ごめん、もう食べちゃった

埴輪

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番外編《その②》

秋「……ぐすん」

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 苑子の唇の柔らかさと弾力を秋はよく知っている。
 冬になると唇を舐めてしまう苑子はこの時期リップクリームを何度も塗り直していた。
 甘い匂いがするリップクリームや、たまにグロスも。
 ぷっくりとした下唇に薄めの上唇と、苑子の唇はまるで上等な人形のように整っている。

 薄ら笑いや、小馬鹿にしたような蔑み。
 苑子の口角が上がるたびに毒が広がる。
 それでも初々しいチェリー色の唇をどうにかしたいと思う者は後を絶たない。

 そんな、魅惑の唇がちゅっとキスを求めるようにピンクの半透明のものを銜える。

ちゅっ……

 苑子が銜えたのは、俗にいう「精液だまり」。
 まだ本来の形に広がっていないピンクのコンドームの先っちょは、赤ん坊のおしゃぶりに少しだけ似ていると秋は思う。
 苑子のどこかあどけなくも見える唇が悪戯っぽくちゅくちゅくぱくぱくと唇でその先っちょを食む。
 決して歯が当たらないように気をつけながら。

「ん……」
「そ、苑子…… せんぱい?」

 苑子にお願いされた通りに既にパンツも脱いだ。
 その股間に顔を埋めていた苑子が秋を見上げる。
 苑子の動きに合わせてつやつやさらさらな黒髪が秋の太ももを撫でた。
  
 秋に見せつけるように苑子はおしゃぶりをしゃぶるようにちゅぱっと音を立てる。

 キスを強請るような表情、唇。
 苑子の口が銜えているのはピンクのコンドームである。

 半透明のピンクの膜に覆われた唇。
 
ちゅっっ、

 苑子の唇が蕾のように萎み、

ぱっ♡

 下品な音を立てて、花開く。

 その卑猥さは、まさに犯罪だ。

「ッ!? せ、先輩、それっ……ッ」

 ぱくぱくと無邪気な子供のように秋を煽り、そして苑子は唇でコンドームを銜えたまま、秋の亀頭にキスをする。
 
「はっ……っ」

 ぞわぞわっと。
 もう既に慣れたゴムの感触。
 その名の通り非常に薄いピンクの膜から伝わる苑子の柔らかな唇の熱。
 大げさなほど秋の下半身、太ももが痙攣し、自制がなければそのまま暴発してしまうだろう。

「ヤバ……ッ、俺、ちょっ…… っ、!?」

 秋を煽る苑子は本当に罪な存在だ。

「んっ」

ちゅ、ちゅぅ

 不思議なことに、秋の身体は熱くなるどころか、全身凍ったように冷たくなった。
 それこそ、凍傷になりそうなほど。
 特に脳みそと下半身のある一点の感覚はもう分からないほどだ。
 ただただ、心臓の爆音が煩く、そして苑子の髪が秋の肌を擽るときだけ火傷したような熱を持つのだ。

 秋は知っている。
 これは、前兆だ。

 どうせ情けなく氷のように固まる肉体もその内嫌でも沸き上がる。
 いつものように、沸騰した血流に支配されるのだ。

「ぁ、そ、そのこ……っ せ、ぱ、ぃ……ッ」

 苑子の唇が、その赤い粘膜が薄いピンク越しに秋の性器を、ペニスを、亀頭をゆっくりと包み、ぱくっと口の中に……

 興奮で可笑しくなる。

「んっ、あひくん…… おーげひゃだよ」

 口が疲れたのか、一休みとばかりに秋のペニスの根元を掴み、ゴム越しに亀頭を銜えたままの苑子がもごもごと飽きれたように秋を見つめる。
 もちろん上目遣いでだ。
 
「かわいー……」
「んー?」
「……じ、じゃなくてッ、俺、もう……! こんな、」

 長く伸びた髪を耳元にかけながら、苑子が分かり切ったことを顔を真っ赤にした秋に問いかける。
 もちろん銜えたまま。

「うれひく、ない?」

 哀し気に下がった眉。
 けど、秋は知っている。
 苑子の潤んだ瞳がニヤニヤと愉快で仕方がないと言わんばかりに輝いていることを。

「う、うれし、い……です」

 余裕のない擦れた声。
 苦し気に呻きながら、掌に爪を立てながら苑子にこくこくと頷く秋はとてもよく訓練されている。

 今日も秋の恋人は意地悪だ。

 そんな秋の反応に気を良くしたのか、苑子がぱっと口を放す。

「ぁ……」

 今度は名残惜し気な声が無意識で漏れてしまった秋をくすくす笑い、そして根元を両手でしっかり掴みながら、苑子はじーっと秋の顔を見つめた。
 秋の視線を受け止めながら、小さくも器用に動く舌を見せつける。

「せ、せん、ぱ……いッ っはぁ、」

 亀頭にだけちょこんと被せられた状態のゴムの淵をちろちろと舌先で一周し、愉しそうに唇でそのピンクの端を小さく、少しずつ引っ張って行く。
 ここまですれば嫌でも苑子の言う「いいこと」の目的が分かる。
 苑子の息がペニスに当たるたびに、唇がじりじりと表面を舐めるたびに、大事な大事な自分の神様が口を使って秋のペニスにコンドームを装着させているんだと、現実に戻るたびに秋はなんとも言えない背徳感と高揚感と強すぎる飢えを自覚してしまう。

「は、はは……っ」

 思わず、笑ってしまうほど、はっきりと。
 
 汗が背中を伝う。
 これは、あくまで前準備に過ぎない。
 は、これからなのだ。

 もう口の中はカラカラなのに、一体何度唾を呑み込んだだろう。

「え、ろ……ッ」

 もう、それが一番の感想だ。

 そんな秋の本音に、苑子は笑った。
 どこかほっとしたようにも見えたのは、きっと気のせいではない。

(先輩、エロ過ぎ……)

 気のせいじゃなかったらいいなーっとぶちぶちと理性が千切れていく音を聞きながら秋は思う。

(……誰だよ、)

 背徳感と高揚感と、飢え。

、仕込まれたんだよ)

 それから、嫉妬。

 セックスでこれほど興奮するスパイスはない。

 

* 


 期待に胸をときめかせ、苑子からのチョコ、もしくはプレゼントを秋は健気に待っていた。
 プレゼントがなくてもいい。
 たった一言、「おめでとう」の言葉さえあれば秋は気持ち良く大人の階段を一歩上がっただろう。

 そんな涙ぐましい秋の期待を苑子は見事に裏切った。

 普段は何かと突っかかって来る苑子の自称親友が軽く同情するぐらいに秋は落ち込んだ。
 せっかく、ほんの短い間でも苑子と同い年になれると高揚していた秋のショックは深い。
 しかし、心のどこかで苑子らしいとも思っていた。

「もう、いい加減泣き止んでよ」

 それに秋は知っている。
 
「ごめんってば…… ねぇ、秋くん……? 今回は本当に悪いことしちゃったなーって反省してる」

 苑子はとても律儀なのだ。
 
「ね……? いいことしてあげるからさ」

 だから、しくしくと泣きながら、よしよしと珍しくも謝って来る苑子ににやけそうになるのを必死に耐えた。

「もう、許して?」

 はい。
 許します。

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