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18章 討伐
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門から程なく離れたところに、こんな王都から離れたところには通常あり得ないような立派な塔が見えた。
きっとあれが討伐塔だろう。
塔の入り口までやってくると、そこから森の入り口がよく見える。
テントがいくつか張ってあり、あそこにルーク様がいるのだろう。
鎧をつけた隊士たちが、せわしなく出入りをしている。
さすがに、最前線からは距離を置いたところに討伐塔があるのだなと思いながら、塔の扉を少し開けて中の様子を探った。
塔の一階部分は礼拝堂のような作りになっていて、そこでもまた、光の討伐の人たちが忙しなく動き回っている。
こそっと扉を開けてこの身を中に滑り込ませる。
ほっ。
誰も外部の人間が侵入したとは、気がついていないみたい。
それもそうか。
そのための隊服だったんだし。
そーっと行き交う光の討伐隊に紛れる。
何をしているのか、注意深く見ていると、どうやら礼拝堂の椅子を移動させて、入り口付近を広くしているようだった。
わたしも数人に混じっていくつもある長椅子を持ち上げる作業を手伝う。
すると、20代半ばくらいの歳の、金髪をキュッと結っている若い女の人が全体を見渡しながら声をあげた。
「わたしたちが座る部分はなるべく詰めて、祭壇の方へ寄せて。負傷兵が横に慣れるくらいのスペースを確保してください」
指示を出した女性は、あちこち見て回りながらそばに居る人に更に細かく指示を出していった。
あの人は光の討伐隊の隊長さんかな……。
あ、隊長はローゼリア様だったっけ。
わたしは椅子を運びながら近くの人に声を掛けた。
「ローゼリア様はどちらにいらっしゃるのでしょうね」
わたしと同じ光の隊服に身を包んだちょっと太めのオバさんは、呆れた目をしてわたしを見る。
「ローゼリア様がこんなに早く来るわけないでしょう。副隊長のミルテ様が全て整えた後で、ゆっくりいらっしゃるわ」
オバさんのその言葉に、近くに居た人達はうんうんと頷いていた。
ローゼリア様は、自分が所属する光の討伐隊でも評判が悪いようだ。
そして、あの金髪のひとが副隊長さんなんだな。
そこから先は、わたしが何か聞かなくても、光の討伐隊の人達がブツブツとローゼリア様について愚痴っていた。
どうやら、隊の人達も相当鬱憤が溜まっているらしい。
日々の訓練にはほとんど参加しない。
演習場に来てもパラソルの下で優雅にお茶を飲む。
ルーク様に授ける祝福は、ほとんど意味のない微々たる力のみ。
やっぱり、同じ光属性の人には、あの祝福が見せかけだけのものであるとわかっていたようだ。
「だから、この討伐は失敗するだろう」
最初に口火を切ったオバさんは、切なそうに目を細めた。
「わたしには、年頃の娘がいる。魔物から護るために、討伐隊に志願したのに、実態がわかればこんなことだなんて。どうせ魔物に殺されるなら、最期は家族と過ごしたかったと思うよ」
みんな思うことは同じなのだろう。
それを聞いていた周りの人達も、表情を暗くして口を閉じてしまった。
急に、パンパンと手を叩く音がして、落ち込んだ空気が、一瞬震える。
「ほら、そこは何をしているの。休まないでさっさと手を動かして」
副隊長のミルテ様がこちらに視線を向けていた。
金色の絹糸のような髪に菫色の瞳。
美人のミルテ様が凄むと迫力があり、わたしたちはそそくさと作業を再開した。
作業が終わったのは夕刻、陽も落ちる頃。
今、塔の中にいるものは一階に集められ、その場で3つに分けられた。
第一のグループは、このまま塔の上にある控室で仮眠を取ること。
第二のグループは、食事の支度をすること。
第三のグループは、礼拝堂の椅子に座り、祭壇にある女神像に祈りを捧げて魔力を貯めること。
わたしはなんとか人に紛れて第三のグループに入り込んだ。
点呼とか取られたらどうしようかと思っていたけど、外の隊と連絡を取っている人もいるため、細かくは確認されなかった。よかった。
グループごとに解散する前に、ミルテ様が声高らかに宣言した。
明朝、夜が明けると共に結界が解かれ、討伐が開始されると。
