遊牧の花嫁

瀬尾 碧

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1巻

1-2

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 ――あ。もしかして今回の原因、私……? 
 今からでも閉めようかと、わたわたと天井を指差して伝える私に、何故かアーディルはゆるく首を振り、明後日の方向を向きながらぼそりとつぶやく。

「……それに、声だけじゃないと思うぞ。判断材料は」

 あ……? それはつまり、何ですか。
 キスマークの一つでもつけろということですか? 
 喧嘩上等の長ランでも着込みたい気分でブツブツつぶやく私に、殊更ことさらひそめられたアーディルのささやきが、耳朶じだをくすぐる。

「なぁ。ついでに聞くが……。お前、男性経験はあるのか?」

 お互いいつもだったら、絶対しそうもない会話。
 これに私の未来がかかっているというんだから、世も末だ。
 アーディルが話す度に密着した身体で受ける振動を意識の隅に追いやり、無理矢理おどけて答える。

「だって私、二十四歳だよ?」
「……お前それ、外では絶対隠しておけよ。みんなに十五、六程度としか思われてないから、同年代の俺との結婚が許されたんだからな」

 うぐぐぐぐ。わかってますってば! 
 アーディルもそんな嫌そうな顔しないでよ。年増で悪かったわね! 
 ああ。素面しらふじゃ到底話し続けられそうにない。

「アーディル、私も飲みたい。素面しらふじゃキツイ」
「お前、酒まで飲めるのか」

 呆れたような声に、ちょっと意地悪な気持ちになって、問い返す。

「アーディルこそ、女性経験あるの?」

 遊牧民らしい鍛え上げられた男の身体に、知的で切れ長の瞳。すっと通った鼻筋と形の良い唇。
 女にガツガツしていないところと、少し物憂ものうげな雰囲気は、元の世界でもさぞかしモテるだろう。
 どこの世界も医者は高給取りだしね。
 けど、こちらの世界では、結婚前の男女が婚前交渉を結ぶのは難しい。
 実は女性経験ないだろうと踏んでるんだけど――? 
 あ。でも、まさか。

「もしかして、医者の勉強で王都に行った時に、美女と遊んだりしたことがあるわけ?」

 王都になら娼館もあるだろうし、遊牧生活よりは女性達の生活自由度も高そうだ。
『夜の生活をみんなに監視されていた』という、あまりに居たたまれない状況に動揺して、まだお酒も飲んでないのに、いつもなら絶対言わないようなセリフが口をついて出る。
 アーディルはそんな私をちらりと一瞥いちべつすると、重い溜息をひとつ。諦めたように顔をゆがめて、銀色のコップに満たしたお酒を、私の手の中に落としてくれる。
 おっとっと。危ないじゃない。

「――俺は別に、今まで異性経験がないとは言っていない」

 喜び勇んで乳白色のお酒に口をつけた私は、その発言に思いっきりむせ返る。

「あ~……。そうなんだ」

 動揺したことに自分で動揺して、右へ左へと目が泳ぎそうになるのを必死に食い止める。
 そんな様子を間近にいるアーディルに見られたくなくて、思わずくっと一気にコップをかたむけた。

「おい、お前。そんなに一気に」

 慌てた声。一気に身体の中を巡った強いアルコールに一瞬くらりとして、アーディルに寄りかかる。

「結構強い。これ」

 ぺろりと唇についたお酒をなめると、軽く頬をつねられた。い、痛い。

「当たり前だ。そんな無茶な飲み方して、二日酔いになっても薬は出さんぞ」
「けち」

 小さく文句を言うと、今度はゆっくり、残ったお酒に口をつける。

「でも、本当……どうしようね」

 背中をもたせかけたまま、独り言のようにつぶやいた言葉に、アーディルからの返事はない。
 ただ、器用にも片手で生薬しょうやくを作っていたアーディルが、薬包紙の上に無言でそれを広げる。
 ざらりとした大きな手が細やかな作業を続けるのを、私はぼんやりと見ていた。

