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1章 出逢い
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「ーーーーっ⁉︎」
突如として目の前に現れた金の双眸に恐怖心が一気に駆り立てられ、一瞬のうちに現実世界へと意識が舞い戻ってきた。
僕は高鳴る鼓動をそのままに急ぎ辺りを見渡すと、目の前にはなんの変哲も無い電車内の光景がただ広がっているだけだった。
「…………」
巨大な金の双眸に抱いた不安と恐怖心から静まりかえったこの車内で、いきなり大声を出して飛び起きずに済んだのが何よりの幸運だ。
僕は窓の外にはびこる相変わらずの闇を眺めながら、人知れず安堵の表情を浮かべた。
だが、
《木浦木ー。木浦木です。お降りの際はお忘れ物にご注意ください》
車内のスピーカーから聞こえてきた音声で、この駅が僕がいつも乗り降りしている駅であることにようやく気がついた。
「うわっととと!」
僕は慌てて電車から駆け降り改札を抜け、実家へと向かって駅を背にして歩きだした。
駅からほんの少し歩いただけで、辺りはコンビニの明かりひとつ無い寂しい田舎町の風景に早変わりしてしまった。
せめてもの情けなのか歩道の脇に等間隔で設けられた古い街灯の光が、ぼんやりと僕の歩むべき道を闇の中に浮かび上がらせている。
ーーーーンニャオ。
と、
夢の中で聞いた鳴き声が脳裏に蘇ってきた。
まったく可愛げのない図太い鳴き声。
大きく見開かれた金色の双眸。
もし仮にあの巨大な猫が夢でなく本物だとしたら、僕なんかひと口で食べられてしまうだろう。
そう考えると僕の背中にぞくりと冷たい感覚が走った。
とはいえ、それと同時にあの猫には感謝もしていた。
だってよくよく考えてみれば、あの夢のお陰で僕は自分が降りるべき駅を通り過ぎずに済んだのだから。
そんな事をぼんやりと考えながら薄暗い歩道を歩いていると、傘をリズム良く叩く雨音がだんだん大きく激しくなってきた。
雨に急かされ、自然と歩くスピードも速まる。
ほどなくして、一昔前にはさぞ活気付いていたのだろう古い商店街へと差し掛かった。
金物屋、青果店、飲食店など古い商店の横を通り過ぎるが、立ち並ぶシャッターはどれも錆びつき死んだように閉ざされている。
そんな寂しい景色の中、ぼんやりとした光をもたらすのは等間隔で設置された古い街灯だけだ。
そんな街灯のひとつが不規則に点滅を繰り返している事に気が付いた。
点滅を繰り返す街灯の真下。そこには小さなダンボール箱が置かれていた。
僕はそのダンボール箱をぼんやりと眺めながら歩いた。
ダンボール箱のすぐ近くまで歩み寄ると、箱の側面には《じろうイチゴ園》の文字があった。
そのダンボール箱の中には空を覆う闇の一部が零れ落ちてきたのかと思うほど、真っ黒な物体が収まっていた。
箱の中で黒い物体がもぞもぞと動き出す。
そのままじっと観察していると、やがて黒い物体の一部が持ち上がった。
そこに現れたのはふたつの金色の目と猫耳だった。
どうやらこの黒い物体は黒猫のようである。
「ーーーーンニャオ」
図太い声でそんな風に鳴いた。
黒猫は雨に濡れて毛が逆立っており、見ようによってはハリネズミのようにも見える。
いまどき珍しい捨て猫だろうか?
