聞かれたなと、苑子はうとうと今にも寝そうな意識でぼんやり思い出す。
(……やっぱ、顔、だよね)
顔だ。
結局、秋の性格だとか苑子への愛の強さとかよりも苑子は秋の顔がタイプなんだと思う。
顔というよりも表情がぐっと来る。
(うん…… たまにうざいけど…… まだ童貞臭さ抜けないけど……)
歯を食いしばって、今にも襲い掛かって来そうな表情を浮かべて。
苦しそうに苑子を睨むようにして我慢する秋はとても惨めで哀れで、狂暴だ。
あとちょっと押せばぷちっと理性が切れて苑子を殺しちゃいそうな表情を秋は一瞬だけ浮かべる。
それは本当に一瞬で、すぐに秋は泣きそうな情けない顔をして苑子の身体を労わるのだ。
苑子は秋が浮かべるその一瞬の表情を気に入っている。
男としてのプライドをズタズタにされて悔しくて、できれば苑子を滅茶苦茶にしたいと思っているくせに、必死に耐えようとするときの秋の顔はとてもいい。
そういう男の顔が一番苑子をゾクゾクさせるのだ。
我慢強い男が好き。
そういう男を揶揄ったり、挑発したりするのは愉しい。
苑子の嗜虐心をとてもとても気持ち良く愛撫してくれるから。
(だから……)
だから、今の秋くんは合格。
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