「それ、何作ってるの?」
「これか? 家庭平和の薬……になるのか」
「かていへいわの薬?」

 意味が分からなくて問い返せば、さらりと「淫薬いんやくだな」と返される。

「つまり、夜のお薬?」

 何故、今このタイミングで作っているのだ。嫌な予感に、思わず背中を冷たいものが走る。

「え、何それ。まさか今から作るから、それを飲めとか言わないよね」

 慌てて身体を起こして、慎重に問いかける。

「これは男用だからな。お前がそのまま飲んでも意味がない。……それとも、俺が飲んでみるか?」

 いつもあまり感情を表に出さないアーディルが、少し声を低めてそう言った。

「いいいいい、いいえ! 結構です!」

 ぶんぶんと小声ながらも全力で拒否すれば、喉の奥で、くくっと笑われる。

「冗談だ」

 おのれ。からかったな。
 いつもはこんな冗談絶対言わないのに! 
 睨み付ける私に苦笑して、アーディルは更なる問題発言をさらりと返す。

「大体お前、月のものが終わったばかりだろう? そんな危険な状態の女なんて、子どもを産ませる気じゃなきゃ押し倒せるか」

 う、わあぁぁ~~! 
 酒の力も手伝って、かああっと耳まで赤くなる。恥ずかしさで、心臓はばくばく言いっぱなしだ。

「何で私の身体のリズム、わかってるのよっ」
「医者が患者の様子をておかないで、どうするんだ」

 思わず恨みを込めて、どすの利いた小さい声で詰問すれば、少し眉を寄せて平然と返すアーディル。
 相変わらず、ほんっっっきで、女性にプライバシーのない世界だなぁっ! 
 女のリズムを知ることにそっちが慣れていても、こっちが大丈夫じゃないんだい。
 赤くなったり青くなったり、思わず手で顔をパタパタ扇いでいると、アーディルがふいに顔を上げ、真顔で聞いてきた。

「お前、淫薬いんやくの調合と作用の仕方。――知っているか?」
「知らない。そんなお薬、一生お世話になる気はないし」

 きっぱり答える私はさすがにジト目だ。

「そうじゃない。今後も元の世界に戻る方法を探すなら、ある程度自活できる能力をつけておいた方が良い。特にお前は身体が弱い。俺が守ってやれるうちに、きちんとした薬学を身につけろ」

 さっきとは違った、真面目で真剣な顔。

「いつまでこの状態でいられるか……、俺にだって分からないんだ」

 その溜息は、先ほどのラキーブさんとの話し合いを思い出したからだろう。
 確かにアーディルは成人男性で、ジャラフィード一族の中でも一目いちもく置かれている存在。
 とはいえ、年長者の決定に勝手に逆らえるわけではない。最悪、族長が強硬決定してしまえば、私は王都に行くしかなくて。
 そう――。いつだってアーディルは、私の行く末を心配してくれる。
 そう思えば少し神妙な気持ちになって、彼の膝の上でこくりと小さくうなずいた。するとアーディルが再び口を開く。

「こちらの世界で、子どもができる、できないは重要だ。だから淫薬いんやくは高値で売買されるし、覚えておいて損はない」

 ふむふむ。突然始まった座学に、ノートを手元に寄せる。

「今俺が作っていたのが、もっとも流通数の多い淫薬いんやくだな。持ち運びしやすく、日持ちがして副作用も見られない」
「材料をそろえるのや製法は難しい?」
「材料には少し特殊なものもあるが、製法自体は難しくないな。それも、男性用の作り方さえ覚えておけば、大丈夫だ」

 そうなのか。腹筋が六つに割れているのが標準の、体力魔人の男性達に淫薬いんやくが必要だなんて、これっぽっちも感じないけどなぁ……
 どこの世界も、子作りに関する悩みは同じってことかしら。
 試しに聞いてみれば、血行を落ち着かせることで強すぎる性欲や興奮から来る怒りを抑制するような、淫薬いんやくとは真逆の作用を持つ抑制薬もあるんだとか。
 それがあったら、猪突猛進ちょとつもうしんの私の性格も治るかなぁ。再び聞けば、馬鹿なことを考えるなと一刀両断、呆れられた。
 比較的安価な淫薬いんやくと違い、抑制薬の原材料であるベルゼの枝は、なんと王侯貴族しか使わない金貨で取引されるんだって。それじゃ短気が治る前に、破産だ。破産。
 そんな軽口を叩きながらも、必死にペンを走らせる。