黒猫が身体をふるると震わせると、いくつもの細かい水しぶきが勢いよく飛び散った。
それに伴い黒猫の毛並みは更に激しく逆立ち、まるでボス猫の風貌となった。
「……ふふっ」
そんなボス猫を見下ろしているとついつい口元が緩んでしまい、僕は思わずボス猫が収まっているダンボール箱の前に屈み込んだ。
「ーーーーンニャオ」
ボス猫は金色の目で僕を見ながら、可愛げのない図太い鳴き声をあげる。
「ーーーーっ⁉︎」
と、僕はそこで思わず動揺してしまった。
だってーーーー
今、目の前にある光景はまさに先ほど夢で見たものと全くの同じものだったからだ。
突如として目の前に現れた金の双眸に恐怖心が一気に駆り立てられ、一瞬のうちに現実世界へと意識が舞い戻ってきた。
僕は高鳴る鼓動をそのままに急ぎ辺りを見渡すと、目の前にはなんの変哲も無い電車内の光景がただ広がっているだけだった。
「…………」
巨大な金の双眸に抱いた不安と恐怖心から静まりかえったこの車内で、いきなり大声を出して飛び起きずに済んだのが何よりの幸運だ。
僕は窓の外にはびこる相変わらずの闇を眺めながら、人知れず安堵の表情を浮かべた。
だが、
《木浦木ー。木浦木です。お降りの際はお忘れ物にご注意ください》
車内のスピーカーから聞こえてきた音声で、この駅が僕がいつも乗り降りしている駅であることにようやく気がついた。
「うわっととと!」
僕は慌てて電車から駆け降り改札を抜け、実家へと向かって駅を背にして歩きだした。
駅からほんの少し歩いただけで、辺りはコンビニの明かりひとつ無い寂しい田舎町の風景に早変わりしてしまった。
せめてもの情けなのか歩道の脇に等間隔で設けられた古い街灯の光が、ぼんやりと僕の歩むべき道を闇の中に浮かび上がらせている。
ーーーーンニャオ。
と、
夢の中で聞いた鳴き声が脳裏に蘇ってきた。
まったく可愛げのない図太い鳴き声。
大きく見開かれた金色の双眸。
もし仮にあの巨大な猫が夢でなく本物だとしたら、僕なんかひと口で食べられてしまうだろう。
そう考えると僕の背中にぞくりと冷たい感覚が走った。
とはいえ、それと同時にあの猫には感謝もしていた。
だってよくよく考えてみれば、あの夢のお陰で僕は自分が降りるべき駅を通り過ぎずに済んだのだから。
そんな事をぼんやりと考えながら薄暗い歩道を歩いていると、傘をリズム良く叩く雨音がだんだん大きく激しくなってきた。
雨に急かされ、自然と歩くスピードも速まる。
ほどなくして、一昔前にはさぞ活気付いていたのだろう古い商店街へと差し掛かった。
金物屋、青果店、飲食店など古い商店の横を通り過ぎるが、立ち並ぶシャッターはどれも錆びつき死んだように閉ざされている。
そんな寂しい景色の中、ぼんやりとした光をもたらすのは等間隔で設置された古い街灯だけだ。
そんな街灯のひとつが不規則に点滅を繰り返している事に気が付いた。
点滅を繰り返す街灯の真下。そこには小さなダンボール箱が置かれていた。
僕はそのダンボール箱をぼんやりと眺めながら歩いた。
ダンボール箱のすぐ近くまで歩み寄ると、箱の側面には《じろうイチゴ園》の文字があった。
そのダンボール箱の中には空を覆う闇の一部が零れ落ちてきたのかと思うほど、真っ黒な物体が収まっていた。
箱の中で黒い物体がもぞもぞと動き出す。
そのままじっと観察していると、やがて黒い物体の一部が持ち上がった。
そこに現れたのはふたつの金色の目と猫耳だった。
どうやらこの黒い物体は黒猫のようである。
「ーーーーンニャオ」
図太い声でそんな風に鳴いた。
黒猫は雨に濡れて毛が逆立っており、見ようによってはハリネズミのようにも見える。
いまどき珍しい捨て猫だろうか?
黒猫が身体をふるると震わせると、いくつもの細かい水しぶきが勢いよく飛び散った。
それに伴い黒猫の毛並みは更に激しく逆立ち、まるでボス猫の風貌となった。
「……ふふっ」
そんなボス猫を見下ろしているとついつい口元が緩んでしまい、僕は思わずボス猫が収まっているダンボール箱の前に屈み込んだ。
「ーーーーンニャオ」
ボス猫は金色の目で僕を見ながら、可愛げのない図太い鳴き声をあげる。
「ーーーーっ⁉︎」
と、僕はそこで思わず動揺してしまった。
だってーーーー
今、目の前にある光景はまさに先ほど夢で見たものと全くの同じものだったからだ。
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