その夜は、グループごとに交代で食事を取ったり仮眠を取ったりして、夜を明かした。
結局、この日にローゼリア様が姿を見せることはなかったのだった。
きっとあれが討伐塔だろう。
塔の入り口までやってくると、そこから森の入り口がよく見える。
テントがいくつか張ってあり、あそこにルーク様がいるのだろう。
鎧をつけた隊士たちが、せわしなく出入りをしている。
さすがに、最前線からは距離を置いたところに討伐塔があるのだなと思いながら、塔の扉を少し開けて中の様子を探った。
塔の一階部分は礼拝堂のような作りになっていて、そこでもまた、光の討伐の人たちが忙しなく動き回っている。
こそっと扉を開けてこの身を中に滑り込ませる。
ほっ。
誰も外部の人間が侵入したとは、気がついていないみたい。
それもそうか。
そのための隊服だったんだし。
そーっと行き交う光の討伐隊に紛れる。
何をしているのか、注意深く見ていると、どうやら礼拝堂の椅子を移動させて、入り口付近を広くしているようだった。
わたしも数人に混じっていくつもある長椅子を持ち上げる作業を手伝う。
すると、20代半ばくらいの歳の、金髪をキュッと結っている若い女の人が全体を見渡しながら声をあげた。
「わたしたちが座る部分はなるべく詰めて、祭壇の方へ寄せて。負傷兵が横に慣れるくらいのスペースを確保してください」
指示を出した女性は、あちこち見て回りながらそばに居る人に更に細かく指示を出していった。
あの人は光の討伐隊の隊長さんかな……。
あ、隊長はローゼリア様だったっけ。
わたしは椅子を運びながら近くの人に声を掛けた。
「ローゼリア様はどちらにいらっしゃるのでしょうね」
わたしと同じ光の隊服に身を包んだちょっと太めのオバさんは、呆れた目をしてわたしを見る。
「ローゼリア様がこんなに早く来るわけないでしょう。副隊長のミルテ様が全て整えた後で、ゆっくりいらっしゃるわ」
オバさんのその言葉に、近くに居た人達はうんうんと頷いていた。
ローゼリア様は、自分が所属する光の討伐隊でも評判が悪いようだ。
そして、あの金髪のひとが副隊長さんなんだな。
そこから先は、わたしが何か聞かなくても、光の討伐隊の人達がブツブツとローゼリア様について愚痴っていた。
どうやら、隊の人達も相当鬱憤が溜まっているらしい。
日々の訓練にはほとんど参加しない。
演習場に来てもパラソルの下で優雅にお茶を飲む。
ルーク様に授ける祝福は、ほとんど意味のない微々たる力のみ。
やっぱり、同じ光属性の人には、あの祝福が見せかけだけのものであるとわかっていたようだ。
「だから、この討伐は失敗するだろう」
最初に口火を切ったオバさんは、切なそうに目を細めた。
「わたしには、年頃の娘がいる。魔物から護るために、討伐隊に志願したのに、実態がわかればこんなことだなんて。どうせ魔物に殺されるなら、最期は家族と過ごしたかったと思うよ」
みんな思うことは同じなのだろう。
それを聞いていた周りの人達も、表情を暗くして口を閉じてしまった。
急に、パンパンと手を叩く音がして、落ち込んだ空気が、一瞬震える。
「ほら、そこは何をしているの。休まないでさっさと手を動かして」
副隊長のミルテ様がこちらに視線を向けていた。
金色の絹糸のような髪に菫色の瞳。
美人のミルテ様が凄むと迫力があり、わたしたちはそそくさと作業を再開した。
作業が終わったのは夕刻、陽も落ちる頃。
今、塔の中にいるものは一階に集められ、その場で3つに分けられた。
第一のグループは、このまま塔の上にある控室で仮眠を取ること。
第二のグループは、食事の支度をすること。
第三のグループは、礼拝堂の椅子に座り、祭壇にある女神像に祈りを捧げて魔力を貯めること。
わたしはなんとか人に紛れて第三のグループに入り込んだ。
点呼とか取られたらどうしようかと思っていたけど、外の隊と連絡を取っている人もいるため、細かくは確認されなかった。よかった。
グループごとに解散する前に、ミルテ様が声高らかに宣言した。
明朝、夜が明けると共に結界が解かれ、討伐が開始されると。
その夜は、グループごとに交代で食事を取ったり仮眠を取ったりして、夜を明かした。
結局、この日にローゼリア様が姿を見せることはなかったのだった。
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