「今目の前で作ってたのでいいなら、多分私作れるよ。調合手順覚えたし」
「頼もしいな」
「でも、女性用のはどうするの?」

 お酒のせいでぼうっとしてきた頭を、軽く左右に振って聞く。
 アーディルは私に説明しながら片手で道具をしまい、薬包紙に包んだばかりの薬を、薬箱の中身の入っていない小さな引き出しの中に入れる。

「ああ。スミルの葉を濃い目に混ぜた軟膏なんこうに練り込むといいな。一般的には塗布が一番効き目があるとされているし、液体よりも保存が利くから売りやすい。……ただ、男性用の淫薬を作れば、客が自分達で女性用に転用するから、売れるのはもっぱら男性用だ」
「そうなの?」
「自分達でスミルの軟膏なんこうを作るのは難しいが、男性用の淫薬いんやくをスミル酒に混ぜれば女性に向けた使用にも問題はない。混ぜたらすぐに飲ませることにさえ注意すれば、それでも代用できる」

 そうなのか。

軟膏なんこうの作り方は言えるか?」

 もちろん。スミルの葉入りの軟膏なんこうなら、何度も作った。
 説明しようとして、自分の息が上がっていることに気がつく。
 軽く暴れたし、久々のアルコールで、回りが早かったのかもしれない……
 チェイサー(水)なしで、一気にあおったしね。
 仕方なく、うなずくことで覚えていると意思表示する。
 ちなみにスミル酒も、スミルの葉を使って作られる、緑がかった乳白色のお酒。ブランデーみたいに度数が結構強くて、少しクセがある。そう、今まさに私が飲んだような……

「――アーディル?」

 何故だか嫌な予感がして、ぞくりと背中が震える。
 この鳴りまない鼓動は、本当にアルコールのせい……だよね?
 ますますかすみがかかるようにぼうっとしていく頭で、必死に考える。
 鼓動の速さが、まるで危険を知らせるアラートのようだ。

「ね。今、作った薬。そこの引き出しにしまったよね」

 腰に回されたアーディルの手を、私の肩に触れているアーディルの胸板を、何故私はこんなに意識してしまうの……

「……そうだな」

 ぶるりと頭を振って意識を保とうとしても、触れ合うほど近くにいるアーディルの声が、何だかふわふわと遠くに聞こえる。

「アーディル、いつも、薬は絶対に切らさないように、してた、よね」

 息が、上手くできない。
 そういえば――

「私、帰ってくる前。薬箱、チェックして、たよ?」
「あぁ……」

 息が、耳朶じだにかかる。

「……ッ」

 それが、どうしてこんなにも、つらい。
 息が上がって耐え切れず、ぐったりとアーディルに身体を預ければ、その衝撃で硬い生地にれた肌が悲鳴を上げた。
 ――まさか。まさか。まさか。
 じわりと汗の浮いた腕を、自分自身で抱きしめる。
 たった今作った淫薬いんやくを入れるまで空になっていた引き出し。飲んだばかりのスミル酒。
 ぐるぐると回る世界に、もう自分が何を言っているかも分からない。一際大きく世界が回って、アーディルの整った顔とその向こうに幕屋の色鮮やかな天井が見える。

「……酒と薬のせいにしてしまえ」

 背中に当たる硬い床の感触と、しゅるりと解かれた首もとの布。
 最後までする気はないから安心しろ――
 その一言と共に、私の上げた小さな悲鳴は彼の唇に吸い取られた。


 周りの人間に声を聞かれているかもしれない。
 そんな状況下で行為を楽しめるほど、セックスの経験なんて積んでいない。
 そして、薬のせいで与えられる強い快楽にただ身をゆだねられるほど、全ての理性が飛んでいるわけでもなかった。
 結果。薬がもたらす、これ以上ないほどの快楽と、強い羞恥しゅうちと困惑と。
 そして声を出してはいけないという自制心がせめぎあい、ますます私の身体を高ぶらせる。
 良すぎて苦しい。そんな快感があるだなんて、今まで考えたこともなかった。


