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1話 灰となりて地獄の門を開く【中】
黄昏
しおりを挟む「どうした遥人。何お前、走ってきたの?」
息を切らしながら現れた遥人を、俊亮は驚きつつも快く自らの部屋へ招き入れた。「ランニングしてたらちょうど通りがかって」と適当に誤魔化しながら、出されたオレンジジュースを一気に飲み干す。首元を汗が伝った。
「店の手伝い中だったんだろ、悪い、邪魔して」
「いいっていいって。むしろサボれてラッキー」
ニカッと笑う俊亮の顔に幾分かほっとした心地になる。そのまま2人で学校や部活のことなど、他愛のない話をした。
不意に会話が途切れた。その僅かな隙間に、遥人は言おうか言うまいか迷っていた言葉を思い切って差し込む。
「あのさ俊亮、この前言ってた、あれ……」
「うん?」
「借金作って夜逃げしたっていう親戚、いたろ。その人たちって結局……どうなったんだ?」
「え?知んない」
俊亮はあっけらかんと答えた。
「連絡も付かないみたいだし、元々そんなに付き合いなかったしなあ」
「そっか……」
遥人はがっくりと項垂れる。やはりそういう末路になってしまうものなのだろうか。
「……でも、どこかで元気にしてたらいいよな….」
意図せず弱気な呟きが漏れる。バリバリとポテチを齧っていた俊亮が奇妙なものでも見るかのように目を瞬かせた。
「何何、随分センチメンタルじゃんお前。何かあったのか?」
遥人は反射的に俯いた。いっそ俊亮に全部打ち明けてしまおうかという思いが頭を掠める。うちの親、どうも最近様子が変なんだ、借金かもしれない――――と。
逡巡していると、俊亮が訝しげに遥人の顔を覗き込んでくる。
「お袋さんと喧嘩でもしたとか」
ギクッと肩が跳ねた。コイツは妙に鋭いところがある。
「やあっぱり」
俊亮がニヤリとしたその時、外から大きな声が聞こえてきた。
「遥人ー!帰らなくていいのー?もう18時過ぎてるよー」
俊亮の母親だった。厨房に接客に、いつも溌剌と店を切り盛りする肝っ玉母ちゃんだ。調理の手を止めて様子を見にきたらしい。
「遥人、親と喧嘩中だから帰りづらいんだってさー」
「あらあ、そうなの」
「おい……!」
これまた大声で返す俊亮を慌てて止めて、ドアを開ける。たちまち中華の美味しそうな匂いが鼻に広がった。店も丁度忙しい時間帯だろう、もう帰らなければ。「急に押しかけてすみませんでした」と、俊亮の母に頭を下げると「早く仲直りできるといいねえ」と微笑まれた。
「でも、早く帰らないと心配するよ。それが親ってもん」
遥人はその言葉に小さく頷いた。慌ただしく靴を履いて俊亮の家を出る。外はすっかり夕焼けに包まれていた。
「気をつけて帰んなね。最近この辺り、夜のパトロールが増えてるんだって。物騒だからねえ」
「すぐそこだし、大丈夫です。気をつけます」
「また明日なー」
手を振りながら言う友人を、遥人はふと見つめた。何か言いたげなその様子に、俊亮が不思議そうな顔をして動きを止める。
俊亮、俺に何かあっても、それでも友達でいてくれる――――?
喉元まで出かかった言葉を呑み込み、遥人は「うん、また明日」と手を振った。俊亮は歯を見せて笑うと、今までよりいっそう大きく手を振り返す。
「ちゃんと仲直りしろよー!」
俊亮の声を背中で受け止めて、遥人は走り出した。来た時よりも少し緩やかな足取りで坂道を駆ける。徐々に深くなっていく夕闇が、辺りを少しずつ覆い始めていた。
*
人生とは穴ぼこの道を走り続けるようなものだ、とは誰の言葉だっただろう。
少しの踏み違えで容易く人は躓き、転び、そして暗闇の奥深くに呑み込まれていく。
知らなかった。注意深く、慎重に走ってさえいれば大丈夫だと、落ちることなんてないと、そう思っていた。突然背後から突き落とされる可能性など、考えたこともなかったのだ。
地獄の入り口はいつでも口を開けて、僕らを待っていたのに。
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