「……んっ……ぁ!」

 鎖骨さこつくぼみから首筋にかけてを、キスで濡れたアーディルの唇がで上げる。
 ただそれだけの行為が、悲鳴を上げてしまいそうなくらい強い刺激に感じて、思わず身をよじる。

「つ……っ!」

 小刻みに震えるままならない身体と、灼熱しゃくねつのような熱い吐息。
 下から上へ、外から内へ。素肌をう感覚から逃げようとしても、かえって大きくはだけた服の合わせから、胸元がき出しになって事態は悪くなるばかり。
 日に焼けた大きなてのひらと、その無骨な指の隙間からのぞく白い肌。触られてもいない胸のいただきが、自己主張するように赤く色づいているのがよく見える。

「ほんと――、まって……っ!」

 視覚的な淫靡いんびさと強い羞恥心しゅうちしんは混乱に拍車をかけ、私は荒く息を乱しながらも、なんとかアーディルの厚い胸板を押し返す。すると、その拍子。硬くなった桃色の先端が、アーディルの硬い毛織物の服にこすれて、甘くしびれるような感覚が走った。

「ひぅっ、……んッ!」

 何、これ……っ
 思わずれ出た声に愕然がくぜんとして、慌てててのひらを口に押し当て意識を保つ。
 なのに、そんな私の抵抗を嘲笑あざわらうかのように、彼の手は柔らかく形を変える膨らみを、ぐにぐにともてあそび始める。
 強引なのに優しくて、性急なのにゆるやかで。
 時に右の、時に左のつぼみ爪弾つまはじき、胸の中に押し込むように愛撫あいぶする。
 まるで甘いお菓子を食べるみたいに首筋をなぶられれば、濡れた音が一層いやらしい。
 お願いだから、もうめて。
 そう拒絶しようとしても、口かられ出るのはかすれた吐息が精一杯だ。

「は――、んんっ……っ!」

 目尻に溜まった涙を優しく吸っていたアーディルの唇が、そのままくちゅりと耳朶じだむ。元々弱い耳元への刺激に、腰の奥からぞくぞくとした感覚が突き上げる。一生懸命、唇を噛み締めてこらえようとしても、次々与えられる刺激になすすべがない。
 それでも何とか抵抗の言葉をつむごうとした瞬間。まるで狙っていたかのように、恥ずかしいほど硬くなった胸のとがりを、きゅっ、と突然つままれた。

「ん、あぁッ!」

 その鋭い刺激に耐え切れずに出た声は、何とか押し殺していた今までのものと違って、自分でもはっきりと分かるほどつやめいていて。
 もう、本気でやばい、よ……っ! 

「お……ねがい。っ……アーディル」

 焼けつくような快楽の合間。辛うじて残った理性と意識を必死でかき集めて、あえぐように言う。
 息もえに訴えても、涙でにごった視界では、アーディルがどんな顔をしてるか分からない。
 でも、このまま進んで良いはずがないよ――

「……も、だめ、だっ……て」

 食い込む爪が、ほんの一瞬、霧散むさんしそうな意識をかろうじて留まらせる。
 けれど。

「ね……っ?」
「……ッ!」

 同意のための一言に返されたのは、小さな舌打ちと聞いたことのない余裕のない声で。

「最後まで冷静でいてほしいなら、お前も協力しろ……っ」
「ひゃうっ!」

 突然彼の口に含まれた胸のいただきに、喉の奥から甲高い悲鳴がれる。
 硬くなった胸の先端を、アーディルは飴でもめるように軽く転がし、時に力強く舌先ではじいて、時に押しつぶすようにめ上げる。

「やあぁっ、ぁんん!」

 緩急かんきゅうつけながらの胸元の愛撫あいぶに、触られてもいない下腹部が重いうずきを生む。
 それに流されまいと、抵抗するように口元のこぶしを握り締めたけれど、あられもない声を上げ続けるだけしかできない。 

「ゃ、やう。くっ、ンん!」

 身体がとろけ落ちて行きそうな快楽に、最後の理性で必死にこぶしを噛む。
 がりりとした痛みが、最後の命綱いのちづな。それなのに――

「ぇ――?」

 呼吸を整える間もなく、うつぶせに身体を返されると、しゅるりという衣擦きぬずれの音と共に、視界がふさがれた。

「ふぁ……?」

 何が起きたか分からず、空転する思考。火照ほてったうなじに落とされた熱い唇の感覚。
 き出しになった背中に感じる夜気やきの冷たさでさえも快感にしかならないのに、突如。いきなり電流が走ったのかと錯覚するほど、強すぎる甘い刺激が身体を駆け抜ける。

「ひゃんっ!」

 思考がにぶり、視界もふさがれた状態では、それが敷物に胸の先端をこすり付けられたせいだと気づける余裕もない。ただその一際高い嬌声きょうせいに、アーディルは何を思ったのか。
 うつぶせにした背中に手を添えて、わざと私の身体を敷物に押し付けるように揺すり始めた。

「やあっ、あっ、っ! ……っ、ぅ、――んっ!」

 何度も優しく毛織物の敷物にこすり付けられて、じくじくとした痛みと快感に、もう荒地の夜の冷たさなんて感じ取れない。
 視界がふさがれれば、その他の感覚は否応いやおうなく増していく。
 うつ伏せにされた身体が、いつの間にか腰だけ高く上げられても、そしてそんな卑猥ひわいな体勢になっていることに気づいても、何もできない。
 ただ火のかたまりのようなこの身体を、どうして良いか分からなくて。

「アー、ディ……ル――っ」

 まるでそれが救いの呪文であるかのように、幾度も彼の名を呼ぶ。
 ――これ以上っ。これ以上刺激され続けたら、何か余計なことを口走ってしまいそうだよっ……
 先のよろこびを知っている身体がこれだけじゃ足りないと、もっともっとと貪欲どんよくに、熱くしたたるような切なさを強請ねだる。
 振り払ってもき上がるみだらな思考を、唇を噛み締め止めるけれど、理性は焼き切れる寸前で。
 けれど私の願いとは反対に。太股ふとももで上げていた彼のてのひらは容赦なく、らすようにゆっくりと内腿うちももから臀部でんぶへと回った。

「ふぁ……っ!」

 柔らかな双丘そうきゅうを、指先で直接でられる感触。その先を予感した身体が、びくびくと震える。
 肉体労働とは無縁の白く柔らかい肌を楽しむように、強く、優しく――遊ぶようにで上げ続けられれば、まだ触られてもいない秘所が、待ち望むようにずくんと強くうずいてしまう。

「リィナ……」

 無愛想とも言えるくらい無口なアーディルの、私を呼ぶかすれた声。
 自分の中で必死に抵抗していた何かが、その色香を含んだ声にふとゆるむ。すると、それを見計らっていたように、彼の長い指が蜜をたたえた秘所に、ゆっくりともぐり込んだ。

「ひあ、ぁぁんッ!」

 耳に響く、蜜があふれるくちゃりとしたみだらな音と、身体を駆け抜けるびりびりとした甘い快感。
 ただ指を入れられただけとは考えられないくらいの、強い衝撃が襲う。
 まるで口を閉じることを許さないと言うように、アーディルの指先が歯列を割り、私の舌先までもてあそぶ。ざらりとした指先の感触も、飲み下せない唾液があごを伝う感覚すら、悦楽に変じていく。

「ふ、ぅ……っ、やぁ。ンんっ」
「声を殺すな。声を我慢――するな」

 腰のくぼみから背筋に沿って落とされた唇に、声に、身体がぶるりと震える。
 薬の! 薬のせい――っ! 

「……薬の、せいだ」

 私の心を読んだかのような、腰に響く低いアーディルの声と、体内にもぐり込んだ長い指先。
 それがゆっくりと、最奥さいおうを引っかくように深く曲げられる。
 それだけで。たったそれだけの仕草なのに。

「はあっ、あ――ッ!!」

 男の指を待ち望んでいた身体は、呆気あっけなく達してしまった。
 ――薬のせいだ……
 こんなに呆気あっけなく、しかも内で達したことなんて今までない。
 荒い呼吸の合間。かすみがかった、ぼんやりした思考でそう思う。
 絶頂の余韻よいんと、薬のせいで更なる強い刺激を求めている、ままならない身体と。
 それでもこれで終わったのだと――ぐったりと力を抜く。
 なのに、そこを狙ったように、二本に増やされた指がぐぷりと一気に蜜壷に沈み込む。そうして内を押し広げるように、卑猥ひわいな音を立てながら、ばらばらに内壁をかき混ぜ始めた。

「え、あ、やっあッ、あん!」

 こんなに性急に幾度も追い詰められたら、意識が、身体が、追いつかない。
 なのに、いったばかりの秘所は、さらなる愉楽ゆらくを求めて彼の指を喜び勇んで受け入れる。

「っ、ぁあ……っ! まっ……てッ。んんっ!」

 いつの間にか視界をふさぐ布もなく。ただ彼の動き一つに、あられもない声を上げ続けることしかできない。
 何で。どうして、こうなったの……っ!! 
 気持ちも思考も置いてけぼりなのに、貪欲どんよくな身体が快感を集めようと彼の指を自然と締め付け、より一層濡れた音が部屋に響く。
 弱い所を攻められて、腰がびくびくねるのを止められない。どうして良いかわからなくて、無意識に彼の名を呼びながら脚を絡めて、幼子おさなごのように首を振り続ける。
 耳朶じだかする、不機嫌そうなうなり声と、小さな舌打ちの音。
 後ろから抱えられるような体勢だったのに、がくがくと震える片足を唐突に取られて、アーディルの肩に乗せられる。

「まっ……て! ァーディ……。やっ、んんンっ!」

 中に入れられた指が、ぐるりと内壁をこすり上げるのと同時に、涙でにごった視界が反転して、目尻に涙が流れる。
 そうして大きく開いた足を折り曲げるように抱えられれば、もはや視界にすら逃げ場がなくて。

「っ――……!」

 軽々足を押さえ込む腕も、ツンと自己主張している胸のいただきも、蜜にあふれる花芯かしんに埋め込まれた長い指先も。二人の肌色のコントラストすら、全てが恥ずかしくて死にそうになる。
 快感も羞恥しゅうちも、過ぎれば拷問ごうもんにすら近しい毒だよ――!!
 もうどうして良いのかわからない。けれどうるんだ瞳で弱く首を振れば、さっきまで伏せていたアーディルの黒い瞳と目が合った。

「アーディ……ル――」

 お願いだから勘弁して……そう言おうとして、逡巡しゅんじゅんしながら彼の名を呼ぶ。
 でもどうしても、こんな近くで快楽に染まった顔を見られることに耐えられなくて――
 結局。真っ赤に染まった顔を自分の肩にうずめるように顔を背け、ギュッと目をつぶって無理やり視線を外した。

「リィナ。お前――」

 微かに耳朶じだを打つ、こくりと喉が鳴る小さな音。しばらくの沈黙と、いらだたしげな溜息。

「……分かってないな」

 その瞳に情欲がともっているかも分からないまま、それでもその声に、少しだけ呆れたような色が乗っていたのが記憶に残る。
 名前を呼ばれるのは好きだ。薬草の匂いが染み付いたアーディルの匂いも。
 でも――っ。

「リィナ」

 再び名を呼ばれ、背けた顔の顎先あごさきを捕らえられれば、彼のまなざしは今や触れ合うほどに近い。
 その姿勢のまま、深く合わせられた口付けに、もう何も考えられなくなる。
 くたりと力の抜けた舌先を絡め取られ、何度もこすり合わせながら、歯列をなぞるようにめられて、喉の奥から吐息がれる。口腔こうこうなぶる湿った音と、焼け付くような吐息が甘く響く。

「はぁっ……ふッ」

 そうして、ようやっと離れた二人の間にかかる小さな銀の橋。
 キスの合間にいつしか再開された、ゆっくりとしたアーディルの指の動きも、私の声に合わせるように次第に激しさを増していく。部屋中に響くほどの濡れた音が、くちゅくちゃと淫猥いんわいに響き渡り続けた。

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